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トリュフ

厳重に保管していた出来の良い方のトリュフを食べている父/ぐりこ うたの日『厳』

高校一年の時、卒業してしまう先輩にバレンタインデーに渡すためにトリュフを作ったことがある。
今のように百均で簡単に道具が揃うわけでもなく、材料を揃えるのも少ないお小遣いの大半をもっていかれてしまうのでとても痛い。
でもどうしても渡したかったのだ。
母の協力を断り、ガナッシュから自力で作り上げたトリュフはコーティングしたチョコレートに角が立たず網目がくっきりとついてしまったり、形が歪だったりしたものの、出来の良いものを紙のケースに入れてしまえばそれなりに見えた。
形の崩れたものはあとで家族で食べようとお皿にまとめて冷蔵庫におさめた。
先輩に渡すチョコレートと並べて。

そして事件は起こった。

帰宅した父が冷蔵庫のチョコレートを見つけて食べ始めてしまったのだ。
しかもわざわざケースに入った方を。
うちの父ならやりかねないのになぜ対策をしなかったのだろう。
父が嬉しそうにチョコレートを箱から摘んで口に入れるのを見た瞬間から泣き崩れるまで自分が何を言ったか覚えていない。

「お父さんのかと思った」

そんなわけがない。そんなわけないのだ。
泣きながらそう繰り返すしかなかった。
今、思い出してもリアルタイムのように腹が立ってくる。
うちの父親はこういうやらかしの常習犯だった。
仕方なく手付かずだった家族用の中から再度選抜されたものが先輩用となった。

しかし、結局そのトリュフは先輩に渡すことができず、放課後の教室で友達と一緒に食べた。
私は泣き損、父は怒られ損である。

友達たちに父の文句を言いながら食べた最初で最後の自作のトリュフの、カリッとしたチョコレートのコーティングを歯で割る感触は今でも覚えている。


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