法科大学院(ロースクール)の未修者コースに入学する初学者が知っておくべき勉強についてのいくつかのこと(改定版)
(2024年11月)内容を一部修正、追記、構成の変更をしました。
0.はじめに
前回の記事を読んでも法科大学院の未修者コースに進学したいと考えている未来の後輩に向けて、私の過去の体験を踏まえ、司法試験の勉強について「初学者の段階で知っておきたかったなぁ」と考えるいくつかのことを記します。
この記事は司法試験の個別具体的な勉強法については(私の能力不足という理由から)極力触れず、勉強法以前の知識や考え方についてを書きたいと考えています。内容のレベルは低いので、初学者以外の方だと参考にならないとは思いますが、よろしければお付き合いください。
※注意
筆者は司法試験に合格はしていますが、成績は1000番台です。
順位を出されてもよくわからない方のために言い換えると、「良くない」ということです。
何にでもいえることだとは思いますが、だれのアドバイスを聞くかというのはとても重要です。
書いていて悲しくなるのでみなまでは言いませんが、つまりはそういうことです。ご注意ください。
1.司法試験に必要な能力
(1)司法試験に必要な能力
そもそも司法試験ではどのような能力が問われるのでしょうか?
司法試験とは、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定する試験(法務省より)」だそうです。
つまり「学識」と「応用能力」をみているようですね。
また、司法試験ではその論述試験という形式から、与えられた事案(問題)を整理・分析して、問題となる法的論点について分析・処理し、その結果を時間内に論理的に記述することも求められるといえます。
上記の2つに加えて、この「記述力」も重要そうです。
以上を踏まえて大雑把に分ければ、司法試験とは以下の3つの能力が問われる試験だと考えられます。
A. 法的知識の理解
法的知識の暗記、理解、具体的事例へのあてはめ(使用)等。
B. 事案を法的に分析し、処理する能力(法的思考)
事案の整理、論点の抽出、論点の処理、非典型論点への応用力等。
C. 記述力(上記AとBを答案に落とし込む能力)
法的三段論法による記述、論点の軽重による記述のメリハリ(何を書くか、何をどの程度の文量書くか)、論理的文章力等。
では、これらをどのように習得すればよいのでしょうか。
(2)自分にあった勉強法
前回の記事で、未修者かつ初学者は、「自分にあった勉強法」を早く探せという趣旨のことを書きました。
これをより具体的に言語化すれば、上記ABCの能力のうち、どの能力が自分には欠けているのか、どの能力を伸ばす必要があるのかという視点から、各科目ごとに!、自分にあった勉強法を探せ、ということです。
たとえば、
問題文を読んで全く論点がわからなかったら、Aの能力が不足しています。
問題文を読んで論点がわからなかったが、解説を読んだら論点を知っていたのであれば、Bの能力が不足しています。
問題文を読んで論点には気付いたが点数が入らない、書けないという場合は、Cの能力が不足しています。
これらを各科目ごとに考え、勉強方法を検討する必要があります。
司法試験の勉強法というのは多種ありますが、各勉強法はその目的、つまり伸ばす能力が異なります。
たとえば、自分には上記Aの知識が全体的に足りないと考えるのであれば、過去問(A△B◯C◯)を解いてBとCの能力を上げるのではなく、基本書や予備校本を読んで(A◯B△C✕)インプットに注力すべきです。
また、たとえば、Cのアウトプットの能力が足りないと考えるならば、基本書(A◯B△C✕)を読んでいても非効率です。
とても当たり前のことを書いているように思えるかもしれませんが、司法試験にはどのような能力が必要かという視点から、自分にはどの能力が足りないのかを分析し、これを補うためにはどのような学習をすべきかという考えを持つことはとても重要です。
少なくとも、各科目ごとにこの視点で検討すれば、勉強はしているのに成績が伸びないというような事態は避けられるはずです。
詳しくは後述しますが、未修者にとって受験勉強に費やせる時間は非常に少ないです。
無駄な勉強をしている暇はありません。
なお、合格者が勉強法を語る中で「過去問を解け」というのがよく挙げられると思います。
