Web小説が書籍化されても同じ小説とは限らない 第一章第七話
第一章 第七話 Web小説では、後頭葉を攻略せよ
昨今、どれだけの人が書店で本を買っているのでしょうか。
私は書店や図書館をウロウロするのが好きなので、頻繁に足を運びます。
ふと、目についたタイトルに心惹かれ、手にする瞬間のワクワク感。その場で立ち読みなどする無駄な時間が、私の余暇の一部です。
ですが、大多数の読者はネットで検索。お目当ての本を購入していると思います。
通常、書店ではライトノベルもBLも陳列する場合、出版社別か、せいぜい作者別ぐらいにしか分類されない。と、なると、膨大な数の棚のどこに、自分の嗜好にマッチする作品があるのか、わからない。
しかも、初読みの作家の作品はハズレかアタリか、その場で判別できません。
そのため、書店に行く人の大半は最初から「あの作家の、あの作品を買う」つもりで訪れる。でないと、時間の無駄になりますし。
一方、ネットで初読みの作家や作品を探そうと思ったら、まず自分が求める作品の『検索ワード』『タグ』を入力。
となると、その時点で多くの読者が求める『検索ワード』が入っていれば、ヒットしやすい作品になる。
BLにも、その時々の流行りの検索ワードが存在します。
売上ランキングのうち、何作かの攻《せめ》キャラが『男前』で『スーツ』『やくざ』『執着系』という点で共通していたとします(BLでは宝塚での男役を『攻め』と呼び、女役を『受』と称します)。
流行の検索ワードは『同級生』『トラウマ』『すれ違い』。
作品のトーンだと『シリアス』『痛い』。エロは『濃いめ』が良いらしい。
上記の検索ワードを、組み立て直してプロットを作れば、流行りに乗った作品を書くことができます。
作品を買ってもらう第一段階として、沸騰中の検索ワードに引っかからないと、ネットでは購買者の視界にすらも入れません。
だから、書き手はひとつでも多くの検索ワードを、ストーリーに盛り込もうとするでしょう。
と、なると、Web小説が書籍化され、書店の棚に並んだ時には、本の背表紙のタイトルが『検索ワード』代わりになります。
ですので、Web小説一派でもあるBLのタイトルも、俺様絶倫攻キャラがヤクザになり、トラウマ持ちの受《うけ》キャラ(2人は同級生で、攻にとって受は初恋相手)と再会し、監禁して強姦。受も攻の執着愛にほだされてトラウマを癒し、結ばれるハッピーエンド。
……だと、わかるタイトルにしようとします(無理やりにでも)。
書店に目当ての本を買いにきたお客様が、たまたまその属性のフェチだったりしたら、ついで買いしてもらえます。
Web小説にありがちな長文のタイトルは、『買われるため』『読まれるため』に必要な対処だと、私自身は考えています。最近ではその傾向に頼る作者が増幅中。まるで粗筋のようなタイトルが常態化。
そして、とある検索ワード系の作品が売れ出すと、その検索ワードが盛り込まれた作品が、続々と出てきます。需要があり、購買層も厚いとわかっているので、そうなります。
買い手も、自分の好きな系統の作品がどんどん出てくる。
次から次へと購入する。読者はあっという間に『お腹一杯』状態になる。『そっち系』は、もういいやと言われてしまう。
今までずっと、著作を買ってくれていた購買層の方々に「もっと他にないの?」と、訊ねられたら、書き手の皆さん、どうします?