69 丈夫なお腹で旅すれば
旅先でお腹をこわしたことがない。
屋台で何やかや食べるし、生野菜も果物も食べる。ジュースやアイスコーヒーには氷を入れてもらう。
サトウキビジュース、スイカジュース、ライム水・・・・。
肉類を食べないので(宗教的な理由とかじゃなく、物心ついたときから嫌い)、食あたりの確率は低いと思う。生焼け、生煮えのお肉って危なそうですもんね。
けど、とにかく丈夫な胃に産んでくれて父さん母さんありがとうなのだった。
ミャンマーの麺屋台では、矢庭に素手で具材を混ぜ始めたので「おおっ」と引いたけど、恐る恐るいただいてみましたらすこぶる美味なだけで、何ごとも起こらなかった。
パキスタンでは氷河の氷のかき氷(シロップはマンゴーとイチゴ、何故か混ぜるので汚い色になる)を食べたけど、大丈夫だった。
カシュガルの市場のヤギ乳ヨーグルトは日当たりのいい場所にあったけど、これも大丈夫だった。ウイグルパンにつけて食べたらすごく美味しい。
一方、困るのは便秘である。若い頃から、そう。日本にいても旅先でも。
で、いつもバックパックに便秘薬を忍ばせて旅立つ。途中で飲み切ってしまったら、地元の薬局で買う。下剤・・・ラクサティブ、は、リコンファームとかストップオーバーなどと並ぶわたしの旅行用語なのだった。
そして、それは、マリーさん(夫)と南インドへ行ったときのこと。
持参した薬がなくなり、ラーメーシュワラムの小さな薬局でラクサティブを求めた。窓口の薬剤師(お爺さん)に「ベリーナチュラル」と勧められた、ボトル入りの粉末。
1日3回、水に溶かして服用、なのでちょっと面倒だが、ほんのりオレンジ風味で飲みやすい。そして何より、ベリーナチュラルによく効いた。魔法のパウダー。
ところが、ラーメーシュワラムからマドゥライへ移動したとき、大事なパウダーを宿に置き忘れてきたことに気がついた。ああ・・・アホや・・・無念・・・。
マドゥライの薬局に同じものはなく、一般的であろう白い錠剤を1週間分、処方してくれた。
インドに市販薬を自由に手に取れるドラッグストアのような店舗は無い。カウンターの薬剤師に症状を伝え、奥から必要な薬を必要な日数分、出してもらって、その分だけ支払う。
新たに購入した錠剤の効き目は今ひとつだった。今ひとつのまま、マドゥライを出てマハバリプラムに向かった。今ひとつなので、マハバリプラムでまた薬局を訪うた。
カウンターでマドゥライの白い錠剤を見せて、これよりストロングなのが欲しいと言うてみる。と、薬剤師は、オッケーって感じで店の奥から緑色のカプセルを出してきた。
「1日1回寝る前に、1錠から始めて、3錠まで飲んでいい。5日分ね」
どういう判断で5日分にするのか1週間分にするのかわからんが、告げられた金額を払う。とくだん高価でもない。
さっそくその夜、効きますようにと1錠。
が、翌日の効果はなかった。2晩目にまた1錠。翌朝、変わりなし。
うーん・・・1錠じゃ足りないんだな。朝食後にも3錠、飲んだ。
そうしたら。
以下は、効きすぎた顛末です。薬は用法・用量を守りましょう。
夜1錠、朝3錠、都合4錠飲んでしまったわけだが、体調はすこぶる良かった。
で、いつも通り朝はフルーツ、昼はマリーさんと地元食堂でミールスを摂り、アイスも食べようと二人でアイス屋に向かった。その途中、突然カラダが・・・・。
目の前がゆら〜と揺れて、血の気が引いて、たたたたたおれるうううううあたしアイス食べられへんわ部屋に帰るわああああああああああイヤな汗が噴き出してきたわあああああああああお腹ぐるぐる鳴ってきたああああああああああああああ
マリーさんに支えられながら、ミールスを食べた食堂に戻ってバスルームを借りる。中に欧米人カップルがいて、ハロー、ジャパニーズ?おお!ジャパン大好き!お茶しない?とかなんとか話しかけてくれるのは嬉しいんだけど、ああああああああたし余裕がない。ソーリー!個室に駆け込み、しばし出られず。
ドアの外でマリーさんが彼らに「彼女は具合悪いの?大丈夫?」かなんか尋ねられているようだが、人見知り激しいマリーさん、うまく対応しておるだろうか。
どうにかお腹が落ち着いて個室を出ると、カップルの姿は(当然だが)もうなく、「心配してくれてたみたい」とのことだった。すみません。
食堂の店員にもお詫びとお礼を告げて宿に帰った。
まだふらふらする。
が、シャワーを浴びて夕方まで眠ったら、回復した。
怖かった。
念のため、夕飯はパスして温かいチャイだけにしておこう。
いくつか残った緑色のカプセルは捨てた。
便秘になったら白い錠剤。
下剤は効かないぐらいのほうが(或いはベリーナチュラルなパウダーが)安心である。
次のエピソードにつづく