合意寸前の停戦・和平崩壊の要因として「ジョンソン氏・ないし米英介入論」を示す記事論考等の紹介・検討
「今こそ停戦を」の訴えに対しては多数の賛同署名とともに、停戦を訴える切実な声も寄せられています。
まだ署名されていない方でご賛同いただける方はぜひ署名お願いいたします。下記のサイトより可能です。
キャンペーン · #今こそ停戦を 賛同署名をお願いします · Change.org
すでに署名をなされた方は周囲に勧めていただければ幸いです。どうぞよろしくお願い申しあげます。
すでに1年以上にわたり戦闘が続いているロシア・ウクライナ戦争、この間どれだけの人命が失われたでしょうか。もちろんロシア政権による侵略によるものであり、それがまず非難されるのは当然です。ただ「武力には武力で」という方法でいいのか、実際1年以上それを続けていますが、ロシア軍に占領された領土のうち取り戻したのは全体としてみればそれほど大きくはないし、この間また一部奪われつつある、も否定できません。今のまま続けても今後どうなるか、確実にいえることは「武力には武力では」という方法では貴重な命が失われる、ということです。「武力には武力で」という方法は転換すべきではないでしょうか。
昨年三月末両国間では停戦・和平合意寸前だった、ということはよく指摘されています。合意寸前だったのになぜ合意に至らなかったのか、よく言われるのはその直後発覚した「ブチャの虐殺のため」という理由です。「ブチャの虐殺」自体は私は事実と認識していますし、一部で流布している「フェイク説」には全く組みできません。ただ「ブチャの虐殺」のみで「合意が壊れた」とまではいえないことは、このnoteで前に指摘したその直後のゼレンスキー氏の発言から明らかである、と思います。
ではなぜ崩壊してしまったか?別の要因として指摘される意見に「ジョンソン元首相介入論、ないし米英介入論」があります。以下それについての述べた記事・論考・インタビューを紹介し、その点について検討していきたいと思います。
「ジョンソン元首相の介入を要因」とあげるもので、最も初期のものは私が知る限り、昨年5月の「ウクライナ・プラウダ」に掲載された下記の記事です。ただしこの記事では「ブチャの虐殺」とともに「ジョンソン氏介入」双方を要因としてあげています。
Всі проти Росії. Що відбувається за лаштунками мирних переговорів | Українська правда (pravda.com.ua)
この記事はウクライナ語で書かれているために、私は自動翻訳でしか内容をしるこができず、その翻訳自体が正しいか、の判断はこの記事についてはできません。ただ自動翻訳の部分をそのまま引用させていただくとして、その中には下記の記述がなされています(自動翻訳のままです)。
「ボリス・ジョンソン、またはプーチンを「絞る」
ロシア側は、誰が何を言おうと、信号の読み方を知っており、実際にゼレンスキーとプーチンの会談の準備ができていました。
しかし、2つのことが起こり、その後、ウクライナの代表団のメンバーであるミハイロ・ポドリャクは、大統領の会議が「もはや時間通りではない」ことを公然と認めなければなりませんでした。
一つ目は、一時的に占領されたウクライナの領土でロシア軍が犯した残虐行為、レイプ、殺人、虐殺、略奪、無差別爆撃、その他何百、何千もの戦争犯罪を暴露することです。
ブチャ、イルピン、ボロジャンカ、アゾフスタリについてプーチンと話さない場合、プーチンとどのように、そして何について話すことができますか?..
