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方向音痴の末路【エッセイ】

はじめまして。アイチャイムです。
特技は方向音痴です。

わたくしよりすごい方向音痴の方がいたらお目にかかりたいです。
なんなら対決しましょう。

まず出発して数メートル進んでから店に入ります。
店を一周します。
同じドアから出ます。
はい、もうどっちから来たかわかりません。
1分でわたくしの勝ちです。

初めて行く場所へグーグルマップを見ながら歩いた結果、
画面内で現在地が目的地にぴったりと重なっているのにもかかわらず
たどり着けなかったことがあります。

ちなみにグーグルマップがこの世に存在しなかった遥かな昔、わたくしを憐れんだ知人が
「あなたが歩いていて向きを変えたら地図も回転してくれる技術が開発されたらいいのにね」
と言ってくれたことがあります。
あの方、お元気でしょうか。

技術が開発されても現状はなんら変わりません。

地図を見て歩くことに絶望したわたくしは、当然のことながら、ストリートビューにお世話になることにしました。
方向とか考えるのをあきらめて、風景そのものを記憶することにしたのです。

あるとき都内の繁華街で1か月後に友人たちと食事しようと約束しました。

わたくしが、真っ先にとった行動とは、
駅から店までのストリートビューをくり返し見てシミュレーションをすることでした。

心配なのは道路だけではありません。
都内の鉄道はゾウの脳血管くらい細密かつ複雑なのです。
ネット上にある駅構内の画像、動画などを片っ端から調べました。

(ゾウの脳血管の標本を高校の生物室で見たときの衝撃は一生忘れません。)

問題はそこで解決しません。
わたくしはストリートビュー内でさえしばしば迷子になるのです。

友人にこのことを話しましたが意味がわからないと言われてしまいました。

さらに申し遅れましたが、わたくしストリートビューで車酔いするんです。
これは自分でも意味がわかりません。

とはいえ、現地で何時間も迷子になるよりはましなので、車酔いに耐えながらストリートビューで経路を確かめました。

そのかいあって当日は1時間も早く現地のもより駅に着くことができました。

有頂天になり、ついでに調べておいた近くの神社にお参りしてきました。

その後またしても迷いましたが、よく見たら
ストリートビューで既に一度迷ったところでした。
そこまで予行練習どおりにしなくても良かったんですが。
とりあえず集合場所にたどり着けました。

この成功体験があまりにも強烈だったため、それからは必要以上にストリートビューを見るようになりました。

先日、初めて行った町で、走行する車の助手席から
「ああ、なつかしいな。そこにおまんじゅう屋さんがあって、もう少し行くと、ほら区役所が……って、あれ?
無くなってる???!移転した?」
などとまるで故郷に帰ったかのように話すわたくしに家族は呆れていました。

ストリートビューであまりにも眺め過ぎたせいで、その町に何度も訪れたという有りもしない記憶が捏造されていたのです。

ちなみに迷子になった記憶も同時に捏造されるのでエモさが入る余地はありません。

しかしそれでも、そこで過ごした幻の季節をどうしても忘れられなくて、小説を書いています。
どうか主人公たちが迷子になりませんように、と祈りながら。















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