ブランド価値を高めるSDGs時代のマーケティング|経営とマーケティングを結ぶ設計図

最近P&G APACフォーカスマーケット ヘアケアCMO・シニアディレクターを退職した、大倉佳晃です。本記事で、SDGs時代に企業・ブランド価値を高めるマーケティングの考え方について、私の13年のP&Gキャリアでの多くの成功と失敗から培った経験をベースに語りたいと思います。

本当は、キャリアの一区切りの備忘録として書籍を書き上げるつもりだったのですが、出版となると時間もかかってしまうため、あえて今の時代に合わせてnoteで一冊の本のようにまとめて公開することにしました。その分、noteにしてはとても分量があります。全部読むには30-60分かかるかもしれませんが、どうぞ1冊の本を読む心持ちで読んでみてください。

かなり高難度の内容ですので(例えば、古巣P&Gでもこの内容を精緻に理解している人は極少数だと思われます)、マス受けはしないだろと思っていたのですが、ありがたいことに、公開してからすぐに、note公式、数多くの経営者、著名マーケター、インフルエンサーの皆様から大きな反響を頂き、出版社の方々からも多くの出版依頼を頂きました。

https://twitter.com/maru3happy/status/1423843051563147271?s=20&t=qCzPpQVgS5l2fgmVVJDF1g

今回、この記事を書こうと思った背景は2つあります。

1.  「色々なマーケティングフレームワークがあるけど、経営戦略やビジネス目標と結び付けて語られる事例が少なく、どうやって使いこなしたらいいかわからない」という声をよく耳にすること

2. 「SDGsマーケティングやブランドパーパスマーケティング、ナラティブマーケティングという言葉が独り歩きしているが、実際にビジネス目標と結び付けてその事例が語られることがほとんどなく、ビジネスの現場でどう応用すればいいかわからない」という声をよく耳にすること。また、バズ狙いのマーケティングキャンペーンで終わらせるのではなく、社会的なインパクトと売上を両立させる方法をお伝えしたかったため

私は、ブランドのP/Lだけに留まらず様々な経営指標に責任を持ちビジネスをしてきた経験があります。多くの成功と失敗を繰り返し、貴重な学びを積み重ねてきました。その中で、パンテーンにおいては、#HairWeGoというSDGsに根ざしたブランドパーパスに基づくブランドキャンペーンを作りました。そのキャンペーンのシリーズの一つは、話題になっただけではなく、実際に、東京都が学校での髪の黒染め強要を是正する宣言をするきっかけにもなりました。また、一連のキャンペーンは、ビジネスをV字回復させることにも貢献しました。

昨今、SDGsをビジネス成長に直接つなげることが多くの企業にとって課題と言われていますが、幸いにも、私はSDGsをリアルに体現しながらビジネスも伸ばす、という貴重な経験をすることができたのです。

本記事は、
1 )経営層の方(経営者/ファンド/投資家/CXO)
2 )現場のマーケターの方(マーケティング担当者/エージェンシー)

を想定読者にしています。

かなり分量が多いので、本記事の要点を最初にまとめてみますと、

[経営戦略/経営指標として意識すべきこと]
・ビジネスと SDGsを両睨みしながら、TSR (Total Shareholder Return) を伸ばすことを念頭に置く。
・カテゴリーの市場規模そのものを、主に、新規ユーザーを獲得することで拡大する。

[現場でマーケターがビジネスを伸ばすために]
・新規ユーザーを獲得するためには、「8ファクター」全ての側面を伸ばす、もしくはブランドが問題を抱えているファクターを改善することでそれが達成される。
・「8ファクター」に紐付き「トーカビリティ」×「WHY/WHO/WHAT/WHERE/HOW」​​で包括的なプランを組み上げる。
・「8ファクター」のブランドコミュニケーションにおいては、SDGs的な考え方に基づくブランドパーパスキャンペーンが貢献できることがある。
・これを無視してソーシャルグッドなブランドパーパスでバズを作るだけでは、ビジネスに貢献できず本末転倒になる可能性がある

[まとめ]
・究極的には、SDGs的な観点から企業・ブランドパーパスを策定し、社会に対して良いインパクトを与えながらビジネスも伸ばすことでTSRが向上し、最も企業価値・ブランド価値が高まる。

ちなみに、noteではあまり無いアプローチだと思うのですが、プロマーケター、経営者、PEファンドの担当者、エージェンシーの役員など、実際にこのnoteを読んでもらいたい読者層の方々にとって、本当に有意義なものであるかを確かめたかったため、先に「note献本」という形で、数名の方々からレビューをいただきました。(僭越ながら、とても素敵なレビューをたくさんいただきました。文字が小さくなってしまったのですが、是非画像を拡大してご一読下さい)

