無用の心配をすることは多い
私は応急手当普及員という資格を持っています。
応急手当の手順を学び、それを自社に持ち帰って講習を開き、
バイスタンダー(救急現場に居合わせた人)による応急手当を世の中に普及させてねって資格です。
◆応急手当の重要性
ちょっとデータは古いのですが、広島市で令和2年度に応急手当の必要が発生した人数が4,508人おられました。
そのうち救急隊が到着するまでの間に
バイスタンダーによる心肺蘇生を実施された人が2,870人
心肺蘇生が実施されなかった人が1,638人
1ヶ月後の生存確率は、実施された人が39.8%(1,143人)
されなかった人が28.3%(463人)
その後社会復帰できた人は実施された人が27.4%(785人)
実施されなかった人が15.5%(254人)
といったデータがあります。
統計的にも救命曲線というものがあり、バイスタンダーが救命処置をした場合としなかった場合で約2倍の差があると言われています。
◆ネット上でよくある議論
もし、心配蘇生の必要がある方が女性だったら…。というのはよく議論されます。
男性目線からすると、AEDを使用したことによりセクハラとならないか、わいせつ罪で訴えられないかといった不安。
もし訴えられた場合、無罪だったとしてもその後の人生に多大な被害が出ることは過去のわいせつ関係の冤罪事件をみても確かになぁとは思います。
事実、たまに患者のせん妄による誤解で訴えられるというようなこともあります。
(もちろん事実としてわいせつな事をしていた場合もあります)
その度に、弁護士の方がAEDを使用したことにより訴えられることはほぼ無いと言って良いでしょうと説明するのですが、「ほぼ」であって100%ではないこと、
刑事罰を問われたりすることはないが、民事での慰謝料については否定はできない等により、どうしても一歩を踏み出しにくい状況となっているのは同じ男性としてよくわかります。
◆訴えられる、訴えられないは一先ず置いといて
私は思うのですが、もし仮に応急手当の際に冤罪で訴えられるシチュエーションとしてはどんな場合があるのだろうかと考えてみました。
・急病者が異性である
・自分と急病者以外に人の気配がない場所である
・車両等もほとんど通らない
・民家や商業施設もない
・防犯カメラ等もない
これらを全て満たす感じでしょうか。
こんな都合の良いシチュエーションなんてあるの?
例えば、夜中に一人で山奥へ入ったら偶然知らない異性が1人で居て、自分の眼の前で急に意識を失ったとか?
私、応急手当普及員の講習を受けた際に、指導員全員に聞きました。おそらく全員40代以上だったと思います。
「ご自身が今まで生きてきた中で、仕事中でもプライベートでも急に近くの人が倒れて、自分以外周りに誰も居ないという状況ってありました?」と聞いてみました。
5人に聞いたんですが、全員「1回も無いですね。」でした。
もしかしたら、近くの人が急に倒れた、意識を失ったみたいな状況はあるかもしれません。それもおそらく長い人生のうちで3回も無いんじゃないですかね。
ちなみに私は48年生きて居ますが、近くの人が急に倒れた、意識を失ったという状況すら1回もありません。
ましてや上記の冤罪をかけられそうな状況下の救命なんてほぼありえないと思います。
ちなみに、応急救護の手順は、急病者を見つけたら
①周囲の安全確認をする(助けに行く前に自分の安全を確保)
②急病者の反応を確認する
③周囲に助けを求め、119番とAEDを依頼(持ってきてもらう)する
④呼吸の確認をする
⑤心肺蘇生を行う(心臓マッサージ及びAEDの使用)
という手順で行います。つまり、いきなりAEDをやるわけではないし、
別に自分がいきなり率先してやらなくても、手順としては周囲に助けを求める方が先なんですね。そこで急病者と同性の方が居たら、AEDの指示をして、自分は119番するなり、被せるものをもってくるなりすればいいと思いますし、どうしても男性しか居なかったら、周りを囲って壁を作るとかでもいいでしょう。
何よりその時の協力者は証人となってくれると思います。
◆不安はわからないでもないが
「冤罪で訴えられるかもしれない」には、余程の偶然が重なったというか、むしろ奇跡が起きないとありえないシチュエーションでしかないわけです。
すごく雑な言い方をすると、富士山がいつ噴火するかわからないから海外に引っ越しますみたいな。
(それはそれでまぁ否定はしませんが…)
なので、物凄く不毛な議論をしているなぁと私は思います。
◆一度普通救命講習に参加してみることをお勧めします
「私は自分以外がどうなっても絶対に応急手当はしない」という確固たる信念がある方なら、それはそれで別に良いと思います。
私だって、別に命の危険がある人を全て救いたいとかそんな高尚な思いは持っていません。
でも、少なくとも愛する家族にもしものことがあったときに救命率は上げたいと思います。応急手当普及員の資格を取得したことにより、心肺蘇生ができるように知識を得ましたし、家の近所のAEDの場所を把握したりするようになりました。
当社のメイン事業はビルメンテナンスです。労災発生率が他業種に比べてどうしても高めではあります。
もし仕事中に事故があった場合、少しでも同僚の救命率を上げたいです。
起きもしないシチュエーションに不安になって頭でっかちに考えてやらない理由を探すよりも、まずは大切な人の命を守るためにも知識を得て、一歩踏み出す人が多くなればいいなと思う今日この頃です。
【参考】
※日本全国AEDマップ
※広島市消防局作成