一気にひとまとめに、の天国と地獄。
およそ10年ぶりくらいに引っ越しをすることになり、10年分くらいの「めんどくさい」を口にしている。とにかく各種手続きが、「めんどくさい」のだ。
どうにか一回で澄まないだろうかと考えていたところ、そんな輩が多いのだろう。某引っ越し業者が「一回でできる」と紹介してくれた。電気・ガス・インターネットの開通手続きの代行である。
めんどくさがりの私は、当然飛びついた。面倒なだけではない。引っ越しの手続きが片付くまでは気持ちが落ち着かず、仕事に集中できないのも嫌だった。だから、引っ越しのあれこれは誰かがやってくれるなら任せてしまいたい。
そんなわけで、いわゆる代行業者に御願いし、一回で済ませることに成功した。正確には、一回ではなく、“一箇所への連絡”で、やり取りは何回かあったけれど、それでも手数料なし(つまり無料)で、移行作業を容易に終えられたことに満足した(いろいろからくりはあったとしても)。
一回でまとめられるって、便利〜!と小躍りするくらい喜んだ。
そして、ふと思った。これって、スマホだなと。
電話機であるはずのものに、カメラ機能がついて、メール機能がついて、お財布機能がついて、定期券機能までついている。一台であらゆるものがまとまっている。実に便利だ。
大昔、流行った「BBクリーム」も同じく。クリーム1本で、乳液にもなり、化粧下地にもなり、日焼け止めにもなり、ファンデーションにもなる。すべてをフォローした画期的なクリームとして、一時期流行りに流行った、アレである。
いつの時代も、どんなジャンルも、一回で済ませたいという、ズボラな人間の欲望というか、忙しい現代人の効率化志向というか、それらを満たすビジネスが生まれるもののようだ。
引っ越しの面倒はまだある。順番は逆になったが、各種解約手続きである。解約は自分でやらなくてはならないと代行業者に申し訳なさそうに言われ、がっかりした私は、まずはケーブルテレビとインターネットを解約することから始めた。セット割引で契約していたからだ。
ここで問題が生じた。うっかり忘れていたのだけれど、ケーブルテレビ業者にインターネットだけでなく、電気もまとめてお願いしていたのだ。「まとめた方が安いし、楽」という発想で、契約したことを思い出した。
加えて、携帯電話の契約もセット割引にしていたことが判明。解約することで、電話料金の割引が消え、お値段が上がってしまうという問題を突きつけられることになった。
ケーブルテレビのカスタマーセンターの方はこう言った。
「UQモバイルの契約プランの変更とご相談に関しては、お客さまで直接お問い合わせください」
一回で済ませられることは、なんて楽で便利だろう!と感動していたのもつかの間。ひとつにまとめている場合、解約すると同時に、すべてを失ってしまうという事実に、愕然となる。
大昔、シャンプーとリンスが一本になっている「シャンリー」なるものが市場に現れたときのことを思い出した。
「一度に済ませられるなんて、それは楽ちんな!」と飛びついたものの、どちらの機能も中途半端で、すぐにシャンプーとリンスを単体で使う従来のやり方に戻してしまったあの日……。
一回に済ませられることにはメリットもあれば、デメリットもある。まとめてしまうと、ひとつひとつの役割がぼんやりしてしまうのだ。
たとえば、ケーブルテレビにインターネットと電気とスマホの割引を紐づけて契約していたとき、ひとつひとつの料金をきちんと把握できていなかった。まとめて請求がくるので、そのあたりがザルになってしまうのだ。
スマホもなくしたり、電波障害が起きたり、壊してしまったりすると、すべての機能がストップしてしまう。せめてお財布を持っていれば、そんな不便を感じるはめになる。
どちらが良いとか悪いとかいうわけではなく。
引っ越しのあれこれをしばらくぶりにやってみて、世の中の構造をほんの少し見た気がしたのが、ものすごく面白かった。という話。
引っ越しは頻繁にやるものではないと思うけれど、ときどき「大変なこと」「面倒なこと」をやってみるのは、脳を刺激して、面白いなと思う。
というわけで、私の引っ越し騒動はもうしばらく続く。
(無事に引っ越しを終えて、落ち着きたい!)