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『弱法師』Q/市原佐都子

※観劇後にとりあえず走り書きしたメモをもとに思い出しつつ書いています。

 『バッコスの信女/ホルスタインの雌』で岸田戯曲賞を受賞した市原佐都子さんの作品。Qの公演がある度に見たい見たいと思っていたけれど、開催地が愛知だったり京都だったり海外だったり東京でやると思ったらもう売り切れていたりして、なかなか見ることができずにいた。

 そんなわけで、『バッコスの信女/ホルスタインの雌』は戯曲だけ読んだ。少し前に自分で書いた戯曲を、特にコロスがいることについて、戯曲を読んでいただいた方から大変に非難されたので(コロス出していいのは野田秀樹くらいだよ、と。わたしは能を習っていたこともあり、その地謡の要素を戯曲に取り入れたかっただけだったのだが)、この作品にコロスが出てきて、なんだかわからんが、それ見ろ!と思ったものだった。
 戯曲はあまりすらすらと読めないほうなのだけれど、この作品についてはすらすら読むことができた。力のある作品だと思ったし、市原佐都子という人の作品の方向性みたいなものも感じられた。普段、あるのに見えないことにしている色々な事柄を抉り出してきて、正直怖くもあった。だけれども、芸術の本質はそういうものであるから、久々に芸術作品に触れた、とも思った。

 この舞台はラブドールなどの人形を用いた文楽形式の劇で、3名の人形遣いのほか語り手と琵琶奏者が1人ずついる。人形遣いは伝統芸能で見られる黒子スタイルではなく、裸を思わせる肌色の衣装の上から黒いベルトで人形と体が接続されていてそこはかとなくお相撲さん感がある。舞台には古い西洋風の臙脂のビロードの緞帳があり、幕から出た舞台の両端、右手に語り手、左手に琵琶奏者がいる。舞台上部正面に字幕、観劇後のメモを見ると、字幕の周囲は黒色、柿色、萌葱の定式幕風の色になっていたようである。客席には外国人とみられる観客も多く、外国語の会話も飛び交っていて、わたしがいつも見ている日本の小劇場演劇とは明らかに客層が違った。

 さて、内容については、原サチコさんの義太夫節がまぁとにかくすごい!全編の全人物を演じ分け、ナレーションを語り、さらには歌まで歌う。ひぇ~~~と圧倒されまくり。そして、人生で女性局部の名称をこんなに連呼してるの聞いたの、上野千鶴子さんの講演ぶり。

 人形劇なのに生々しく、その一方で人形を操る人間の必死さが滑稽に見えたりもし、世界にあふれる残虐の些細な事柄から人が命を落とすような事件性のあるものまでが客席にも迫ってくるようだった。わたしたちは世界にある残虐と無関係に生きることは難しく、ある時に被害者として、また別の時には加害者であるだろう。その先にあるのは、救済ではなく狂気だけなのだろうか。
 この公演について思い出すと今でも、観劇中に起こった心の動揺がぬるりと這い上がってくるようである。

演劇好きというよりアートが好きな方にお勧めしたい作品。


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