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テンガロンハットへの憧れ

 息子がまだ小さかった頃、彼の将来の夢が、
「みゅーじしゃん」だった頃のはなし。

 息子は、赤ちゃんの頃からおっとりとした性格で、あまり手のかからない子だった。それに加えて、物欲もなく、祖母たちが孫にあれやこれやと買ってあげようとするものの、
「いらないよ。」
と、本当に自分が欲しいものしか買わない子だった。
 よく、スーパーやおもちゃ屋さんで床に寝転がり、泣いている子どもがいるが、そういうのとは無縁な子だと思っていた。そんな息子が、たった一度だけスーパーの床に寝転がり、駄々をこねたことがある。

 子どもたちを連れて、近所のスーパーに買い物に行った。スーパーの一角で、期間限定で帽子やバッグを売りにきているお店があった。息子の目にとまったのは、大人用のテンガロンハットだ。どうしてもこれが欲しいという。4歳の息子には大きすぎて、かぶると顔まで隠れてしまう。息子に説明するが、納得せず、とうとう床に寝転がり泣き出した。驚いた。テンガロンハットに対して、こんなにも情熱があるのかと感心した。子供用のお店で探そうと説得して、ようやく泣き止んだ。お店の人も、さぞかしびっくりしたことだろう。

 スーパーの帰りに、子どもの衣料品を売るお店に行った。子供用のテンガロンハットを見つけ、息子は満足そうだった。長年愛用し、外に行く時はもちろん、家の中でもよくかぶっていた。


 息子がなぜこんなにもテンガロンハットに憧れを抱くのかと言えば、「みゅーじしゃん」になりたかったからだ。当時、息子にとっての1番の憧れは、ウルフルケイスケさんだった。子どもたちが小さい頃、毎年地元で開催されていた野外ライブに一緒に行っていた。そのステージで、テンガロンハットをかぶり、ギターを弾くウルフルケイスケさんの姿に衝撃を受けたようだ。クリスマスにはおもちゃのギターを頼み、毎日家の中でかき鳴らしていた。
 ウルフルケイスケさんは、ステージではいつもテンガロンハットをかぶり、素敵な笑顔で演奏していた。うちの息子は、ウルフルケイスケさんの象徴のようなテンガロンハットを見つけてしまったので、どうしても欲しかったのだろう。それからは、ギターをかき鳴らす時は、必ずテンガロンハットをかぶるようになった。


 そんな風にして手に入れたテンガロンハットは、息子の頭に小さくなって入らなくなるまで大事に使った。今の彼の夢は、「みゅーじしゃん」ではない。今は、いい思い出だ。

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