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【連載小説】退屈しのぎのバスジャック03
03.警察からの協力依頼
「これから起こるであろうバスジャックの犯人逮捕について、あなたに協力をお願いしたいのです。」
バスターミナルのカフェで、立花という私服警官が僕にこう言った。
「こちらとしても、あなたを含めた乗客全員の安全をお守りすることはお約束します。
とは言っても当然強制はできないですし、
話を全て聞いた上で、断って頂いても、また、危険な可能性のあるバスの乗車自体をキャンセル頂いても構いません。
なので一旦お願いしたいのは、
話を聞いていただき、考えていただきたい。
そしてこのことは他言しないようにしていただきたい。」
「わかりました。」
少し間を置いて返事をした。
「ありがとうございます。
ほんの少し席を外させていただきます。」
立花氏は立ち上がり、少し離れた場所でワイアレスイヤホン越しに、何やら仲間とやりとりをしているようだった。
調査員が付けていたわかりやすいインカムではなく、音楽を聴くようなイヤホンを使っているのも、おそらく一般人を装うためだろう。
僕はコーヒーのおかわりを頼んだ。
それにしても。
またとない体験だ。
退屈を紛らわすには少々刺激的すぎるかもしれない。
ただワクワクもする。
僕のこんな性格も見透かさせているのだろうか。
話を全て聞いてから断ってもいいと。
いやそれは断りづらいだろと。
断りづらくするのも織り込み済みなのか?と、
うがった見方をしてしまう。
まあ、ここまで聞いた時点でも、
もう気になって後には引けない気がするが‥。
「お待たせしました。」
彼は再び僕の正面の席につく。
やはり普通の旅行者に見える。
彼の喋り方は鼻に付くとまではいかないが、自信家というか、小慣れた感じで淡々と話をするタイプだ。
「ひとつ質問いいですか?」
彼は笑顔でうなずく。
「僕が選ばれた理由は、ここに来た、つまり暗号を解いたということだけなんですか?」
「なるほど。
先程少し言いかけましたが、
洞察力、反応、振舞いもそうですが、
見た目でも判断させていただきました。」
見た目?
「私と友人に見えるかということです。
まず今時点でこうして2人でカフェにいること自体が犯人に不自然に思われてはいけない。
私も普段からあまり刑事に見られないので、こういった役回りが多いのですが‥。
そしてこれから用意しているプランがいくつかあるのですが、状況によって行動を共にした方が都合がいいということで、判断基準にさせていただきました。」
なるほど、とは思ったが。
「そもそもなぜ一般人の協力が必要なんでしょうか?
僕はただのフリーターで。
おそらく何もできないと思うのですが。」
彼は少し間を置くようにコーヒーをすする。
「そうですね。
できれば警察の人間だけで固めて犯人逮捕というのが理想なのですが。
今回の犯人はとても慎重で頭がいい。
今までの事件でも全く尻尾をつかませてもらえませんでした。
今回も警察が気付いてることを知ったらおそらくけむに巻かれる。」
彼はコーヒーカップを置いた。
「なのでこの捜査は、警察が関わっていることを知られないのが最優先事項です。
そしてその上でバスに乗り込んでおきたい。
この時期バスの席は十分空いているのですが、普通に警察の人間何人かが一般人を装って直前に席を取っても、怪しまれて調べられる。
おそらく乗客は事前に全員調べられている。
そこで予約キャンセルが出た席のキャンセルをなかったことにして、その人になり代わるという方法を取りました。
WEBで受け付けたキャンセルを跡形なく取り消すという作業はサイバー課で可能なので。
あなたの隣に座る予定だったのはあなたの友人ですね?」
僕はうなずく。
確かに友人は、一緒に来て僕の隣に座るはずだった。
だが、都合が悪くなりキャンセルしていた。
「協力者のもう一つの選別理由は、
近くにキャンセル席があるということです。
そう、あなたの隣がキャンセルされていた。
そこの人になり代わることで、
私も自然に普通に予約した一般人になれます。
警察だけでこの自然を演出しようとすると、
相当な前からの準備が必要になってしまいます。
なので、本当に自然で一般なあなたが
『友人とバスに乗るというシチュエーション』
にあやからせてもらおうというのが我々の計画ということです。
そして今まさに、同じタイミングで隣同士席を取っている2人の乗客が、時間潰しにカフェにいることは犯人にとって何ら違和感を与えないはずです。」
得意げに立花氏は話した。
確かに筋が通っている。
警察はここまでするのか、と感心してしまった。