19 語学オタクの喜び ① 見る(インド系文字)
前にも書いたけど、英語が苦手である。じゃあ何が得意かというと何もない。
でも、語学オタクである。
習得して何かを成そうとか、旅先で現地語会話しようとか、そういうことじゃなく、ただ言葉を知ることが好きなのだな。お庭でお花を育てたり、犬を飼ったりするのと同じです。違うかもしれないけど。
で、旅した国の言葉はひととおり、あれば講座に通い、なければ独学でやってみた。目的は無いので飽きたら終わる。気まぐれに再開したりもする。
アジアの言葉は、まず文字が魅力的だ。
インド国内だけでもいくつもの公用語と文字がある。
ある旅の途中、チェンナイからコルカタまで列車で北上したときのこと。
各駅のホームには駅名が、英語、ヒンディー語、州の公用語、の3種類で書かれてあった。
チェンナイのあるタミルナドゥ州はまるっこい形が連なるタミル文字で、列車が北へ進むと、まるみが解けた感じのテルグ文字に変わった。2日目はまた少し変わって、たぶんオリヤー文字。そして3日目の朝、目覚めた最初の駅で、文字の上に横棒がくっついたベンガル文字を見た。ああ、もうすぐコルカタだ。
窓からの景色も田んぼから小麦畑になり、椰子の木の種類も変わっていた。
インド系文字が好きだ。自由に読み書きでいたらどんなに楽しいか。
アンコール・ワットの彫刻のひび割れのようなクメール文字。
ヒマラヤ山脈の岩肌のようなチベット文字。
いつも笑っているようなタイ文字、ラオ文字、などなどなど。
カンボジアのクメール文字は、しかし、あまりに難しく、しかも発音との関係が複雑でまったく歯が立たない。すぐ諦めた。
チベット文字もものすごく難しい。そして全然発音できない。音声教材のカセットテープを聴いても、なんというか、ヒマラヤの気象のような、凡夫の接近を拒否するかのような、難しい音・・・。降参。
ラオ語を習っていたことがある。講師はラオスからの留学生Pさん。このクラスのことはまた章を改めて書きたいが、とりあえず、そう、勉強した。けっこうがんばった。
インド系文字は基本的に子音と母音の組み合わせなので、文字をよくよく眺めて手で書いて、またよく眺めてまた書いて、を繰り返しているとなんとなく覚えてなんとなく読めるようになる。
が、しかし。
言葉は、文字は、使わないとあっというまに忘れる。嘘みたいに忘れる。無惨に忘れる。
これまでに、タイ文字、ビルマ文字、ベンガル文字、ヒンディー(デーヴァナーガリー)文字も練習したが、どれも中途半端なままである。練習が趣味だからいいんだけど。
しかしちょっと情けないので、大好きなインドの文字、どれかひとつでも完璧に覚えたい。
で、メジャーなヒンディー文字にするか、南インド派としてはタミル文字にするか、いや、いちばん好きなケララ州のマラヤラム文字にするか・・・選べないままテキストばかりが増えていく。
いずれも生きてるうちに習得するのは無理そうだから、来世、とりあえずインドに生まれるところから始めたい。