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27 中高年が行く南インド57泊59日③ (トリヴァンドラム→カニャクマリ)

 赤バナナ盗難事件によって急遽コヴァーラムを離れることになったわたしたち。
 とは言え、2週間まったり滞在してさらに延泊を検討していた矢先だったので、もしかしたら旅のカミサマに「さっさと移動せんかいっ」と背中を押されたのかもしれない。

 そんなわけで朝早くWILSONを出て、トリヴァンドラムのバススタンドへ向かう。マリーさんがダメージを受けていないか心配だ。もう帰る、とか言わないようにフォローせねば。
 「どこの国にも悪いヒトはおるし。むかしパキスタンの山奥でもな、スイカ買って川で冷やしてて、そろそろ冷えたかなあって取りに行ったら盗まれててん」
 果物ぐらいしか盗られたことがないのは幸いである。聞いているのかいないのか、とりあえず帰国する気はなさそうなので良しとする。

 バススタンドの案内所で尋ねると、マドゥライ行きの直行便はないが、カニャクマリ行きは頻繁に出ているらしい。
「最南端、行ってみたい」とマリーさんが言うので、発車間際の1台に飛び乗った。
 市街地を抜けると田舎の景色に変わり、窓からの眺めは楽しかった。田んぼに椰子の木の並木、一面に蓮が咲いた池、不思議な形の岩山。材木を運ぶ象とすれ違ったりもした。3時間ほど乗って正午過ぎ、カニャクマリのバススタンドに着いた。

 しかしなあ。わたしはカニャクマリの印象が非常によろしくない。その、”インド最南端”に惹かれて、以前にムンバイからバスで少しずつ南下する旅をしたんだな。”ベンガル湾から昇った太陽がインド洋を通ってアラビア海に沈む”なんて謳われたら、見てみたいじゃないですか。行ってみたいじゃないですか。
 が、たどり着いた最南端はインド人観光客が文字どおり溢れかえり、宿はどこもフル、やっと見つかった部屋で一晩眠り、翌朝、朝日を見に行こうとすると、レセプションの親爺が「今夜ここの代金は払わないでいいから、うちに泊まりにおいで」とにやにやする。何ゆうとるんや。南インドにはこういう輩はいないと安心していたのに。
 サンライズ見物中止。部屋に戻り、荷物をまとめてチェックアウトだ。親爺が「今日はバス全便運休だぞ」などとばればれの嘘をつく。あほちゃうかと思う。バスは真っ当に運行しており、たまたま来たトリヴァンドラム行きに、予定外だがとりあえず乗る。そうして、運命の地コヴァーラムを知ることになるのだった。

 って話が逸れたけど、そんなカニャクマリだから長居したくない。できればマドゥライ行きに乗り継ぎたい。が、ここでも深夜着の経由便しかなかった。

 しょうがない。『地球の歩き方』とバスの行き先案内板を照らし合わせ、ダイレクトに行けて宿泊に困らなそうな地名を探る。
 で、目に入ったのがRAMESWARAM。
 ラーメーシュワラム。行ったことないけど、今、惹かれる。ガイドブックのページの割き方と実際の居心地の良さは無関係だし。早朝発車で夕方到着というのも安心だ。チケットブースで翌朝いちばんの便を予約した。

 それから、バススタンド近くで見つけたHOTEL SEA WORLDにダメ元で当たってみる。すると、ひと部屋だけ、今晩だけ空いているという。カミサマありがとう。500ルピーのツインに即チェックイン。安堵で脱力する。あとは歌稿の郵送だ、「塔短歌大賞」と「塔新人賞」の。
 そうまでして応募せんでええやん。と今なら思うが、参加したかったのだな、あの時は。
 次の目的地がどんな町かわからないから、ここで出しておきたい。郵便局を探し、International Express Mailで担当者に送った。1通94ルピー。なかなかの値段である。きっと正しく速やかに届くだろう。

 解放された気分でぶらぶらと最南端コモリン岬に向かう。カニャクマリは以前と変わらずインド人観光客でごった返していた。そしてやっぱり大して面白くなかった。が、マリーさんは満足そうである。よかった。
 カニャクマリのいいところは、どんな世界地図上でも「ここ」と即座に指させることだろうか。

 食堂で遅めの昼食兼早めの夕食をとり、疲れたからサンセット見物は省略して宿に戻った。
 HOTEL SEA WORLDの部屋は狭いけれどこざっぱりしていて、SEAは見えないがテレビが備わっていた。が、リモコンのスイッチを押すとボリュームマックス。どのチャンネルも爆音。どこをどう触っても音量は下がらない。
 マリーさん、もういいから。明日また早いから。テレビ消して。寝て。

④へつづく

つまらない


数ヶ月後の受賞発表号でマリーさんは候補作に残っていたが、わたしは予選落ちだった。なんでよ。前年は次席だったのに。おそらくインド的郵便事故だろう。International Express Mailと言えども歌稿は選者に届いていなかったに違いない。知らんけど。なにしろわたしはカニャクマリと相性が悪いからね。

 


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