これは過去問答練が上記ABCの能力全ての向上に効果的(A△B◯C◯)だからです(他にも出題傾向の把握や同種の出題への対策等色々メリットがあります)。
もっとも、過去問の答練だけが唯一絶対の正解というわけではありません。
例えば、私の場合はAとBの能力に不安がありましたが、Cには(謎の)自信がありました。
なので過去問学習はしましたが、フル起案ではなく答案構成のみに留め(A△B◯C△)、残りの勉強時間はまとめノートの周回(A◯B△C✕)でのインプットを中心としていました。
結局、誰にとっても共通する、唯一絶対に正解の勉強法というのは(おそらく)存在しません。
だからこそ、自分の能力を冷静に分析して、不足している能力を補っていく、この繰り返しが重要だと、私は考えます。
(ここでのポイントは、「不足している能力を補う」という点です。長所を伸ばすでは決して有りません。詳しくは「2. 司法試験の合格水準」で後述します。)
次の問題は、この能力をどのレベルまで上げる必要があるか、という点です。
※なお、念の為補足しますが、私は受験生から勉強方法をどうしたらよいかと相談を受けたら、その人の過去問の答練の頻度を絶対に確認します。
このように、過去問の答練が無意味だとか不要などと言うつもりは全くありません。
上記のとおり(A△B◯C◯)、過去問の答練は司法試験に必要な能力を全体的に伸ばしてくれる、非常に有益なものです。
また、過去問を解くことで、自分にはその科目ではABCのどの能力が足りないのかを教えてくれる良いバロメーターになります。
これらの意味でも、過去問答練は非常に有益です。
しかしながら、一点注意しなければならないのは、過去問答練の答案を人に見せない人は、誤った方向に進んでしまう可能性があるということです。
「答案が書けている人」と、「答案が書けている(つもり)の人」、は全く違います。
上記のバロメーター的な意味合いでも、「合格者はみんな合格するには過去問答練と言ってるし、過去問答練だけ頑張ろう!」なんて姿勢では誤った方向に進んでしまって、軌道修正もできず、それでは全く意味がありません。
過去問答練の答案は絶対に人に見せるべきです。
優秀な人に答案を見せて、初めて過去問答練に意味があります。
法科大学院の(面倒見の良い)教授や、クラスの優秀な人に恥を忍んで自分の答案を見てもらえるようにお願いしましょう。
不合格よりも一時の恥のほうが絶対にいいです。
絶対に答案を見てもらいましょう。
(3)未修者ならではの注意点
次の話に移る前に、未修者ならではの注意点に触れます。
未修者でかつ初学者だと、とくに法科大学院1年目は膨大な量のインプット(上記Aの学習)に追われる日々だと思います。
そうすると、Aの能力だけが向上し、BとCが不十分という状況に陥ります。
期末試験がマークシートではなく論文式であることからもわかると思いますが、Aの能力だけあってもCの能力がないと詰みます。
しかも法科大学院によっては、Cに関する具体的な指導(答案をどのように書けばいいか等)がないことさえあります。
Aの学習で忙しいと思いますが、必ずCについても勉強しましょう。
いくら知識があっても答案に書けなければ点になりようがありません。
Cの基本は「法的三段論法」です。
初学者は一番最初面食らうと思いますが、期末試験も司法試験も論文試験であって自由な感想文の試験ではないので、この「法的三段論法」に則った答案でないと評価されません。
基本は「(問題提起)、条文解釈、あてはめ、結論」です(後者3つが三段論法)。
具体的にどのように書くかは、法科大学院が共有している優秀答案を参考にしましょう。入学したら見れると思います。
ネットに優秀な方々が再現答案をあげていて大変ありがたいのですが、初学者だと誰のものをみたらよいかがわからないと思いますので、法科大学院のものを見るのがいいと思います。
(とくに社会人出身だと、「結論から言えよ」って思いますよね。でも郷に従って下さい。)
繰り返しになりますが、自分の答案は信頼できる他人に、絶対に確認してもらいましょう。
間違った努力は時間の無駄です。
2.司法試験の合格水準
(1)司法試験合格のために必要な点数
司法試験に必要な能力についてはなんとなくイメージがついたかと思います。
では、この能力をそれぞれどの程度身につける必要があるのでしょうか?