プーチンと世界の間の道徳的、価値に基づくギャップは非常に大きいので、クレムリンでさえそれを埋めるためのそのような交渉のテーブルを持っていないでしょう。
ロシア人との合意に対する2番目の-はるかに予想外の-障害は、4月9日にキーウに到着しました。
ウクライナの交渉担当者とアブラモビッチ/メジンスキーがイスタンブールに続く将来の可能な合意の設計に合意するとすぐに、英国のボリス・ジョンソン首相はほとんど警告なしにキーウに現れました。
「ジョンソンはキーウに2つの簡単なメッセージをもたらしました。プーチンは戦争犯罪者であり、彼と交渉するのではなく、圧力をかけられなければなりません。そして第二に、あなたが彼との保証に関する合意に署名する準備ができているなら、私たちはそうではありません。私たちはあなたとそれをすることができますが、彼とはそうではありません、彼はまだみんなを捨てるでしょう」とゼレンスキーの仲間の一人はジョンソンの訪問の本質を要約します。
この訪問とジョンソンの言葉には、ロシアとの取引に関与することを単に躊躇する以上のものがあります。
2月にゼレンスキーが降伏して逃げることを提案した集団西側は、プーチンが想像したほど全能ではないと感じた。
さらに、今は「彼を絞る」チャンスがあります。そして西側はそれを利用したいと思っています。
ヴァシルコフスキーのおんどりジョンソンの幸せな所有者がアルビオンに戻ってから3日後、プーチンは公開され、ウクライナとの交渉は「行き詰まった」と述べた。」
「ウクライナ・プラウダ」のこの記事では、合意がなされなかった要因として「ブチャの虐殺」とともに「ジョンソン氏(その背後にある米英など)介入」が確かに指摘されています。ウクライナ側のメディアでこうした記事が昨年5月段階で配信されていた、は意外です。ただこうした記事がすでに昨年5月段階でウクライナ側から配信されていた、は特筆すべきと思います。
次に注目すべきは、水島先生が紹介したワーグナー氏の下記の論考です。
Informationsstelle Militarisierung (IMI) » Der Ukraine-Krieg (imi-online.de)
(23年2月23日)
この論考の特に以下の部分の指摘が重要と思います。
「Torpedo gegen die Istanbul-Verhandlungen
・・・・・
Eine entscheidende Rolle spielte dabei wohl der damalige britische Premier Boris Johnson, auch wenn mit Sicherheit anzunehmen ist, dass er nicht ohne Rückendeckung aus Washington agierte. Er soll laut Guardian Anfang April 2022 zu einem Treffen mit dem ukrainischen Präsidenten Selenski gefahren sein und von ihm verlangt haben, „keine Zugeständnisse an Putin zu machen“.[11] Auch der ehemalige Bundeswehr-Generalinspekteur und Vorsitzende des NATO-Militärausschusses, Harald Kujat, bestätigt dies: „Russland hatte sich in den Istanbul-Verhandlungen offensichtlich dazu bereit erklärt, seine Streitkräfte auf den Stand vom 23. Februar zurückzuziehen, also vor Beginn des Angriffs auf die Ukraine. […] Nach zuverlässigen Informationen hat der damalige britische Premierminister Boris Johnson am 9. April in Kiew interveniert und eine Unterzeichnung verhindert. Seine Begründung war, der Westen sei für ein Kriegsende nicht bereit.“[12]
Diese Angaben werden inzwischen auch durch Aussagen des damaligen israelischen Premiers Naftali Bennett betätigt, der im Februar 2023 folgendermaßen zitiert wurde: „Ein Waffenstillstand sei damals, so Bennett, in greifbarer Nähe gewesen, beide Seiten waren zu erheblichen Zugeständnissen bereit. Doch vor allem Großbritannien und die USA hätten den Prozess beendet und auf eine Fortsetzung des Krieges gesetzt. […] Auf die Frage, ob die westlichen Verbündeten die Initiative letztlich blockiert hätten, antwortete Bennett: ‚Im Grunde genommen, ja. Sie haben es blockiert, und ich dachte, sie hätten unrecht.‘ Sein Fazit: ‚Ich behaupte, dass es eine gute Chance auf einen Waffenstillstand gab, wenn sie ihn nicht verhindert hätten.‘“[13]」
一読して明らかなようにワーグナー氏は根拠なしに「ジョンソン氏(ないし米英)介入要因論」を指摘されているのではなく(この点で「即時停戦派軍事支援反対派」を「反知性主義」とレッテル張りするブログの筆者の「ワーグナー氏は根拠なしに主張している」は明らかに間違い、原文を参照すればその指摘が成り立たないのは明白だがどうしてそう言いきれるか、・・・・)、元連邦軍総監・NATO軍事委員会議長クヤット氏へのインタビュー、停戦和平交渉にいわば舞台裏で直接かかわったイスラエル首相であったベネット氏のインタビューをもとにした記事、を根拠にしています。
まずクヤット議長のインタビュー記事です。
Nr. 1 vom 18. Januar 2023 - Zeitgeschehen im Fokus (zeitgeschehen-im-fokus.ch)(23年1月18日)
特に注目すべきは以下のやりとりです。
「Warum kam der Vertrag nicht zustande, der Zehntausenden das Leben gerettet und den Ukrainern die Zerstörung ihres Landes erspart hätte?
