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恐怖の一夜

長く生きていれば、嬉しいこと、悲しいこと、いろんな出来事があります。
そんな中、人生で最も恐ろしかった体験です。

2010年、生まれてはじめての手術を受けました。
みぞおちからへそ下までの開腹手術。

手術後に目覚め、家族がいるな〜と思って次に目覚めた時には窓の外は暗くなっていました。夕方なのか夜中なのか…。
そんな集中治療室での出来事です。

眠ったり目覚めたりを繰り返していましたが、大きな音に起こされました。

部屋には3〜4のベッドがあり、仕切りで見えないけれど隣のベッドの人が看護師さんと話していて、不機嫌な感じ。
まあ、ICUでわくわくゴキゲンな人はいないだろうから気にしない。今夜は発熱、酸素マスクやらで寝返りもできない苦しい状態に耐えるしかない。

と!

ものすごい大声。
隣の人が手術直後とは思えない声量で怒鳴りちらしているのです。

(なななな、なに!?!)

自分はこんな所に居る必要は無い、外に行くので管を全て外せ!と。
看護師さんとお医者さんがどんなに(手術後だから無理)と説明をしても、管を外せの一点張り。
これが恐怖の一夜のはじまりでした。
看護師さんたちとのやりとりを要約すると、お隣さん(Aさん)は自宅で倒れて救急搬送され緊急手術、今に至る。という流れのようでした。
特に採尿の管が気に入らないご様子。
目覚めたら管だらけになっていたのだから動揺するのはわかるけど、ひと晩ぐらい我慢すれば良いのに。
しかし、事態は悪化していきます。

「Aさん!ダメです!勝手に管を抜かないで」「あ、あ、あ!起き上がっちゃ、いけませんよー!」「暴れないでくださいっ!誰かー!来て!」

(ええ〜!)

管を抜いてくれないのに業を煮やしたAさんは、ついに自ら管を引っこ抜き逃亡をはかる決断をした模様。
怖い!こわー!

《モンスターがあらわれた》
《とざわの装備》
防具:酸素マスク、背中に痛み止めの管、腕に点滴、下腹部にモリソンドレーン、他パルスオキシメーター、採尿管、エコノミークラスシンドローム防止の足もみもみ
《とざわの武器》
なし
《たたかう・にげる
・じゅもん・どうぐ
どれにしますか?》
《にげる》
《とざわは逃げられない》

そうです、逃げられない。
赤子の時以来の低い防御力、手術後で最低のHP。
なのに逃げられない。

「誰か!奥さんを呼んできて」「これ以上暴れたら、縛るしかない!」「Aさん、だめですってば!」

(た〜すけて〜!)

そんな時でも一瞬だけ笑ってしまったこともありました。
「AさんのせいでOさんが怒っていますよ!」「温厚なOさんが怒ってしまいましたよ、どうするんですか!Aさん!」と言う看護師さんたちの声。
Oさんはいつでも冷静で頼りがいのある看護師さんなのですが、怒ったら豹変するのかしら?Aさんも(どうする)って言われても…。ぷぷぷ。

たったこれだけのことで笑えたのは怖い時間が続いたために(恐怖ハイ)になっていたのかも知れません。

意識がはっきりしない時間もありましたが、外が明るくなった時に(助かった)と安堵したのを覚えています。

もちろん、実際に危害を加えられた訳ではないので、Aさんを恨む気持もなかったのですが、そもそもAさんは悪くなかったことを数年後に知りました。

(せん妄)
急な入院や手術の時に起こりやすい状態で妄想、幻覚、感情のコントロールが効かなくなる意識障害があるそうです。
親族が入院した時に
(この病院には小人の妖精がいて、綱渡りをしている)
と言い出し、慌てていろいろと調べている時に知りました。

そうかあの夜、私はAさんの恐怖と闘っていたけれど、Aさんは私達には見えない何かと闘っていたのだな。うんうん。と、納得。

ただ、親族が入院していたのも私と同じ病院。Aさんが見ていたのも小人の妖精だったら…と思うと少し怖い。




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