数字がないとイメージが難しいので、司法試験の最低合格点数から考えます。
初学者だと、司法試験を合格するためには、論点を1つも落としてはいけないだとか、一科目でも壊滅的だと合格できないだとか、点数としては8割くらいないといけないのでは?などと考えるのではないでしょうか?
結論から言いますと、司法試験の論文試験で必要な点数は5割から6割です。
(詳しくは以下の記事が詳しいので以下を参照して下さい。)
さらにいえば、司法試験の論文式試験の合格最低点と全体平均点を比べた場合、全体平均点のほうが合格最低点よりも高いです。
正直わけわからないですよね。でも事実です。
つまり、未修者としては、ロースクールを留年することなく卒業して、司法試験で平均点前後を取れば、司法試験に合格できるのです。
(このように聞くと、なんだかいけそうな気がしてきますね?実際には難しいですが…)
(2)司法試験合格のための戦略
以上を踏まえて言えることは、司法試験とは平均点を取れば合格できる試験である、ということです。
つまり、司法試験に合格するためには、とにかく平均点以下を取らないような勉強をすればよい、ということです。
野球で例えるならば、とにかく8科目ポテンヒットでいいからヒットを打ってください。
ホームランなんか全くもって必要ないです。
とにかく8科目中1回も三振しないことが重要です。
1科目ボテボテのゴロを打ってしまっても、1科目ツーベースヒット打てれば全然なんとかなります。
でも1回三振してしまうとスリーベースやホームランが必要です。これは未修者からするとかなり厳しいです。
平均点以下を避けるためには、得意な科目を伸ばすのではなく、不得意科目をどうにかする努力がなにより大切です。
そして、一般論として、何が出題されるかわからない(初見の現場思考問題がでてくる可能性が高い)論文式試験よりも、過去問から類題が一定数出題される短答式試験のほうが、点数を安定してとれます。
そうすると、司法試験合格のための戦略としては、
短答式試験でできる限り平均点を超える点数をとり、論文式試験では平均点を下回らない答案を書く
ということが合理的といえます。
短答式試験は足切りさえなんとかなればいい、と考えてたりしませんか?
それでは非常にもったいないです。
司法試験の仕組みとして、短答式試験は9科目目ともいえます。
ここでリードが取れれば取れるほど、他の8科目のハードルが下がります。
短答、めちゃくちゃ大事です。
どうしても後回しにしがちですが、それでは非常にもったいないです。
以上のとおり、司法試験合格のための目標はイメージできたと思います。
次の問題は、これをいつまでに習得するか、というスケジュールの問題です。
3. 学習スケジュールを逆算して考える
(1)入学から司法試験までの日数
前回の記事でも書きましたが、未修者コースは留年率が高いです。
なので留年しないように期末試験に向けた勉強をすることが非常に大切ですが、あくまでも最終的な目標は「司法試験の合格」です。
ここで困るのが、「法科大学院での勉強」が必ずしも「司法試験の合格」に繋がらないということです。
前回の記事でも書きましたが、法科大学院は法科大学院であって、司法試験予備校ではありません。
司法試験合格、という視点に限っていえば、法科大学院の授業との付き合い方には気をつける必要があります。
司法試験の勉強をしつつ、法科大学院で留年しない成績を取る。
在学中受験での合格を狙うのであればなおのこと、この無茶をこなすには、学習スケジュールを考えることが重要です。
たとえばですが、在学中合格を目指す場合、入学から受験までおおよそ27ヶ月です。
単純に8科目で考えたら、1科目ごとに3ヶ月とちょっとしかそれぞれ勉強できません。
これをより現実的に考えれば、民法を5ヶ月、刑法、憲法を4ヶ月、残り4科目それぞれ3ヶ月、選択科目に2ヶ月、それぞれ勉強時間を費やせるというイメージでしょうか。
3ヶ月ちょっとで司法試験合格レベルに勉強を!?
