【亡き父の教え】
「ところであんた、何の仕事してるの?」
この言葉を相手に言わせてからが、お仕事スタートだ。
先日亡くなった父の七七日が昨日だった。
不動産会社の役員だった父が、生前教えてくれた話。
父が営業するうえで大切にしていた三つのこと。
モノを売らず人を売る
なんでも一所懸命
聴かれるまで言わない
簡単そうで出来ないこの三つ、必ず護って生きてきたんだ。
昭和のアナログな話なんて聴いても意味がないんじゃないか?
と疑問が生じるかもしれません。
しかし、根幹の部分は今も昔も変わらない、事実から何を学び
どうやって今に繋げるか?どうやって今風に変化させるか?
が大事なのだと思う。
父の生き様がわかるエピソードをまとめましたが、長文につき、
別にまとめました。
興味ありましたら、お読み頂ければ幸いです。
〜エピソード〜
父は大分県杵築市 一時期X(旧Twitter)でバズった異世界に行けそうな無人駅『西屋敷』駅の正面にある家で生まれた。
高校卒業後、昭和30年代に上京し、当初は350人程度の建築会社 三和建物に勤めていた。
父の仕事は日本橋や茅場町周辺の平屋建ての店舗やお宅に、当時の最新建築だった、5〜6階建のビルを勧める営業マン。
今の家で満足している見込み顧客となるお宅に、一軒一軒飛び込み営業していたそうだ。
令和の時代ではあまり考え難いが、昭和の時代では、かなりの割合で飛び込み営業が横行していて、玄関に居座って、靴紐を買ってくれないと帰らない。なんてケースがあり、営業マンと見るや水をぶっかけられる事もあったそうな。
そんな時代。。。父の営業活動は人とちょっと違った。
知らないお宅にいきなり訪問
「ごめんください🙏、ちょっと教えて下さい。」
と言って、お宅の玄関を開ける。
「はーい、どなた?営業はお断りよ。」
と、そのお宅の奥様が現れる。
すると、父はほっそい目を更に細くして、満面の笑顔で
「いえいえ、営業なんて、ちょっと道に迷っちゃいまして、ここに行きたいのですが、分かりますか?」
地図を見せながら、道を尋ねる。
「あぁ、ここだったら、ここを右に曲がって三軒先の左にあるお宅よ!」
奥様は親切に教えて下さる。
「そうなんですね。助かりました。方向音痴だから道に迷っちゃいまして。お忙しいところありがとうございました。あっ、差し支えなければ今何をされてたんですか?」
と尋ねる。
「いま、倉庫整理してたんですよ。うち、呉服問屋だから、在庫が沢山あるから整理が大変なんですよ」
父はすかさず、
「だったら、お手伝いしますよ。自分柔道部だから力仕事得意なんで、御礼にさせて下さい。」
と言いながら、倉庫に潜り込み、小一時間、雑談しながら在庫整理を手伝う。
家族の話
田舎の話
近所で見つけた和菓子の話
などなど
時間はあっという間に過ぎていった。
「あっ、もうこんな時間だ、奥さん感じが良くて話しやすいから、長居してしまった。ごめんなさい。」
「いえいえ、川野さんに整理手伝ってもらっちゃって、助かったわ。」
「こちらこそ、道を教えて頂きありがとうございます。それでは失礼します。」
と言って、お宅を離れる。
次の日
「ごめんください🙏」
父の声が昨日のお宅の玄関先に響く
「あら、川野さん?!どうしたの?」
びっくりする奥様。
「近くに伺ったものだから、ついでに昨日言っていたお菓子届けようと思って。」
と語る父に向かって、奥様は
「えっ!?あら、美味しそう。お茶を入れますね。一緒に食べましょう」
と、奥様が語る。
「連日ですいませんね」
恐縮する父とそれから、まったり小一時間ほどの雑談が始まる。
「では、また遊びに行きます。いいですよね?。」
このような毎日が2、3日続く。
奥様と父の会話がいつものように弾んでいる時、奥様から一言
「ところで、あなた何を仕事にしているの?毎日こちらに来てて
仕事大丈夫?」
と、いう言葉が引き出された。
父の仕事の始まりのファンファーレが鳴り響く。
「ビルの建築の営業なんです。」
「ビル?」
ハテナがいっぱいの顔をする奥様。当時はまだ平屋建てが多く、ビルと言う建物はあまりなかった。そう、ビルと言う認識がなかったのである。
「例えば、この店1階建てですよね。この床面積が5倍になるとなったら
どう思います。」
「えっ?!そんなことできるの」
「できますよ、こんな感じの建物ができるんです。」
と言いながら、カバンから5階建てのビルのイメージを取り出し、
奥様に見せる。
「あら、へー、こんな建物ができるの。」
「ええ、ですから、1階店舗、2階は事務、3階は倉庫、4階5階は居住場所。というふうに、分けることができるんですよ。」
「土地は増やせないですが、生活空間は増やせるんです。」
と、父の営業は畳み掛ける。
が、ここで
「まっ、奥様のところは関係ないかも知れないですけど。」
と、イメージ図をそそくさと片付けようとする父
それを、奥さんは父の手を止めて
「ちょっと待って待って、川野さんも知ってるでしょ!
