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合唱コンクールで泣く理由
親友が、ここ1〜2年で文楽に劇的にハマっている。時間があれば(なくとも)文楽を観に劇場に足を運び、今日もこのあと観に行くという。
なにゆえ彼女は文楽に突き動かされているのか。理由は本人もよくわかっていないようだが、何かがカチッとハマったんだろう。
彼女が言うには、話の筋とは関係なく、何度観ても泣いてしまうシーンがあるのだとか。しかも、それはある特定の太夫(たゆう)さんが語るそのシーンらしい。他の太夫さんでは泣くことはないのに、その太夫さんに限って、涙が出てくるのだという。
理由もなく涙が出てくるとき。を検証すべく、他にこの現象が起きる瞬間はないか、2人で新宿の喫茶店で長々と論じ合った。
私の場合、合唱コンクールがそれだ。別に歌詞で感動しているわけではない。ぶつがりながらも全員が何日も練習した、その軌跡に触れて泣くわけでもない。ただ大勢の声が重なる瞬間、わけもなく涙が出ることがある。なんなら、幼稚園や小学校の授業で「カエルの歌」の輪唱をしている瞬間、声がどんどん重なっていくのに心が震え、歌いながら泣いているときがある。
2人とも「泣く」で合意したのが、薬師丸ひろこの歌声だ。もう時効だろうから書くが、子どもの頃、映画館で聞いた彼女の「Women〜“Wの悲劇”より」に心を奪われすぎて、ラジカセをこっそり大きめのバックに忍ばせ、もう一度映画を観に行った。もちろん、この歌を録音するために、だ。
歌詞はわからないけれど、アイルランド民謡の「ダニーボーイ」(または「ロンドンデリーの歌」を聴き、泣いてしまうことがある。歌い手の声質や歌い方にもよるが、メロディなのか何なのか、胸がぎゅっとなり、よくわからない気持ちがぶわっと湧いてくるのだ。
個人的に、わけもわからず泣いてしまう代表例が、ねずみの国のアトラクション「ピーターパン空の旅」だ。
本当になんということもない、ただ空飛ぶ海賊船に乗って、夜のロンドンの街並みを見渡しながらネバーランドまで巡るだけのものだ。が、上空から一つひとつの家に灯る明かりを目にすると、その温かい光景に、なぜか泣いてしまうのだ。
そういえば、満開の桜を見るだけで涙が出るときがある。
あれは、なんだろう。
もちろん、ストーリーやセリフに心打たれて涙を流すこともある。それは、そのときの自分の年齢や環境、状況が大きく左右していて、何らかの意味や理由があるものだ。
が、理由もなく、勝手に涙が溢れてくることがある。
心に響く、という言葉があるが、まさにこういうときのことを言うのだと思う。
素敵なダンスを観たときもそうだ。
素敵な音楽を聴いたときもそうかもしれない。
が、面白いことに上手いダンスがそうとは限らず、上手い歌がそうとも限らない。
心に響くものは、上手いとはまた違った次元にあって、なんだかよくわからないけど「好き」で「心地よく」、私の心を揺さぶる。
だから、文楽を観に行ってしまうのかも。と彼女は言う。
そして、私は帰宅したら、きっと薬師丸ひろ子を聴くのだろう。
そして、New Jeans(NJZ)のダンスも観るのだろう。なんか泣いちゃうんだよね、うん。