さらに追い打ちをかけることをいえば、普通の人は毎日8時間も勉強できません。
このように、司法試験から逆算して考えれば、無駄にできる時間は少しもないことがよくわかります。
前回の記事でも強く書きましたが入学前のスタートダッシュがいかに重要か。
何度でも書きます。入学前から勉強してください。
おそろしいほど時間がないですね。
前回の記事でも繰り返しましたが、何度でも繰り返します。
未修者コースは茨の道です。
(2)学年別の学習スケジュール(仮)
学年別の学習スケジュールとしては、ざっくりと考えるだけでも最低レベルとして以下のとおりでしょうか。
・1年次
7科目の基礎固めを中心に学習。
とにかく詰め込んで、頭の中で整理する。具体的な到達目標は1年次終了時に司法試験の問題を読んで、(論証が完璧には書けないまでも)論点に気付けるレベルまで持っていくことでしょうか。
選択科目については放置していいというか放置せざるを得ないのではないかと思います。7科目の優先度のほうが遥かに高いからです。
時間があるならば、それは全部民法に回します(これは絶対に民法一択です。論文式試験、短答式試験、合格後の実務、どれをもっても優先度ぶっちぎりNo.1の科目です。)。
なお、私の体験談としては、1年次が1番勉強時間が確保できると思います。授業の予習という意味で法科大学院の授業に注ぐ時間が少ないからです。
振り返っても、1年次にもっと勉強すればよかったなと反省しています。
当時は勉強していたつもりでしたが、やはり初学者なので学習効率が悪く、やったつもりにしかなっていなかったと振り返って思います。時間がもったいなかったです。
このことからも、上述した「自分にあった勉強法」を早い段階から意識することがとても大切だといえます。
・2年次
7科目の基礎の穴埋め+選択科目の基礎硬め+司法試験の過去問中心に学習。
勉強方法にもよりますが、どんなに遅くとも夏休みには司法試験(論文)の過去問を解きはじめたいはずです。
夏休み開始時点で受験までは1年を切っているわけですから、この時点から過去問8科目を、1科目1回書ききるのに2時間かかると考えると、実際に解ける問題数は少ないことがわかります。
短答式試験の勉強は、とくにこだわりが無いならば辰巳の短答過去問パーフェクトが良いと思いますが、これも一周するだけでとんでもない時間がかかります。(短答式試験の重要性は上述のとおりです。非常に重要です。)
試験の1年前くらいからこつこつとやりたいと考えれば、やはり2年の夏休みには手をつけないといけません。
※ちなみに、2年次から未修者は既習者と同じ授業を受けることになります。
突然授業のレベルが著しく上がりますので、ここでついていけずに留年する人も多いです。
しかしながら、前回の記事でも書きましたが、未修者の目標は、卒業時点で既習者に追いつくことです。
絶望することなく、適切な努力を続けましょう。
・3年次
8科目詰め込み+司法試験の過去問を中心に学習。
勉強法にもよりますが、直前期はやはりどうしても詰め込み学習が中心になるものだと思います。
ですので、実質的に腰を据えて論文の過去問に向き合えるのは2年次しかありません。
でも過去問はできるだけ多く答練をしたいです。どうしましょう。
試験日から逆算してスケジュールを考えることが重要なのがわかっていただけると思います。
※ちなみに、私も受験の直前は詰め込みばかりをしていましたが、試験への緊張から、勉強をしても全く知識が頭に詰め込めないという事態に陥りました。
具体的には、論証集(後述します)を読んでも、目が文章の上を滑ってしまって、全く頭に入らないという事態です。
(これが伝わるといいのですが、私もまさか直前期の超重要な時期にそんな状況になるとは思いませんでした。)
直前期や受験当日は、やはり通常の精神状態ではありません。
ぜひ、こういったイレギュラーも考慮に入れて、自分のスケジュールを考えて下さい。
要するに、前回の記事でも繰り返しましたが、司法試験合格を目指すなら今すぐ勉強して下さい。
