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3 空港で夜を明かす(バンコク、コロンボ、アジスアベバ)

 関空を朝飛び立ったエアインディア機は香港とデリーを経由して、深夜ムンバイに着陸した。市内に出るエアポートバスは朝までない。ここで夜明かししても怒られないだろうかと緊張しつつイミグレーションを出ると、インドの人もインド以外の人も薄暗いロビーに寛いで座り込んだり横になったりしていた。ああ怒られないんだ。わたしは、穏やかそうなインド人家族連れの傍にさりげなく陣取り、朝までうとうとした。
 それ以来、深夜着や早朝発のときは空港で寝るようになった。夜の知らない街に出るより安全だし、ゲストハウスを予約しておくという発想はなかったし。

 いちばん利用したのはバンコク、当時まだインターナショナルだったドンムアン空港だ。夜遅く着いたら朝まで、朝4時やら5時やらに出発するときは夕方から、仮眠を取った。同じようなバックパッカーはけっこういて、エアコンが比較的効いていない(タイのエアコンには温度調節機能がないんかというぐらい、屋内はどこも冷えきっている)、暖かく眠れる場所のベンチは人気があった。いつもすいている清潔なトイレの位置も把握していた。地下のファミリーマートでお菓子とVITA MILKも買えるし、バーガーキングの甘甘アイスコーヒーも楽しみだった。

 そのバンコクでスリランカ行きの航空券を買ったとき。
 やはり夜中に着いたコロンボの空港は狭く、現地の人たちのほかに大きなサーフボードを抱えた欧米人もいて、ベンチ争奪戦だった。ぎゅう詰めの小さなベンチに、バックパックを抱え背筋を伸ばして座ったまま、朝まで眠れず辛かった。

 バンコクからはエチオピアのアジスアベバにも飛んだ。そして真夜中に着いた。アフリカ大陸に降り立つのは初めてである。
 空港はリニューアルしたばかりだそうで、眩しいぐらい明るくてベンチもぴかぴかだった。どこまでもばーんと広くて、ドンムアンのように 物陰 のような場所がない。とりあえずベンチの端っこに座る。アジアの空港と違って、人々はずんずん外に出ていく。夜中なのに。青年が「タクシー?」と近づいてきた。ドライバーのようだ。うーん・・・いっそ市内に出た方がいいだろうか・・・いやしかしやっぱり初めての夜の街は怖い。「トゥモロウ モーニング」と告げると、青年は頷いて去っていった。

 いよいよ夜明かしするしかない。荷物を抱えて目を閉じる。怒られるかな。
 うとうとしていたら、ぽんぽんと肩を叩かれた。ああああっ追い出される。
 顔を上げると、空港職員のおじさんが微笑んで言った。
「誰もいないよ。こんなに広いんだから、横になって寝なさい」

 安堵と脱力。なんて懐が広いんだ、アジスアベバ、インターナショナル・エアポート。お礼を言って、ブランケット代わりのタイ布をひっぱり出し、バックパックを枕にしてベンチで身体を伸ばし、布をかぶって熟睡した。

 ざわざわと人の気配で目を覚ましたら外は明るかった。トイレで歯磨きと洗面を済ませて出ると、昨夜の職員がにこにこしていた。「グッド スリープ?」
いやそれはもう、イエス、サンキューベリー ベリーベリーマッチである。

 リュックを背負って出口に向かって歩き始めたら、前方から「マダーム!」と走り寄ってくる青年がいた。「モーニン!マダム!タクシー!」昨夜のドライバーだった。ひえ〜っ そういえば「明日の朝ね」などといい加減なことを言って追い払ったのに、申し訳ない。

 そんなわけで青年のタクシーで街の真ん中へ、目的のゲストハウスまでノープロブレムで運んでもらったアジスアベバであり、あんなに快適に眠らせてもらった空港はアジスアベバだけなのであった。


 


 


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