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【長編小説】万華のイシ 無我炸裂_12

前話はコチラ!!

2章_残映-encounter-


2-6 理解・取引・結成


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 二度目の蹴りに警戒しつつ、オレは自分が特捜課の一員であることと城崎捜索が目的であること、そしてそのために姫毘乃生徒からの情報収集を必要としていることを説明した。
「特捜課なんて組織、聞いたことないですけど。貴女、警察だったの?」
「うわぁ信じてなさそうな顔」
「だって、それなら初めて会ったときにそうと自己紹介してくれればよかったじゃないですか」
 至極まっとうなご指摘どうも。
 しかし悲しいかな、オレは神流警部の飼犬であって警察じゃない。
「残念ながらオレに警察手帳は与えられてない。オレの上司はちゃんと警部って肩書き持ってるから、必要ならそっちを紹介するぜ?」
「ふぅ〜〜〜〜ん…………」
 伊南は顎に手を当てて、値踏みするようにオレの顔を覗き込む。
 やがて吟味を終えたらしい彼女は小さく息を吐くと、
「はぁ……もういいです。そういうことなら、これからはわたしも貴女の情報収集に協力するわ」
「オレを信じるのか」
「わたしは音代のことが心配なだけです。……あの日。あんな目に遭って、貴女に忠告を受けた今でも、わたしは捜したくて捜したくてたまらないんですよ。たとえ貴女の身分が嘘だったとしても。音代のことを探しているのは事実なんですし、素人のわたしが闇雲に頑張るよりも早くあの子の発見につながる……そう思ったから、手伝うって、そう言ってるだけ」
「そうか……」
「ああすみません、もう一つ理由、ありました。このまま貴女一人に任せていたら間違いなく目立ちまくって潜入捜査に失敗するので、わたしがフォローしてあげないといけないという使命感もあります」
「ああそうかい!オレも薄々、妙に視線が増えてきたなと思ってた所だよ!」
 オレの不法侵入を黙認するほどに伊南の城崎への想いは強かったんだなー、なんてじんわり感動しかけていた気持ちを返してくれ。
「ひとまず、明日からは学内に来るのを放課後に限定してください。既に一〇分休みと昼休みは貴女の行動パターンとして多数の生徒からマークされ始めているので、これ以上同じ時間帯で行動するのは避けた方が良いかと」
「そんなに目立ってたの、オレ」
「それはもう。プリンスなんて通り名が二年の間でも伝わるくらいに」
「え、それマジの呼び名になってたの?」
 伊南がオレをからかうための皮肉じゃなくて?
「……呆れた。ご自身に向けられる関心も正しく認識できていないんですね」
「はははっ、……そうみたいだ」
 『誰が何と言おうと別谷境はオレだけのものであり、その形はオレが決めて良い』――かつてひなたアイツがくれた言葉に従って過ごしてきた結果であり、それはもう人格というか、癖みたいなレベルで沁みついていた。
「だけど、放課後に来たって皆部活動とか習い事でいなくなってるんじゃないのか?」
「はい。何か問題が?」
「いや、問題っつか、人がいないんじゃ聞き取りも何も無いだろ」
 それを聞いた伊南はやれやれといった様子で額に手を当て、
「どうしていつまでも貴女が直接聞き出すつもりなんです……。より生徒に馴染んでいる……というより、正真正銘姫毘乃生のわたしが協力者になったんですから、聞き取りはわたしに任せてください。日中にわたしが得た情報を放課後、貴女にそのまま伝えますから」
「ああー……そういうこと」
 言われてみれば、その通りだった。
「だいたい貴女、前々から思ってましたけど高校二年の歳じゃないですよね?どこから手に入れたのか興味もありませんけど、どうしてそんな堂々とコスプレをしていられるんですか」
「コスプレ言うな!たかだか二歳差でそこまで言われる筋合いは無いぞ!」
 とまあ、こんな感じで。
 思い描いていた潜入調査とは違う形になったものの、結果的には伊南江美が心強い現地協力者となってくれたのだった。


次回


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