4.細かいあれこれ
未修者の方にぜひ知ってほしい考えは、上記1から3に書きました。
以上、要するに、
1.司法試験ではどんな能力が問われているのかを意識して、
2.それぞれの能力を、各科目毎に、合格水準へとまんべんなく向上させることを目標として、
3.司法試験当日までのスケジュールを意識しながら
勉強することが重要だ、ということです。
これらを意識すれば、大外しはしないはず…
以下では細かい点をポツポツと思いつく限り書きたいと思います。
(0)そもそも、聞かれた問題に答える
以下の「(2)論証集の目的」で記載する内容と一部重複しますが、そもそも論として、論文式試験では聞かれた問題に答える必要があります。
これを読んで、「なにを当たり前のことを…」と思うでしょう。
ですが、どうやらこれが出来ていない人が多いようです。
「聞かれた問題に答える」とは、具体的には以下の2つの意味を持ちます。
A. 聞かれていないことに答えない
たとえば、弁論主義のうち、自白原則について問われている問題が出題された場合に、同じ弁論主義だからといって証拠原則や主張原則について述べてもなんら意味がないわけです。
これは論証集を丸暗記することで起こりやすい問題のようです。
詳しくは後述しますが、論証集をそのまま吐き出すことで、問題文に沿わない内容の答案を書いてしまうことがあるようです。
無意味で有害なので絶対に辞めましょう。
聞かれたことに答える、ということは、論点を把握して、自分はそれをどう考えて、結論としてこうなる、という一連の思考を論理的に答える、ということです。
私はこれも知ってるし、これも知ってます、というアピールの場では決してありません。
聞かれた内容について答えればよいのです。
B. メイン論点を中心に答える
論文式試験の問題は単一の論点であることは少ないです。
メインの論点が1つあって、周辺の問題が複数ある、ということのほうが多いと思います。
あとは、たとえば民法の要件事実の場合、Xの要件は簡単だがYの要件は複雑、というようなことがあると思います。
このとき、試験が問いたいのは難しい論点に受験者がどのように回答するか、という点です。
周辺の論点、簡単な論点をいくら書いても効果は薄いです。
試験は何を聞きたいのか、ということを考えれば、メインの論点に挑み、これを解決する中で周辺論点にふれるべきです。
重く書くべきところを重く書き、軽く書くべきところを軽く書く。
これがいわゆる、答案のメリハリです。
聞かれた内容(試験が答えてほしい内容)に答えればよいのです。
(1)過去問はすぐに見る
法科大学院に入学したら絶対に言われると思いますが、司法試験の過去問は学習の初期の段階で必ずみましょう。
(現実逃避がしたかったのか、なぜか私は2年次の夏休みくらいまで一度もみなかったのですが本当に無意味で無駄なことをしてしまいました。)
解けなくてももちろん問題ありません。
問題の文量がどれくらいで、どのような出題形式になっているのかを把握する程度でかまいません。
上の1で「司法試験に必要な能力」というのを書きましたが、実際の問題をみないとイメージがつかめない、ゴールが描けないと思います。
自分がどこに向かって、どのような能力を身に着けようとしているのかを把握するためにも、絶対に過去問は初期の段階で一度はみましょう。
人によって試験の解き方は異なるのですが、例えば私は司法試験の答案構成を終わらせるまで試験時間120分のうち40分は使います。
つまり、試験開始から40分間、私は答案用紙に1文字も書きません。
そんな試験を受けた経験がある人の方が少ないはずです。
司法試験は特殊な試験です。
自分がどんな試験に挑もうとしているのかを把握するためにも、必ず早い段階で見ましょう。今すぐでもいいです。
(2)論証集の目的
他の分野の勉強だとあまり出てこない(?)が、司法試験では当たり前のように使われているものの一つが「論証集」だと思います。
