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58 朝な夕なに旅の宿② タイ

 タイランドで初めて泊まったのは、バンコク、カオサン通りの BONNY GUEST HOUSE 。路地の奥にあってしんと静かだった。
 掘立て長屋のような建物に、蚊帳付きベッドがあるだけ部屋だったけれど、まあ眠れればいいのだし、庭に洗濯物を干せたし、母屋の冷蔵庫を自由に使っていいことになっていた。中年の夫婦が経営していて、雇われ人は少女がひとり。無愛想でひと言も喋らず、いつも不機嫌そうに空き部屋のマットレスを干したり、いい加減な掃除などをしていた。
 ある日、彼女が、いつもの仏頂面で洗濯ロープの端にクマのぬいぐるみを干していた。丁寧に耳を洗濯バサミで挟み、仏頂面のままクマの頭を撫でている。
 ふーん・・・あの子、あれ大事にしてるんや・・・と、なんだかしんみりしてしまった。
 ふと思い出すと、耳を吊られたクマちゃんが揺れている BONNY の庭。

 翌年、どういう経緯か忘れたけれど、CHADA GUEST HOUSE に荷を解き、その後しばらくバンコクでの常宿となる。カオサンの東の端にあって1階は小さなレストラン。ベッド以外のスペース無しという極狭にもかかわらず、なぜだか落ち着けた。共同バスルームも狭いけど清潔だった。

ベッドの上しかモノを置くスペースがない

 難点は、ボロいドアなのに自動ロックされること。シャワーやトイレにも必ずルームキーを持って出ないといけない。 
 ある真夜中、トイレに行くのにうっかり鍵を忘れて出てしまった。うぉぉぉっと気づいた瞬間、ガチャンと施錠されるドア。やむなくフロントに降り、眠っている夜勤の兄ちゃんを揺さぶって、 
 えくすきゅーずみー、あー えーっと(英語でなんて言うたらええのかわからん)まい きー いず いん まい るーむ・・・
 ・・・はぁぁ?みたいな、めっちゃ迷惑そうな顔で起きて兄ちゃんは、ジャラジャラ鍵束を持って階上のまいるーむのドアを開けてくれました。ごめんなさい。

 だからというわけではないが、その翌年から宿を替えた。カオサン通りが年々ギラギラと派手に変わり続け、耐え難く騒がしくなったので、西に外れてチャオプラヤ川沿い、プラアティット通りにある NEW MERRY V に移ったのである。

 静かで広くて(グミコ比)清潔で、申し分なし。最後に泊まったのは2010年だけど、利用し始めた2005年からずっと1泊140バーツだった(お値段高めのエアコン付き、バスルーム付きの部屋も有り)。

 さて。
 タイでは、中部、北部、東北部などでも沢山の良い宿に巡りあったけれど、印象に残っているのは2010年、東北スリンの、スリン・セーントーン・ホテル。
 バックパッカー宿ではなく、タイ人向けの大型ホテルだった。フロントに値段表があり、いろんなタイプの部屋(全室バスルーム付き)から選べる。いちばん安いのはエアコンなし・テレビなしの150バーツだったけれど、長居する予定ではなかったので、ノーエアコン・テレビ付き220バーツのにした。

 スタッフが皆めちゃくちゃ感じよく、というか、タイには基本的に感じ悪い人はいない(夜中に部屋の鍵あけてって起こすと機嫌悪い)けど、東北とくにここスリンは人が良く、とにかく居心地がよくて、2、3日のつもりだったのが1週間いてしまった。 
 そんなことで延泊するかというと、理由はほかにも2つ。 
 ひとつめ、市場のカノムチンが絶品。 
 米の麺(常温)にスープ(ぬるい。いわゆるタイカレー。魚肉練り物カレーかモツカレーか選べる)をかけてもらい、テーブル上の野菜を好きなだけトッピングしていただく麺軽食。スリン市場のカノムチンはぜったいタイでいちばんだと叫びたい。 

 ふたつめ、テレビがおもしろすぎる。 
 チャンネルは衛星とかケーブルとか、無数にある感じ。なぜかパキスタンの放送も入る。CNNニュース、タイ各地の天気予報、視聴者参加クイズ番組(高額賞金あり)、ドラマ。毎日6時には国歌が流れる。そして通販番組。ほぉ〜タイにもあるのかと白々しい演技に笑ってしまいながら見入る。化粧品、鍋、健康器具などなどなど。
 最後に電話番号を連呼する。
 ホックホック、サンサン、ハーサン! ハーサン!
 6633ー5353・・・1日に何回も見るから覚えてしまったことであるよ。

顔ハメしたかったなー(カンチャナブリの道端にて)

③へつづく

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