『左門くんはサモナー』はいいぞ
こんにちは、あんこです。
突然ですが、
これは私が地獄に堕ちるまでの物語である!!
という衝撃的ナレーションから始まる、
『左門くんはサモナー』
という漫画をご存知だろうか。
この漫画は2015〜2017年頃に週刊少年ジャンプにて連載されていた漫画で、連載終了からもう6年程経つ。
しかし未だに私の心を掴んで離さない。
今回は今まで蓄積させ続けてきた『左門くんはサモナー』への衝動をありったけぶつけようと思う。
『左門くんはサモナー』とは
この漫画は、ある日算文高校に転校してきた主人公・左門召介が自己紹介をきっかけに初っ端から孤立。
そしてそれを見かねた天使ヶ原桜さんが、左門くんにお節介を焼くところから始まる。
この天使ヶ原さんは、過去にクラスメイトの下呂くんのゲロを素手で受け止め、かつ「大丈夫?」と相手を心配した一件から、皆から天使と呼ばれているほど心優しい人物だ。
そんな彼女が転校生の左門くんを心配するのは、ある意味予定調和のことである。
そんな天使ヶ原さんを「良い人」と認識した左門くんは感謝…ではなく
「そんな天使ヶ原さんが大っ嫌いでさ」
と告げ、
「我欲で身を滅ぼして無様な末路を遂げるような最低最悪の人間」になるよう、欲に素直になれる悪魔を差し向ける。
絶対絶命…かと思いきや、天使ヶ原さんは割と善戦する。
誘惑に、欲に負けないのだ。
次々繰り出される悪魔たちとなんかかんやありながら、変わらず学校生活を送る。
それどころか、天使ヶ原さんにちょっかいをかける左門くんを「楽しそうでよかった」と言い出す始末。
そんなある日、左門くんに恨みを抱く悪魔が、左門くんへ嫌がらせを決行する。
そしてあろうことか、天使ヶ原さんが巻き込まれてしまう。完全にとばっちり。
もうダメか…諦めかけたその時、左門くんが華麗に登場し、天使ヶ原さんを救出する。
こんな調子で
そして無事助け出された天使ヶ原さん。
左門くんはこう続ける。
左門「今後も僕は人助けは絶対にしない。単なるこだわりの問題でさ、僕みたいなやつにまで親切振りまいて世の中をちょっと優しくする、そんな「良い人」への僕側の意地だ。」
画してサモナー・左門くんと悪魔達による天使ヶ原の平穏とは程遠い生活が幕を開けた____
と書くと何とも穏やかではない始まり方だが、
この漫画はコメディー色が強い漫画である。
欲深い人間の破滅が好きで善人嫌いで偏屈で屈折している体力もクズな通称カス虫・左門くんと、
無私無欲人畜無害誰にも優しく優等生で人のゲロをも手で受け止めた通称2-Bの天使・天使ヶ原さん。
2人を取り巻くクラスメイトや悪魔たちによる
キレッキレの弄りとツッコミ、適度な塩梅のパロディが笑いを加速させており、ギャグ漫画として普通に読んでも楽しめる。
が、私には「これはコメディー漫画です!!!」とは断言出来ない。
その理由は普通に読んでいたら流してしまいそうな、
あまりにも繊細で丁寧なキャラクター描写にある。
左門くんと天使ヶ原さん
冒頭の一件以来、左門くんと天使ヶ原さんは行動を共にするようになる。
1話時点ではあまり腹の底が読めないと思われた左門くんだが、話が進むにつれ、とある一面が見えてくる。
そう、カス虫である。
天使ヶ原さんがピンチに瀕している時ですらこんなしょーないことでウダウダしてる左門くん。
だが天使ヶ原さんは左門くんから距離を置くことはしない。
それどころか左門くんを『友達』と呼び、悪魔による嫌がらせも『それはそれ』として悪魔たちとも好意的に付き合う心の広さを持つ。
その距離の近さは周囲に「あいつらデキてんじゃね?」と噂されるほどだが、左門くんと古い付き合いのライバル、ネビロスはこの時点での左門くんと天使ヶ原さんの関係をこう表現した。
天使ヶ原さんの左門くんへの矢印は母性・慈愛だという。
だが左門くんは子供扱いが死ぬほど嫌いな子供である。
となれば、天使ヶ原さんへの左門くんの態度が反抗期じみたものになることは明白。
実際、天使ヶ原さんがアラフアラフな言動をするとスグにそっぽをむく。
ちなみにだが、左門くんが本当に子供に戻った回が存在する。
その回の扉絵がこちら。
幼き左門くんが持っている花は、恐らく竜胆だと思われる。
そして竜胆の花言葉がこちら。
これをどう受け止めるか。
それは人によってもそうだが、本編を読み進めていく事にも変わるだろう。
関係性の変化
…少し話が逸れてしまった。
さてそもそも、この作品において左門くんとはどんな人として描かれているのか?
