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二者択一

夫がまたまた入院。
今回は救急に電話したときに「今度入院したら出れないかもしれませんよ」と言われたものの、受診したら「まぁ数日の入院でしょう」と言われ「なんだー、よかったー」と思ったのですが。

入院の原因となった痛みについて最初の見立ては「腸に炎症が起きている」でした。
夫が食べたいと言って買ってきたスープカレーが内臓に溜まっているらしい。なので炎症が収まれば、退院OKということのようです。

数日間、食事を取らず消化器官を休ませて夫の調子が落ち着いてきたところで病院食が提供される。朝食は247kcalのうち、おかず8割、ご飯が1/4程度しか食べられない。久しぶりの食事だから食べられないのではなく、食べているうちにまた痛みが出てきたらしい。

ん? また痛むってどういうこと?

そして昼食はヨーグルトしか食べられない。そして悶絶。吐く。

夕食からまた絶食。
内服薬は抗がん剤S-1含めすべてストップ。

あらゆる痛み止めが投与される。ストロカイン、ブスコパン、アセトアミノフェン、ノバミン、そしてがんのためのナルベイン。これで全部かどうか、実際に投与されたのかどうか、夫はそれどころじゃなく痛かったりするので、病室に言った際に見たり聞いたりしたものだけのメモだけど、それでもめくるめく痛み止めの種類。夫いわく、効いたり効かなかったりするらしいが、傍から見ているとただただひたすら痛んでいるようにしか見えない。

消化器官で詰まっているところはないし、ステントも通っている。じゃあ何が悪いのか? 主治医の表現では”(食べたものの)通り”が悪い、とのこと。消化器官が上手く動いていないという表現のようだ。がんが胃に絡んでいるために、食べ物が入ってきて消化しようと胃が動くとがんによって胃が引き攣れることで猛烈に痛むらしい。

病室がナースステーションの一番近くに移動される。手厚いケアが必要な患者さんのポジションだ。
ベッドの横にはポータブルトイレ。もちろん尿瓶もベッド横にセット。食べてもないのに吐く。起き上がることもできない。

主治医「当初は数日で退院と考えていたが無理そうだ」

そうですね、素人の私が見ても無理だと思います。
ただ、先生がそうおっしゃる意図は遠からず「このまま退院できないかもしれませんよ」とつながっていた。

主治医と今後について話しましょう、と言うことになった。
ポイントは「次の2つのうちどちらを選択しますか?」
・入院ベース:緩和ケアで滞在して、調子がいい日に外出するか
・通院ベース:自宅に帰るか

言葉を濁さずにいうなら、最期を
・このまま入院→緩和ケア病棟をベースにするのか、
・自宅か、
という選択。

もし自宅に帰るなら次の3つの課題がある。
(1)食事:経口だと痛みが強く経口摂食は難しい。CVポートから入れている高カロリー輸液はダイレクトに栄養を注入しているので血糖値が上がってしまう。そのためにインスリンの回数が増えるが、自宅に戻るならそれを自宅で行うことになる。それに栄養はがんを活性化させうるので、栄養の量は押さえておきたい。

(2)痛み:痛みの原因は3つ
・胃(とがん)の引き攣れ
・がんの痛み
・粘膜の荒れ
内服薬を出しても経口摂取できるかどうか? 鎮痛剤を貼り薬に置き換えて、肌にトラブルを起こさないか? 経口薬が飲めない状態を考えて、麻薬を血管に流すためのポンプを装着するか。それには訪問診療を入れる必要がある。それでも痛い時にすぐに訪問診療が来てくれるわけではない。

(3)抗がん剤
今は内服のS-1しか選択肢がないが、経口薬を飲めるのか?
抗がん剤をやりたいなら通院ができる体力が必要。つまり緩和病棟に入ったら抗がん剤治療はおしまいになる。

課題が多すぎてよくわからなくなってくる。が、
・食べられないが点滴からの輸液を単純に増やせない。
・自宅で痛みのコントロールができるのか
・入院=緩和病棟なら希望する抗がん剤治療はもう受けられない
と言うことのようだ。うーん、これは八方ふさがりって状況なんじゃないか。

医療側からの視点だと出口がないので、夫が目下困っていることを並べてみる。
・食べられない
・立って歩くことが難しい
・痛みをとりたい

このうち、2点は次の対応が考えられる
食べる → 例えばアイスなど液体になるもので食べられるかどうか試してみる
体力  → 立てるようにリハビリ等を行う

しかし3点目「痛みをとりたい」については、痛み・辛さへの対応のクイックさ・手厚さを考えれば入院だ。だが抗がん剤を考えれば自宅に戻らなくてはいけない。

夫の希望は抗がん剤を続けたい。正直、抗がん剤が効く見込みは少ない。でも抗がん剤を止めればがんに対して戦うことを止めてしまうことになる。

緩和ケア病棟に入ると抗がん剤ができない。家に帰るには課題がある。
この堂々巡りで、さすがの夫も私に「どうかな?」と聞いてきた。

私の思いは「今の辛い症状を和らげてあげたい。それで本人がしたいと思うことができたらいい」
したいことはできないかもしれない。でもしたいことをさせてあげられない状況においてしまっては前提が成り立たない。

夫が噛みしめるように言った。

「できるだけ長く」

病室に戻った後、夫はもう一度、今度は最後まで言った。
「できるだけ長く(妻の呼び名)と一緒にいる」

また抗がん剤を再開できるチャンスのために、自宅に戻る方向で調整することが決まった。

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