【長編小説】万華のイシ 無我炸裂_25
前話はコチラ!!
3章_発覚-awakening-
3-7 誤算×誤算=
「そら、どうした!まだ弾は残ってるぞ!」
オレが飛び掛かった場所に中条の身体は無く、代わりに針のように細い高圧水が耳元を掠める。
状況は膠着していた。
接近してから何か仕掛けようとしている、という意図を察した中条は積極的な攻勢を止め、付かず離れずの距離を保つことに集中するようになってしまった。
こちらが踏み込めばステップで避け、置き土産のようにごく少量の水を使った攻撃を仕掛けてくる。水量が少ないから威力が低いかというとそうではなく、量に依存するのはむしろ射程で、かかっている水圧自体は恐らく変わっていない。
(あと一歩が足りない……!)
そう、あと一手だ。
オレの一撃を見舞うにはもう一歩の距離が必要だった。
けれど、一歩目を出すと同時に奴も動き出してしまうため届かない。
かといってこちらの攻勢を緩めても、奴にとっては狙うマトが大きいだけのサービスタイムになるだけ。
「くっ……そ……!」
黒煙の手甲を維持するのにも精神力を消耗する。
展開している間、ずっと脳内で何者かの叫び声が響いている感覚が続く。それに埋もれないよう自意識を保つために、時間が経つほど疲労が蓄積する。
何度目になるか分からない中条の攻撃を受けた黒煙が、端から千切れるようにして消えていく。
「ふん、ふん。君の御業は私のよりもずっと君自身に負荷をかけているようだねぇ……そろそろ限界に見えるが?」
「ハ……!お気遣いどーも。悪ぃけど、まだ終わるには早い……な!」
啖呵を切ろうとして、思った以上に息が上がっていることに気付く。
自分の疲労状態を把握できないほどに追い込まれているんだとしたら、かなりまずい。
このままでは中条の無力化どころか、オレと伊南の身すら守れなくなる――そう危惧した時のことだった。
――――――――ッッッドン!!!!!!!!!!
地響きが耳に届く。
震源はちょうど真後ろから。
オレと向かい合う形だった中条は余程奴にとって困る事態を目撃したらしく、焦りの色を隠そうともしない。
「まさかこのタイミングでっ……!?」
その動揺こそ、ずっと求めていた「あと一手」だった。
べったりと地に足を付けた中条の懐へと踏み込む。
「――――っは!?」
気付いた時にはもう遅い。
動くことを忘れた体勢から回避のステップを刻むには、もうワンテンポ必要となることをオレも奴も了解している。
くらえ。喰らえ。食らえ、クらえ――――
「おァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
内から湧き上がる衝動に半ば身を預け、雄叫びと共に肉薄する。
その勢いのままもつれ合うようにして倒れ込むと同時に、オレの異能がもう一つの姿を現した。
次回
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