最期は、どこで?
また入院しました。
私の夫の得意技、営業時間中ではなく、またしても救急で。午後を過ぎたころから体調に暗雲立ち込めていましたが、真夜中1時半過ぎ、「病院に電話して」
ほんと、救急の時間帯好きだよねぇ。
経緯としては、その前日の夕方近くから「今日ちょっと散歩は無理。寝る」の発言のあと、痛みと吐き気が強くなっている様子。夕飯も「何も食べられない」
これまでに出した食事が悪かったのか? いや、もし食べたものが悪かったとしても健常な状態だったら下痢になって「ああ、食べたものがいけなかったのか」とか思える。でも、抗がん剤投与されている体。下痢を通り越して水様便のめくるめく日々。排泄や熱なんかでは抗がん剤のせいなのか、そもそものがんのせいか、あるいはほかの臓器の悪さか、それとも食べたものが悪いのか素人にはお手上げ。
夫の「痛い、痛い」の訴えに対して、またしても無力な妻。
最終電車も終わった時間になって、ようやく夫が病院へ行くと言ってくれた。急ぎ、病院へ電話!
言うべきことも手馴れてきた。
・そこの病院に罹っている患者です
・患者番号
・問題が発生したから救急で診てほしい
・症状(問題点)説明
・あと何分で病院に行くことができる
これだけ伝えれば、次のステップ、「様子見してください」か「救急受診」かの相談になるはずだ。
しかし、違った。
「今度入院したら退院できないかもしれないですよ」
と言われる。
がんの診断がついたとき、平均残存期間8か月と言われた。今月がその8か月目だ。
念頭にいつもあったことだが、急に突き付けられた感じがする。忘れていたわけでもない。でも、痛みが出たら病院に電話すれば対応してくれる安心感を持っていたのだ。”夫はもう家に帰ってこれなくなる”は、観念的な理解にすぎなかった。しかし、ひるんではいられない。私は強く冷静でありたい。冷静でいるのはできないかもしれないけど、少なくともそうふるまいたい。
とはいえ、退院できない可能性があることは夫自身にも伝えるべきだ。
夫に「退院できなくなるかもって」と淡々と伝えると、「でも病院で診てもらいたい」との意向。そうだよね、今痛いのをなんとかしたい。
救急に「行きます」と伝えて電話を切り、夜中の道路に出てタクシーを捕まえる。深夜2時ごろに着いた救急外来には難病のお子さんを連れてきた年若いご夫婦がいらした。病気は時間を選ばない。
4時過ぎ、腸の炎症と医師から説明があり、自宅に帰ってもらってもいいが痛みが厳しいようなので入院で行きます、とのこと。
なんだ、帰る選択肢もまだあるのか、と思う。でも車いすの上にいる夫はぐったりしており、今まで救急にお世話になった後では最高に具合悪そう。
数日の入院になるかとこの時点では思われていたが、その予想は間違っていた。だが、それがわかるのはまだ先のこと。
最期をどこで過ごすか、そんなことを痛みに襲われている状況で「じゃー、病院ベースで締めくくります」とか「やっぱ、最期は自宅で」なんて選べるだろうか?
普段から考えていたとしても、だ。
医療側からは包み隠さず情報を伝えてほしい。だから、状況が切羽詰まっていてもネガティブな可能性があるなら把握しておきたい。医師や看護師さんの中には「がん」ではなく「ご病気」と表現したり、「抗がん剤」の部分だけオクターブを下げて話す方もいらして、気遣いだなぁと思う反面、その時決めなきゃいけないことや理解しないといけないことではない、別のことに気をとられてしまう。その点で救急の方が「今度入院したら出れないかもしれません」と普通に言ってくれたことはよかったんだろう。
どんな決断だって後から選び直しはできない。選んだ選択がよきものとなるようにしていくしかない。
- ビビらないこと、ブレないこと、決めたら決めたとおりに動くこと。
数時間前にビビったりひるんだりした妻は、そんなことを自分に吹き込みながら、始発の出る駅に向かって歩いた。一人で帰る道はずいぶんと寒い。