私も入学してしばらくはその存在自体をよくわかっておらず、これを使ってどのように勉強するのかを理解していませんでした。
これから入学される方も学習を進める中で論証集には絶対に触れることになると思いますので、論証集との付き合い方の一例を書きたいと思います。
「論証集」とは、特定の法的論点について触れるべき検討事項に関する解釈の記述をまとめたものです。
たとえば、民法177条にある「第三者」とはどの範囲の者を指すのか?という論点がありますが、これに対する解釈を記述したものが論証(論証パターン)です。
論証を事前に暗記することで、試験当日に同じ論点が出たならば、暗記した内容を答案に書き写すことでひとまず答案の形にできる、というのが論証集の目的です。
覚えるのは大変ですが便利そうですね。
しかしながら、論証集を暗記すれば司法試験に受かるのかというと、そういうわけではまったくありません。
なぜならば論証集は典型的な法的論点、いわゆる「典型論点」にしか対応できないからです。
実際の司法試験や期末試験では、典型論点に対して「ひねり」を加えてきます。
そうすると、「〇〇のときは△△だから✕✕」と事前に用意した論証の前提の〇〇が崩れるので、論証がそのままでは使えなくなります。
典型論点と今回の試験問題でどの点が異なっているのか、その違いは論点にどのような影響を与えるのか、その違いを踏まえてどのように解釈するのか、解釈を踏まえて導き出した結論は妥当なものとなっているのか等々、実際に検討すべき事項はたくさんあり、論証を暗記すればなんとかなるという単純なものでは決してありません。
したがって、初学者かつ未修者のよくある疑問として、「論証集は一言一句暗記する必要がありますか?」というのがありますが、答えとしてはNOです。
暗記するのではなく、むしろ、その典型論点のなにが問題で、なぜそれが論点になっていて、どうしてそのように解釈するのか(結論をとるのか)を理解しないと、試験本番でひねりをくわえられたときに何も対応できなくなってしまいます。
(ただ暗記するよりも大変ですね。)
また、司法試験や期末試験の講評でよく書かれますが、事前に暗記した論証パターンをそのまま答案に書きつけるのは採点官から印象がよくないようです。
これはどういうことかというと、極端な例をいえば、典型論点にひねりを加えた問題で「〇〇のときは△△だから✕✕」というような論証を書いても、「いやいや…この問題は◯◯のときではなくて◇◇のときだから…この人はなにもわかってないんだな」と低い評価が与えられてしまう、ということです。
先にも書きましたが、司法試験は「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定する試験」ですから、自らの「応用能力」を示さなければなりません。
「論証丸暗記では司法試験は乗り切れない」ということだけでもこれからの学習のために覚えておいてください。
※あと、この勘違いをする人はいないかもしれませんが、自説(自分が試験で書く予定の説)のみ覚えるのではダメです。
反対説も覚える必要があります(私はこの勘違いをして無駄な時間を過ごしました。)。
とくに刑法は学説対立について直接聞いてくることがありますので、学説のうち覚えやすいやつを一つ選んで、それだけ覚えればいいや、という姿勢は間違いですので、絶対にやめましょう。
(3)判例学習
論証の学習と似ているのでちょっとだけ書きます。
法科大学院に入学すると大量に判例を読むことになりますが、ここで意識して覚えるべきは判例の結論だけではありません。
判例が、どのような事案で、どのような理論構成で、結論に至ったのかまでを意識して覚えてください。
これは先の典型論点のひねりの話と似ています。
司法試験では「この判例を知っているか?」という問題と、「判例では〇〇だけど、◇◇の場合はどうか?」というひねった問題がでてきます。
結論だけを覚えていると、後者の問題に対応できません。
この点注意するようにしてください。