この漫画のサブタイトルは、毎話『左門くんは〇〇』という形式をなぞっている。
作者さんはこう語る。
実際、2話で天使ヶ原さんはこう語る。
日常を重ねる度に、天使ヶ原さんと読者は
左門くんはカス虫で虫が苦手で根に持つタイプで猫と甘いものが好きで友達に冷たくされると普通に凹む可愛いメンタルの持ち主で努力家で…
と少しずつ理解を深めていく。
そして共にいる以上、左門くんと天使ヶ原さんはお互いの、そして周囲の影響を受けて変わっていく。
その変化が如実に表れた回として、『左門くんは偶像を壊す』の回は外せないだろう。
基本的にだが、左門くんは面白い機会を絶対に見逃さない。
天使ヶ原さんがキュバ嬢として宰相を饗すことになった『左門くんはお触りに目を光らせる』では、左門くんは「面白そうだから」という理由で、自らボーイとして参加している。
しかし、天使ヶ原さんがアイドルになる『左門くんは偶像を壊す』では、天使ヶ原さんが左門くんに助けを求めるまで、左門くんの登場頻度と物言いがあまりに少ない。
天使ヶ原さんがエグい内股でハートを作っている時も、つい赤面してしまうほど可愛らしい服を身につけている時も。
『面白い』材料が溢れているのに、活き活きとバカにしまくる左門くんはいない。
というより、そもそも天使ヶ原さんの近くに左門くんが描写されない。
アイドルになると聞いた際に発した「仏様も自己顕示欲がおありと見える」のみである。
さらに、天使ヶ原さんの助けを聞いた後も天使ヶ原さんを助けた後も、彼女をおちょくる言動はひとつもしない。
このアイドル編展開時は、いつものカス虫左門くんが1周回って怖いぐらい也を潜めている。
左門くん遂に改心か?
…ということは全くなく、寧ろこの件以降は、左門くんは事ある事に『天使ヶ原さんがアイドルとしてエグい内股を作っていた』ことをネタにしてくる。
そりゃもう何度も何度もこすってくる。
アイドルとしてエグい内股をしていた天使ヶ原さんを見ていた描写はないのに、後々の言動からアイドル時代の天使ヶ原さんをしっかり見ていたことが分かる。
また天使ヶ原さんがアイドルになっていた当初は触れもしなかったのに、後になって話のネタにする。
「そりゃ左門くんはカス虫だからだろ」
と思う方もいるかもしれないが、実は左門くん、
天使ヶ原さんに対して過去の出来事を蒸し返し何度も擦り続けたことはほとんどない。
天使ヶ原さんが左門くんに「だーれだ?」としたことも、「暑くなってきちゃった…」と淫魔テクを披露したことも、後々掘り返すことはしていない。
それだけこの回の左門くんは異色なのだ。
そしてそれは、天使ヶ原さんも例外ではない。
初期こそ「本音を言え」「欲を出せ」という左門くんの要求に戸惑いを見せつつ結果的に左門くんに助けられていた天使ヶ原さんも、
この話では明確に『"私が"助けて欲しいという欲を晒せば左門くんは助けてくれる』と理解した上で左門くんに助けを求めている。
左門くんだけでなく天使ヶ原さんにも大きな変化が起きている。
この回で左門くんは何をしたのか?
そうサブタイトル通り、天使ヶ原さんの"偶像"を破壊した。
天使ヶ原さんはアイドル(偶像)・仏・天使…いずれでもなく、「普通の女の子に戻りたい」「普段通りの生活が1番」と考える、欲を持った人間であるとハッキリと描写された。
この話ではアイドルてっしーのオタクと化したネビロスと宰相、そしててっしーではなく"天使ヶ原さん"の欲を叶えた左門くんが対照的に描かれている。
天使ヶ原さんの人間味ある部分を支えているのは左門くんなのだ。
そもそも天使ヶ原さんに天使・仏等の偶像性が見出されたのは何がきっかけだったか?
