WILL-CAN-MUSTの「バランス」を考える
前回は、転職準備において自己分析が必要であり、それにはWILL(自分がやりたいこと)と、CAN(自分ができること)、そしてMUST(求人側の必要条件)を使うべしと書きました。細かく検討するには、それぞれ「言語化」する作業が別に必要ですが、具体的な方法は別の機会に譲ります。
今回の記事は、WILLとCANとMUSTのバランスについての考察です。
CANとMUSTの関係
転職では「即戦力」としての人材を求めます。
そのため、求人側は「自分たちがしてほしいこと」を「その医師ができる」か知るための質問をします。この質問のことを「キャリアチェック」といいます。(なお、キャリアチェックでは「これまでどんな仕事をしてきたか」の具体的な回答が求められます。つまり、CANの言語化にあたり「具体的な数値」と「エピソード」で表現できるよう準備する必要があります。)
このキャリアチェックで「CAN」と「MUST」が確認されます。
この2つの関係は、下図のように表すことができます。
CANとMUSTの大きさや重なり具合により、仕事の充実度が異なってくることが判ります。上から解説していきます。
「1.やるべき仕事に追われる状態」
CANが小さくてMUSTが大きい場合です。
自分ができることは限られているので、仕事に追われる状態になります。「臨床研修」のスタ―ト時や転科希望の医師、さらなる指導環境を探す若手医師の転職がこれに当てはまるでしょう。
転職では即戦力にならない医師を雇う余裕はないので「転職候補先」にはなりません。ただ転職先で、常勤離職が相次いで「業務負荷が急に高まる」と、こうした状態になってしまうことはあります。
「2.力量が評価される状態」
CANとMUSTが近くて重なっている場合です。
自分のできることが求人側の必要条件にほぼ合致しており、仕事をコントロールできる状態です。これは転職先として最適な状態です。この図ではWILLとの関係は示していませんが、CANの外側にWILLが広がっていれば「やりたいこと」にむかって「できること」が大きくなる充実度の高い状態です。
「3.能力が高く評価される状態」
CANがMUSTより大きく広がっている場合です。
「できること」が求人側の必要条件を超えており、医師の能力が評価されています。余裕をもって仕事にあたれるので、転職先として悪くないのですが、MUSTが小さすぎると医師が仕事にやりがいを感じなくなる可能性がでてきます。また、自院にとって「オーバースペック」な医師は「早期離職するリスクが高い」と求人側に忌避されることがあります。転職ではCANとMUSTのバランスを上手く取ることが大切です。
WILLとMUSTの関係
キャリアチェックの質問のあと、必ず聞かれるのは「なぜ当院を選んだのか」という「志望理由」です。志望理由(WILL)は、転職理由(WON’T)と裏腹の関係にあります。(WON’Tは最後あたりで説明します)
さらにその延長で「先生は将来何をやりたい」のか「キャリアプラン」についての質問が続きます。ここで先生の「WILL」と、病院の「MUST」のベクトルの確認がされます。次の図は、WILLとMUSTの関係です。
「4.転職を検討できる」
WILLとMUSTに重なりがある状態なら転職を検討できます。
図のようにWILLとMUSTが完全に一致しなくても、先方で調整ができるなら採用は検討できます。たとえば「小手術は可能ですが年齢的に手術は避けたい。在宅医療を希望」という応募の場合などです。手術が必須でなければ、在宅(WILL)に向かって経験(CAN)を積むことができるでしょう。WILLとMUSTの重なりをみることで入職の可能性が測れます。
「5.転職候補にならない」
WILLとMUSTが重ならない場合は転職候補に入りません。
自分がやりたいことと、求人側の必要条件が一致していなければ、転職先として不適合です。そんなことは自明なので、転職リストにも入らないはずですが、なぜか入職されて失敗する事例があります。
WILLとMUSTが重ならない場合は、転職を見送るか、「自分のWILL」を変える必要があります。ところが、自己分析なしで条件転職をされる場合は「自分のWILL」が明瞭に自覚できてないことがあります。自覚がないので、「自分のWILL」を変える必要も感じていません。
その一方で、CANとMUSTは一致しているので、周囲から入職を勧められます。施設からは期待を込めて「年俸アップ」や「役職つき」の提案もされるでしょう。こうした外部要因につられて入職したものの「WON’T(やりたくないこと)」が多いと感じて「ミスマッチ」となるケースです。
※自己分析は転職の準備段階でやっておくことをお勧めします。
WILLを言語化するコツ
「WILL(自分がやりたいこと)」を言語化しておけば、先に述べたようなミスマッチは避けられます。しかし「本当にやりたいこと」「人生において一番大切なもの」を即答できる人はそう多くありません。WILLの言語化は意外に難しいのです。
そこで、WON’T(やりたくないこと)を使って自分のWILLを浮かび上がらせる方法があります。「WON’T」をリストにして「なぜそう思うのか」を重ねて問いながら真因に至るというものです。真因を反転させれば、WILLを導き出すことができます。
今回は、WILL-CAN-MUSTの「バランス」について考察しました。
次回の「フレームワークで整理する#3」では、病院分析とマッチングの接点を探るコツを考えてみます。
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