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そして、ボクがTokyoWalkerになった
就職を機に上京した直後、おそらく僕がいちばんお世話になったのが
「TokyoWalker」と「散歩の達人」
という2つの情報誌だった。
これにテレ東の「週刊アド街ック天国」を加えた3つが、典型的な地方出身者である僕が大都会東京を攻略するために欠かせないまさに3種の神器となったのだった。
中でもいちばん重宝したのが「TokyoWalker」で、僕は週末を迎えるたびに、その最新号を小脇に抱えて、その号で特集された東京の街に馳せ参じたものだった。
しかし、不思議なことに、あんなにいろんなところに行ったはずなのに、どこに行ったかくらいは何となく覚えてはいるけれど、それ以上の記憶がほとんどない。
僕の記憶力の悪さは筋金入りだからまあ本当はさして驚くことではないのかもしれないけれど、おそらく当時の記憶がない理由のひとつは、
どんなに素敵な街を訪れても、僕は誰とも交流することなく、恐る恐る街の外側から「東京の人」を覗くだけの単なる通りすがりのDayTripperに過ぎなかったからだろう。
ひとりでいることにはずっと慣れっこだったから、別にさみしくもなかったけれど、いつも足元がふわふわ浮いた感じで、
「ああ、こんなにも歩いたのに、またここでも僕は全く自分の足跡を残せなかったなあ。」
とある種の淡い虚無感には襲われていたかもしれない。
しかし、あれから約四半世紀が過ぎたある日のこと
地方在住の友人が久しぶりに東京に遊びに来るという話を聞いた僕は咄嗟に、エリア別の東京お散歩プランを思いついてその人に伝えて、そして、つい先日、実際に僕がガイド役となり、友人を自分のお気に入りのスポットに連れ回したのだった。
果たして友人がどれくらい満足してくれたかは分からないけど、どれも僕が本当に大好きなとっておきの場所ばかりだったから、正直、僕はそれだけで、そう、大切な友人に
僕が見つけた大好きな東京のカケラたち
を見せつけられただけで、もうじゅうぶん満足だった。
あと、嬉しい誤算だったのが、あのバカでかいターミナル駅も含めて、まったく道に迷うことなく、電車の乗り換えだっていたってスマートにスイスイと目的地を攻略していく僕の姿を見た友人がしきりに目を丸くして驚いてくれたことだった。
こちらとしたらそりゃあ何回も行った場所だからなんてことない話なのだけど、思わず調子に乗った僕は茶目っけたっぷりに、その友人に向けてこんな宣言していたのだった。
「令和の今ではこの僕がもはやTokyoWalkerなんだから、君は何も心配せずに僕に着いてくりゃいいんだよ。」
本当に我ながら何様なんだって話だけどさ。
でも、このときどさくさに紛れて、ふと
まるでこの日のために僕はあの頃からずっと飽きることなく東京の街を練り歩いていたのかもしれない
そんなことまで思ってしまったのは、ここだけの話ね。