Nach zuverlässigen Informationen hat der damalige britische Premierminister Boris Johnson am 9. April in Kiew interveniert und eine Unterzeichnung verhindert. Seine Begründung war, der Westen sei für ein Kriegsende nicht bereit」
ここでのやりとりからわかるようにクヤット氏はインタビューの質問に「4/9のジョンソン氏の介入」をはっきり指摘しています。ただそのもととなる情報については語られていないことは確かです。守秘義務その他あるかと思いますがこの点はやはり知りたく思います。
次にベネット氏へのインタビューをもとにした下記の記事です。
Naftali Bennett wollte den Frieden zwischen Ukraine und Russland: Wer hat blockiert? (berliner-zeitung.de)(23年2月6日)
ここでまず注目すべきは以下の点です。
「Ein Waffenstillstand sei damals, so Bennett, in greifbarer Nähe gewesen, beide Seiten waren zu erheblichen Zugeständnissen bereit. Doch vor allem Großbritannien und die USA hätten den Prozess beendet und auf eine Fortsetzung des Krieges gesetzt.」
ロシア・ウクライナとも一定の譲歩することをいとわなかったし、停戦・和平は手の届くところにあったが、米英は戦争の継続を望んでいた、との指摘です。
そして次にベネット氏とのやりとりについての以下の記述に注目すべきでしょう。
「・・・Auf die Frage, ob die westlichen Verbündeten die Initiative letztlich blockiert hätten, antwortete Bennett: „Im Grunde genommen, ja. Sie haben es blockiert, und ich dachte, sie hätten unrecht.“ Sein Fazit: „Ich behaupte, dass es eine gute Chance auf einen Waffenstillstand gab, wenn sie ihn nicht verhindert hätten.“」
ベネット氏は「西側の介入がなければ、当時停戦は成立していた、可能性は十分あった」としています。
以上のうちやはり「ウクライナ・プラウダ」の記事が一番目を引きます。「ジョンソン氏介入要因論」(といっても「ブチャの虐殺」とともに双方を主張するものだが)の根拠は何か、もちろんニュースソースについては明かせないし、特に戦争継続中であれば当然ですが、気になります。ただウクライナ国内からの報道ですから信頼性は高いと思います。
またクヤット氏・ベネット氏についてはそれなりの立場にあり、さらにベネット氏は停戦交渉の裏舞台で実際に動いていた方のものです。もちろんそうであるからといって事実を語っているとは限らず、推論のところもあります。それを差し引いてもやはり信頼性は否定できないのではないでしょうか。
以上紹介した記事を読む限り、合意寸前であった停戦・和平合意がなされなかったのは、「ジョンソン氏ないし米英などの介入があったため」という指摘はそれなりに信頼できるもの、「少なくともジョンソン氏・米英などの介入ということも要因であったことは完全には否定できない」と言っていいのではないでしょうか。
もちろん限られた文献からのものですし、ウクライナ語のものは自動翻訳、ドイツ語記事は私の乏しいドイツ語能力という、制約の上でのことです。
この件については、以後も検討は続けたいと思います。
白井邦彦
青山学院大学教授