言うまでもなく下呂くんのゲロをキャッチした一件である。
天使ヶ原さんは仏、天使等と呼ばれるようになり、そのあまりの慈悲深さっぷりに畏怖してか、周囲の男子はよそよそしくなる。
これを天使ヶ原さん本人は喜び照れる…のではなく、「からかわれた」「天使いじり」「仏じゃねぇわ」と表現する。
そんな天使ヶ原さんに容赦無くちょっかいをかけ、弄り倒し、欲を出させるのは左門くんだけ。
そしてまた、中二病全開の自己紹介で周囲から孤立し、Bコン(ぼっちコンプレックス)を拗らせお節介を良しとしない左門くんをツッコミ倒し、傍にいるのも天使ヶ原さんだけなのだ。
この何とも歪で好き嫌いだけで割り切れない奇妙な2人の友情や信頼関係が、『左門くんはサモナー』を支える面白さの1つだろう。
また、アイドル回と異なる意味合いで左門くんと天使ヶ原さんの関係性に訪れた変化が見られた回がある。
そう合コン回である。
大まかなあらすじはこうだ。
天使ヶ原さんがサキュバスさんから合コンの誘いを貰い、不安に思いつつも参加を決める。
天使ヶ原さんが左門くんに「来てくれる?」と誘いもかけるも「そんなの行くわけないだろ腐れよ」と断られる……断られる?
そう、あの左門くんが断るのだ。
ボーイには速攻で参戦していた、あの左門くんがである。
あろうことか、サキュバスさん(悪魔)主導の合コンに天使ヶ原さんが参加するという、如何にも面白さと弄りがいがフルコースで出てきますよ的大きなイベントを。
しかしそれで終わりではない。
この男、当日合コンが開催された直後にアンリちゃんと強引参加するのである。
それも偶然を装って。
ここで当然1つの疑問が湧く。
何故最初から誘いを許諾しアンリちゃんを誘い合コンに参加しなかったのか?
少し時間は飛び、合コン終盤へ。
フィーリングカップルコーナーという、『男女で好みの異性を指名し合い、両思いならカップル成立、その場でキスする』というこれまたベッタベタなお遊びコーナーが宣告される。
これには天使ヶ原さんに好意を持つ悪魔たちもこの反応……
お前も反応すんのかい!!
いや冗談ではなく当時の私は本気で驚いた。
このコマに描かれているネビロスと宰相は『天使ヶ原に恋をしている』2人であり、アガっちを始めとした『天使ヶ原に恋をしていない』参加者は描かれていない。
そんなコマに左門くんもいる。
…いやいや待てよと。あまりに早計だ。
このコーナーほどカオスを呼び全員をおちょくれ場をごちゃごちゃに出来る最高の機会はない。
であれば左門くんが手を出さないはずがない。
そりゃリアクションの1つぐらいするでしょう…
…しかし左門くんはこのコーナー中一切口を出さない。どころか手も出さない。
最終的にアンリちゃんがスマホをウイルス感染させ爆発させるというオチでこのコーナーは強制終了するが、『意中の相手を選ぶ』ところまでは普通に進んでいる。
ちなみにその時の左門くんは一切描写されない。
そして合コンが強制お開きになった時、天使ヶ原さんと左門くんのやり取りが挟まれる。
恋愛偏差値30の私にでも分かる。
絶対何かあるなお前
あくまで予想だが、『恋人ではなく友達として認めてもらう』ことが最終目標の左門くんは、この場面でアンリちゃんを選ばないだろう。
そもそもアンリちゃんを選んでいたなら普通に答えられるはずだ。
であれば…?
天使ヶ原「私はネビロスさんを選んでましたから」
天使ヶ原「ネビロスさんはああいう遊びには本気にならないと思って」
これを、ネビロスが天使ヶ原さんに特別な感情を抱いていることを知っている左門くんはどんな気持ちで聞いていたのだろうか。
そしてどんな気持ちでハゲろと吐き捨てたのだろうか。
考えるだけで、ベヒモス先輩も力を借りずとも何杯もご飯をもりもり食べれてしまう。
…ところでこの合コン回の「そんなの行くわけないだろ腐れよ」「何でそんなの答えなきゃいけないんだよハゲろ」、何か違和感を覚えないだろうか?