うちは倉庫も狭いし、生活空間は足りないのよ。」
「そうですか?」
と、しらばっくれる父
「先日もね、主人と引っ越すしかないのか?
でも、この場所離れたくないなぁって言っていたところなのよ。
ちょっと待って、呼んでくる」
と言いながら、駆け出す奥様。
ここまでくれば、半分お仕事完了だ。
奥様は旦那様を連れてきては
「ほら、この人先日から言ってる川野さん。この人ビルの営業だったんだって。
こないだから店舗が狭いからどうしようかって話してたじゃない。なんか解決できるみたいよ!」
と促される。
「あぁ、貴方が川野さん。いつも妻がお世話になってます。ちょっと興味があります。どんな話です?」
ここから旦那様には、淡々から自社の説明からビルの説明、建てることによるメリットとデメリットの説明。費用面など説明すると、話はトントン拍子に進み、数ヶ月後にはビルが建ってしまうという。
ポイントは最初に申し上げた3つ
モノを売らず人を売る
なんでも一所懸命
聴かれるまで言わない
1.モノを売らずに人を売る。
モノが売れる時、特に高い製品ならば、
『消費者は何を買うか?』
は大事な事ではあるが、それよりも、
『誰から買うか?』
が重要だ。
だから、父はまずは川野と云う人間として奥様に接してきた。
信頼は時間と回数に比例する、短期間にどれだけ会い、
心からの会話を繰り返せたかが重要だ。
心からの会話から、川野の言う人柄を解っていただき
信用を獲得する事が一丁目一番地で、
ここに一番力を入れていた。
最初の売り物はモノではない、『川野』という人を売るのだ。
2.なんでも一所懸命
『何に困っているのか?』
『何をしてもらいたいのか?』
にアンテナを張っていた。
直接自分の仕事に関係なくても、困っている事には
一所懸命に応えてあげる。
それが肉体労働や誰かの紹介でも、
兎に角、その人が一番してほしいことを
一所懸命に提供して、喜ぶ顔を見るようにしていた。
そしてそれもまた、信用獲得の一歩となった。
3.聴かれるまで言わない
人の心は逃げ水のよう
追えば追うほどその水は逃げていく
商品を買って買ってと言えば言うほど
人の心は離れていく
買ってと言わなければ売れないものを人は買わない。
しかし、1・2で信用得られた人から
私も『川野』さんのためになることをしたい
あれっ?川野さんって何している人なんだろう?
聴いたことないな?聴いてみよう
と思わせる事が大切だ。
自分から聞いた話は最後まで聞きたい。
そして、それまでの信頼の蓄積で得られた情報を基に
解りやすく説明できれば、必ずと言っていいほど
売れるのだ。
信頼を会得するための行動こそが営業なのだと
今の時代に併せた営業活動にコンバージョンして
川野雅治という人間の信頼を得て、
周りから。
「あんた、どんな仕事しているの?」
と、毎日のように聞かれる人に自分はなりたいと
七七日法事のあとに誓いました。
長い文章、最後までお読みいただき有難うございました。