【長編小説】万華のイシ 無我炸裂_24
前話はコチラ!!
3章_発覚-awakening-
3-6 誤算
「無理矢理にでも覚醒してもらう!」
オレが身構えるのを意に介さず。
宣言と同時に中条が攻撃を放ったのは、
「しま――――」
またしても伊南に向けてだった。
茫然自失としていた彼女には一発目のような迎撃も叶わず、水流が直撃する。
「きゃ――――――――!?」
しかし彼女の身体はその水流の勢いのまま後方へ吹き飛ばされた。
「げふっ!」
背中をコンクリ壁にしたたかに打ち付けて倒れ込む。
だが、その身体は砕け散ったりしていない。
「水圧低めでもこれだけの威力だ、ちゃんとさっきみたいに防がないと痛い目みるよ?」
中条が手加減をしていたらしい。
だが、既にその掌の上には次弾が装填されている。
伊南が奴の言う《《本来の状態》》になるまでいたぶり続けるつもりだ。
うつ伏せで咳き込む彼女に、初撃のような対応はもう望めない。
「させるかっ……!」
言うが早いか、中条の射線上へと真っ直ぐに割り込む。
直後。
空を切り裂く音がしたかと思うと、オレは伊南のすぐ近くまで吹っ飛ばされていた。派手に尻餅をついたせいか骨盤と尾てい骨に鈍痛が走る。
しかし、それだけだ。
水流を受け止めた右手に一切痛みは無い。
中条が手加減しているのもあるだろうけれど、
「……すぐ立ち上がれるほど威力を下げたつもりは無いんだが。成程。それが君の御業というわけか」
「…………」
中条の視線がオレの右手に刺さる。
正確には、右手を取り巻くソレに。
さっきまでの霞がかったものと違い、燃え上がる煤のように赤を散らす黒煙が、手甲のように肘から先を覆っている。言うなればさっきの姿が待機状態、今の姿は励起状態といったところだ。
オレ自身、この異能の全容を理解ってはいない。
けれど身に纏った黒煙はこれまで、どんな攻撃も貫通させていない。
それは今回も例外でなく、中条が放った高圧水流の衝撃も黒煙は受け切ってくれた。
(それでも水圧による反作用までは打ち消せないみたいだな……)
伊南の力は水流そのものを霧消させたからか、初撃を防いだ彼女は吹き飛ばされるようなことは無かった。
しかしオレの黒煙はあくまで身体に伝わるダメージを無効化するだけ。受けた力による反動はしっかり身体に返ってきた。
これで三発。
ホルダーに刺さった試験管の数からみて、中条は水の入った試験管を少なくとも七本残している。
「――っ!!」
中条が次弾装填の予備動作を取ると同時、全力で前へ駆ける。
この場におけるオレの勝利条件は、二つ。
一つは、中条の残弾を使い切らせること。奴の目的がオレたち二人の勧誘だというなら、初撃ほどの威力で放ってくるとは考えにくい。何発か防御に失敗するとしても、これなら作戦として成立はする。
もう一つは、弾切れを待たず奴に仕掛けること。そのためには肉薄しなければならないが、成功すればオレの異能の特性上、この場限りでなく今後の安全も確保できる。
「せっかちだな、君はぁ!」
一秒で射撃体勢を整えた中条の右手が、正面やや下に狙いをつける。
前進するオレの進路に射線を「置く」照準だ。
そう直感したオレは速度をそのまま、姿勢は低く保ち、肘を突き出すような角度で黒煙の手甲を構えて突き進む。
直後に放たれた一撃が、手甲に触れる。
回転鋸で金属を削るような音を立てて水流がその角度を変え、オレの斜め後方へ射線が向く。
「ほぅ!」
中条は身体を吹き飛ばされることなく走り続けるオレを見て感嘆の声を上げた。
水圧の反動が消せないのなら、正面で受け止めてはいけない。戦車の装甲板と同じように接触角度を浅く、浅く狙うことで、受ける威力を最小限に留めたのだ。
だがその程度で虚を突けはしなかった。
「そんな曲芸がいつまで成功するかな?」
見れば、既に第二射――いやそれどころか、奴の左手には掌大の水玉が浮かんでいた。
まさか、今の間に残りの液体を全て取り出して纏めたのか。
「ち…………!」
まんまと騙された。
試験管なんて分かりやすく「弾数」を連想させる装備を見せて、仕掛けどころを見誤らせるのが狙いだったとは。
残弾という概念が存在することに変わりはないが、あの試験管一本ぶんが一発相当という決まりはどこにも無い。一度に使う量を調節すれば、残弾数なんていくらでも変動できる。
あとたった一〇メートルの距離がこの瞬間、ひどく長く感じられた。
◇◇◇◇
次回
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