あの人を貶めるとなると口から産まれたのかと思うぐらいには饒舌なカス虫が、語彙力ゼロのシンプルな罵倒をしているのだ。
実はこのようなシーンは何度か過去回にも見受けられる。
その筆頭は偽左門くんを捕まえるため、天使ヶ原さんと九頭龍くんが来てくれた回だ。
ぼっちのカス虫左門くんも2-Bでの交遊を楽しみ日常として受け入れ始めていたのか、周囲の人々が偽左門くん・召ちゃんの元へ行ってしまうことに傷ついている様子。
そんな状況で声を上げ、左門くんを助けようとしたのが九頭龍くんと天使ヶ原さん。
左門くんも流石に胸に来るものがあったのか、九頭龍くんに素直に感謝を述べる。
しかし、相変わらず天使ヶ原さんには「天使ヶ原さんは何ていうか…死ね…」と返す。
…この何とか捻り出したような罵倒、合コン回の罵倒と同じ匂いを感じないだろうか。
実は左門くんが天使ヶ原さんに「死ね」系罵倒を繰り出した時は他に2回ある。
天使ヶ原さんが淫魔テクを繰り出した時と、女性陣が私服を着て並んでいた扉絵だ。
敢えて直球で言おう、照れてるだろお前
そもそも「地獄に落ちるような欲深い人間になるまで死なせない」と幾度となく発している左門くんが天使ヶ原さんに「死ね」と言う奥底にどんな感情があるのか。
ここまでくると、否が応でも点と点を繋げようとしてしまう。
また左門くんが天使ヶ原さんにする印象強いリアクションに『距離を置く』がある。
一先ずリアクションが繰り出されたシーンを並べてみる。
好き嫌い・言動等全てが正反対になった偽天使ヶ原さんに「左門くん嫌い」と言われた時
左門くんのトンガリ(左門くんの魂入り)が天使ヶ原さんと一体化してしまいToL○VEる的展開を経験した時
もう言っていいだろ 照れを隠すな
だがそこは偏屈で屈折している左門くん、決して素直にはなってくれないのだ。
では、反対に天使ヶ原さんはどうか?
天使ヶ原さんは初期も初期、1話から何度も左門くんに言われている。「大っ嫌いだ」と。
しかし仏の天使ヶ原、この表情である。
これには絶対悪アンリ・マユもドン引き。
もはや他者には入る余地のない信頼関係すら感じさせる。
だがこのシーンの破壊力はこんなもんで終わらない。
話はスキー旅行回まで進む。
宿泊中皆が寝静まった頃、アンリちゃんと天使ヶ原さんの恋バナが始まる。
話題は勿論左門くんについて。
アンリちゃんの
「貴様は召介が好きなのか?」
という問に対して
天使ヶ原「…私の気持ちなんて関係あります?」
と自分の気持ちを言わずサラリと躱す天使ヶ原さん。
天使ヶ原さんは続ける。
ハイきた、もうこれ左門くん風に言うのであれば
欲が出たね。
「大っ嫌いだよ天使ヶ原さん」「知ってる」
の時、天使ヶ原さんはどんな気持ちであの表情をしていたのか。
もしかしたらあの時は、天使ヶ原さんは仏の心のみであのように返したのかもしれない。
だが今は違う、天使ヶ原さんは左門くんの「大っ嫌い」に多少なりとも思うところがある。
そして恐らく、照れも臆面もなく左門くんに「好きだよ」と言われるアンリ・マユに嫉妬に似た感情を抱いている。
あの2-Bの天使こと天使ヶ原さんが!
これを欲と言わずになんという?
マステマ篇の最後、左門くんは言う。
「地の底」。
同じワードがマステマ篇で出てきている。
恋する天使は地獄に堕ちたのだ。
はい、もう言質とった。
まぁつまり、そういうことだと思うのだ。
野暮なので言わないが。
総括
本当には
・アンリマユ、小鳥ちゃん、天使ヶ原さんの恋愛模様
・ネビロスと左門くんの関係性
・左門くんの成長
・天使と悪魔
などなどいろいろ書きたいことはあるのだが、この時点で7000字を超えてしまったので流石に分けることにする。
もしこの記事を読んで『左門くんはサモナー』に興味を抱いてくださった方がいるのであれば、是非コミックスを読んで欲しい。
全10巻なのでちょうどいいボリュームです。
電子書籍もあるぞ!!
あんこでした。