(なお、さらに厳密にいえば短答にしか出てこない判例というのもありますが、初学者だとどれがそれなのかわからないと思いますので最初はあまり意識しなくていいと思います。)
(4)まとめノート(一元化教材)
どのように勉強するにせよ、各科目この資料を参照すればすぐに知りたい知識にたどり着けるというまとめノート(一元化教材)があると非常に便利です。
司法試験直前期の詰め込み期に基本書を一々引くのは時間がかかります。また、知識の定着のためにも、これを周回すればいいと思えるまとめノートがあると非常に助かります。
これを0から自作する人もいれば、予備校の論証集に書き込みをして自分なりにカスタマイズする人もいます。私は後者でした。いずれにせよこれが作成できると学習効率があがります。ぜひ検討してみてください。
詳しくは以下の記事が素晴らしいです。
(余談ですが司法試験では試験室内での電子機器の使用が禁止されていますので紙の資料のものがあると司法試験当日でも便利です。デジタル派の人は廊下で頑張ってました。)
(5)期末試験で自分の体感と評価のズレを確認する
予備校の答案練習など類似のサービスを受けない限り司法試験本番までで自分の論文の評価をしてくれるのは期末試験しかありません。
法科大学院に入学すれば、過去の卒業生のデータから学内平均〇〇点とれば司法試験の合格率は〇〇%というようなデータを共有されると思います。これは一つ自分の目標になりますので重要です。
(ちなみに1年次の後期の段階でC評価(明確に平均以下)を取っていると非常にまずいと考えたほうがいいです。先にあげた3つの能力をもとに自己分析をして早急に学習の軌道修正を図るべきです。)
しかしそれよりも重要なのは試験に対する自分の体感での評価、つまり「この試験では論点を漏れなく書けたからA評価だろう」等のいわゆる手応えと実際の成績との乖離を埋めることです。
自分では十分書けているつもりなのに成績が良くないのは最悪ですが、自分では書けていないつもりなのに成績が良いもそれはそれで問題です。なにをどう書いたらどれくらいの評価になるのか、という感覚が自分の中にないと学習効率が悪いです。1年次の試験ではわからないと思いますので、2年次の前期の期末で、なるほどこれくらい書けたらこれくらいの評価なのか、という感覚が自分の中にできていると理想的だと思います。
また、上記にもつながりますが司法試験の論文は相対評価です。上記「これだけ書ければ大丈夫だろう」という手応えと、「これはみんな書けないから落としても大丈夫」「これはみんな書けるから落とすとまずい」という視点があると安定感が違います。意識して身につけたいです。
※また、繰り返しになりますが、期末試験に限らず、答案は絶対に優秀な他人に見てもらいましょう。
軌道修正大事です。
(6)短答も大事
短答の重要性はすでに書きました。
より具体的な内容は、以下の素晴らしい記事にすべて書いてありますので、ぜひ一読することをおすすめします。
(7)条文を引く
基本書を読んでいるときは必ず条文を引きましょう。
すべての出発点は条文です。
条文を引いて、目を通す習慣をつけましょう。意外かもしれませんがこれが勉強をする上で一番大事という人もいます。
5.終わりに
前回の記事だけ書いてこのアカウントは放置する予定でしたが、予想以上にたくさんの方に読んでいただき、ありがたいことにフォローまでしていただいて心苦しくなったので、蛇足ですが当記事を執筆しました。
せっかくフォローしていただいたのに恐縮ですが、もう他に記事を書く予定はありませんのでどうぞよろしくお願いいたします。
今回も長い記事となってしまいましたが最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
書いていて改めて思いましたが本当に大変な試験だと思います。未修者であればなおさらです。
この駄文が皆様の勉強に1ミリでも役立ちましたらこれ以上の喜びはありません。
皆様のご健闘を心からお祈りしております。