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そういう時に事故は起きる

がん患者の看病というかサポートで、一番疲れることって何ですか?
「疲れる」という言い方は違うかも。大変と言うか。
私の場合、食べてもらうこと。毎度おなじみ「食べられない」問題です。

とはいえ、高カロリーの栄養輸液をCVポートから投与すること(在宅中心静脈栄養法(HPN))になって少なくとも気持ちは楽になりました。
食べてもらえなくてもある程度は直接静脈からカロリーが補われているんだと言う安心感。
全部食べてもらえなくても"残ったら私の酒のつまみにしよう"という安心感。(ん? 何かその考えにおかしい箇所でも?)

HPNの交換手技も慣れて、真夜中にHPNのアラームが鳴り響いても、”ライン(点滴のチューブ)を踏みつけたか~?”ぐらいに余裕で対応できるようになった妻。
しかし、想定外のハプニングが起きたのです。

その日、私は久しぶりに自分のための外出をしました。
仕事ではないのだけど、自分のキャリアを通してお世話になってきたインターネットにかかわることで、ネットの健全性に取り組むコミュニティの集まりがあったのです(インターネットに気持ち悪い広告があふれていませんか?)

とはいえ長く家を空けることはできません。輸液バッグの交換と食事の世話に間に合うように、主催者である教授の研究室を辞去。自宅に戻り、食事のサポートをして、HPNも新しい輸液に交換完了。

それでほっとしたのか、疲れがどっと出た。夫の散歩に付き添いたいけど、まだ家事も残っているし、家にいたい。トレーニング代わりの散歩なので1時間は消費してしまう。普段夫が家から出るときには付きそうのだけど、それほど夫の調子は悪くなさそうだし遠くに行くわけでもない。近所をぶらぶらするだけ。

「一人で行っても大丈夫?」
「大丈夫」

いうわけで夫を送り出し、その隙にわっさーと掃除をすます。20分ほどしたところで携帯が鳴った。
夫からだ。

「ラインが外れて血が出てる」

CVポートから栄養輸液のバッグにつながっている点滴のチューブが外れた?
ってことは、心臓近くの太い血管へと続くCVポートから出ている”延長血管”が切れて、その切れ端が空気中にさらされている状態になっているってこと?

中心静脈、つまり心臓に最も近く血液量が多く流れが速い血管。血液は空気に触れると血液凝固因子が頑張って血を固めに来る。血栓ができる。普通の怪我ならありがたい働きだが、CVポートを埋め込んでいる場合、血栓が詰まってCVポートが使えなくなる可能性がある。

「体に近い方のクランプを閉じて!」と電話でお願いする。ごそごそと音が聞こえるが、妙に長い。

「クランプが止められない」
夫の声。それを聞きながら家を飛び出す妻。

うちのエレベータはゆっくりとしか動かない。そしてこの会話の途中で電波が切れた。

かけ直す。そして走る。
「行くから待っていて!」
走る。夫がいる方向に向かって、走る。

350mほど走って夫発見。
マスクにも眼鏡にも血が飛び散っている。
とにかくクランプを閉じなければ。

っていうかどうしてクランプが閉じられないのか?そんなはずないと思ったが、焦っていたのか、血でよく見えなかったのか、それとも血でぬるぬるだったせいか、チューブの接合部の位置でクランプを閉じようとしていたようだ。その個所は太くなっているからクランプは閉まらない。クランプを1cmほどチューブの方へ上げて、血まみれのクランプを閉じる。

空気への接触は閉じた。

血が付いたバッグを拾って家へ向かう。片手に夫の輸液バッグ側の外れたチューブを持っていて歩いていると、こんな状況なのに”夫をリードでつないで散歩している人”みたいだ、とか思いつつ。

道すがら、訪問看護さんへ連絡をしておいた。でも突然のことなので看護師さんが来てくれるまで1時間弱かかる。

できることは何でもする。主治医に電話する。
先生は「マジかよ…」的な声のトーンで、ヘパリンを押したり引いたりできれば大丈夫だけど、もうヘパリンが動かなかったら(血が固まっていたら)CVポート交換と聞く。「訪問看護師さんがわかっているから」と落ち着かせてくださる。

家に着き、体に付いている血をアルウェッティでふき取り。着ていた服は下着まで血がついているので全部着替え。気持ちも動転しているだろうから水分を取ってもらう。

しかし、夫に落ち着いてもらおうと思って冷静なふりをしてあれこれ世話しているけど、やっぱテンション高いのバレちゃってるだろうな~。っていうか、人間マジでやることがあるときはテンション上がるような気がする。

1時間経過。訪問看護師さん着。コネクタ部分からヘパリンフラッシュしようとしたが、やはり動かなくなっているとのこと。
針を交換しようということになるものの、夫の使っている針が看護師さんには初めて見るタイプだったらしく、さらに応援の看護師さんへcall。最終的に3人がかかりで針ごと交換してもらい、ヘパリンが無事に動く。
良かった~!

なぜコネクタが脱落したのか原因はわからないけど、対策としてはコネクタのゆるみも適宜チェック。そして外出には付き添い必須だ。
大変なことはいろいろある。

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