JR東日本651系の引退によせて
今日は鉄道のダイヤ改正。
それに伴い、今年も昨日で引退する車両がいくつもありました。
最初にお断りしておきます。私は鉄道愛好家ではありません。
主人が詳しいけれど、私はいわゆる'にわか'です。
普段なら気にしないか、珍しい電車が見られるから気にしてみる、
そんな3月のこの時期ですが、今年は違います。
651系がどうやら引退かもしれない。
数ヶ月前にそんな風の噂を聞いた時は、まだ実感はありませんでした。
本当についこの間まで。
でも、先日、少しだけ651系に乗ってみようと上野駅に行ってみると、
写真撮影をする愛好家の方がたくさんいて驚きました。
こういう光景を見ると、なんとなく(いよいよなのか…)
急に切なくなりました。
今日はこんな’にわか’な私でも、
唯一好きな651系のお話をひとつしようと思います。
今からさかのぼること2006年4月。
大学に入学したばかりの私は、事務局へ提出するための書類に不備があり、締切が翌日と言われて困りました。
両親それぞれの自署がいるところを、筆跡が同じと指摘されて再提出になってしまったのです。
実家に帰るしかない。
母に連絡をして特急で帰ることにしました。
これが651系、当時の常磐線特急「スーパーひたち」です。
講義が終わって急いで上野駅へ向かい、「スーパーひたち」に乗りました。
当時、何時発の何号だったかは覚えていません。
でも時間帯はちょうど帰宅ラッシュ、自由席に乗ったことは覚えています。
仕事帰りのサラリーマンが多く、私が座った席の隣にもおじさまが乗っていました。
(書類が明日中に提出できなければどうしよう…)
不安の方が大きくありましたが、
思いがけず特急に乗れたことが、ちょっとうれしい気もしていました。
発車してしばらくすると、651系の特徴のひとつ(といっていいのか?)に初めて遭遇します。
いきなり車内の電気が消えたのです!
(後で知りましたが、デッドセクションという区間を通過したためだそうです)
驚いて思わず「えっ?!」と声に出してしまったので、隣席のおじさまが「びっくりするよね?すぐつくから大丈夫だよ。」と教えてくれました。
それをきっかけに、おじさまと少しだけお話ししはじめたのです。
「若いようだけど、学生さん?」と尋ねられて、
今月入学したばかりで、事情があって実家に向かっている途中だとこたえました。
おじさまのほうは、秋葉原でお仕事をしていて、ずっと都内の社宅にいたけれど、あるタイミングで特急通勤が可能になったから、
自宅のある茨城に戻って、毎日、常磐線の特急で通勤しているんだとお話ししてくれました。
特急で通勤なんてすごいなぁ…とぼんやり思っていると、
おじさまがいつの間にか何か作っていました。
「これあげる♪」
それは、表と裏の両方に色がついている折り紙で折った「くち」でした。
黒い色に赤い唇が浮き出て、動かすと口がカパカパと動きます。
妙にシュールだけど、動かしていると面白くて笑えてくる不思議な贈り物でした。
「いつもこういうの(折り紙)持ち歩いてさ、いろいろ作って配ってるの」
と言っていた気がします。(こっちはうろ覚え)
「これから大変なこともあるかもしれないけど、楽しんでよ。それで、いやなことがあったらこの口に向かって愚痴言ってくださいな。」
(この言葉はしっかり覚えてる)
そう言って、おじさまは勝田(たぶん…)で降りていきました。
私も折り紙のお礼を言って、おじさまを見送りました。
本当に短い時間でした。
大した話なんて全然してないけれど、大きな不安を抱えていた分、
もらったもの・かけてもらった言葉がすべて嬉しくて。
もらった折り紙の「くち」は私のお守りで、いまもずっと持っています。
いまおじさまは、こんなわたしのことは覚えていないと思いますが、
ずっと感謝しています。
小さいころから地元で見ていたけれど、特に関りもないまま大人になり、
たまたま乗ったこの日のことをきっかけに、
651系が大好きに、うんと身近になったのでした。
以上、短いエピソードでした。
その後「スーパーひたち」は新型車両にどんどん置き換わり、
常磐線からは引退。
一部は「伊豆クレイル」として綺麗になって、1度だけ乗車もしました。
高崎線の特急「スワローあかぎ」「草津」などになって、
あの綺麗な白いボディーにオレンジの線が入ってしまったのを、
少し残念に思いながらも、家から毎日651系を見ることができていたので、たとえ常磐線を走っていなくても、全然さみしいとは思いませんでした。
でも、ついに昨日、ラストランを迎えました。
仕事終わりに「スワローあかぎ」に乗るために上野へ行きました。
15番ホームは鉄道愛好家の方であふれていて、
駅員さんも事故が起きないようアナウンスで注意されていて
大変だなと思いながら、遠巻きに見ていました。
数日前に651系に乗った時に、
あらかじめ写真を撮っておいたのはいい判断でした。
繰り返しますが、私は'にわか'です。
思い出すたびにとても温かい気持ちになるエピソードを
651系が作ってくれたから、この車両が大好き。それだけです。
そしてラストランの日に集まった大勢の人たちを見て、
こんなにも651系は人気の車両だということを知ることができました。
みなさんそれぞれ、651系に思い入れがあったなら素敵だなと思います。
最後の最後になってしまいましたが、
651系(私の中ではずっと「スーパーひたち」でしたが)
長い間、お疲れさまでした。ありがとう。