書評


本記事に書かれている内容は、とても難しい課題を扱っています。小手先で取り組めばよいものではなく、包括的な視点に基づき緻密に実行をしていかないと達成することはできないと、私も多くの失敗をもとに学びました。結果、このnoteもやや冗長となってしまい、言葉足らずで小難しい、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

お手数ですが、何度か読み返していただいたり、実際の現場でのプランニングの中でお困りの際に読み返していただくことで新たなヒントを得られる「スルメ」のような記事、とご笑読いただければ幸いです!全ての業種で参考になる考え方かどうかはわかりませんが、企業・ブランド価値を上げることができるマーケティングの考え方と、まだ日本ではあまり成功事例がない、ビジネスを伸ばしながらも社会に良いインパクトを与えるブランドパーパスに基づくブランドの作り方のヒントになることを願っています。

最後に、今回お話する内容は、P&Gで学んだことを生かしつつも、多くの経営・マーケティング書を読み、かつ、私の実践と経験に基づいた独自のメソッドになりますので、そこはご理解ください。いわゆるP&G特有のフレームワークとは違う部分もかなりあります。また、過去に私がP&G時代に行った公な講演の内容に依拠しており、P&Gの内部情報を晒すものではありません。

それでは、参りましょう!

※一部スライドが細かい部分がございますので、見にくい画像に関してはクリックしていただき、拡大表示を推奨しております。

1. 企業・ブランド価値向上の重要経営指標は、SDGsを考慮した「TSR」

昨今、SDGs、ESG、ブランドパーパス、ナラティブといった言葉がバズワードのようになっています。このような時代に、企業やブランドにとって大切なことは何でしょうか。私は、きちんと規定された企業・ブランドパーパスによってビジネスの目標数値達成とソーシャルグッドを両立できる企業・ブランドだと考えています。ビジネスパーソンである以上、ビジネスの目標値を達成することは必要不可欠です。ビジネスに貢献しないソーシャルグッドは、持続性がなく継続できない可能性があります。

一方で、矛盾するようではありますが、ビジネスを伸ばすツールという観点だけでSDGs的な企業活動やブランディング、マーケティングをすることも危険だと思っています。表面的で嘘くさくなりますし、消費者はそれを見抜く時代です。ベストな方法は、発案者の強い想いが出発点になり企業やブランドのパーパスを規定し、企業活動やマーケティングを行うこと。そして、それが社会の課題解決になる過程で自然とビジネスにも繋がることです。パンテーンの#HairWeGoも私の個人的な思いをベースにスタートしています。

とはいえ、現実的には、ビジネスの数字とソーシャルグッドを両睨みしながら同時並行で考えていく必要があります。ここからは、その具体的なステップについて見ていきましょう。

【1-1:TSRとは】

ここから、少しかためのファイナンスの話をします。これ、マーケティングと関係あるの?と最初は思うかもしれませんが、きちんとつながるのでお付き合いください!今から述べるファイナンスのお話の概略が理解できれば、本当に企業・ブランド価値を高めるマーケティングを実施できる確率がぐんと上がることと思います。

大前提として、資本主義社会のルールの中でビジネスをする以上、「企業・ブランド価値を最大化させる」ということからは逃げられません。そして「経営層の方」であれば、企業・ブランドに対する市場からの評価と価値を最大化させ、会社に投資をしてくれている人たちに、大きなリターンを返すことが求められるはずです。上場会社であれば尚更ですし、スタートアップでも、投資家がいる以上は同じです。

では、リターンを返すとはどういうことでしょうか?

ここで、「TSR」(株主総利回り)という考え方を紹介します。アメリカでは経営陣の給料はこの「TSR」の数字で決まりさえします。それほどに重要な経営指標です。ちなみに、私の前職のボーナスもTSRをベースにした数字で決められていました。「TSR」とは「Total Shareholder Return」の略で、文字通りどれくらい株主にリターンを出せたかです。

計算は極めて簡単で、株価がどれくらい上がったか(キャピタルゲイン)と、配当がどれほど出せたか(インカムゲイン)の合計が、投資金額をどれくらい上回ったかです。

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計算式で表すと、

(1株あたりの配当額+株価の上昇額)÷当初株価×100=TSR(%)

となります。

例を出しましょう。
執筆時点での任天堂の株価が、63,290円です。
ちょうど1年前の株価は、48,880円です。年間の配当額は、2,220円です。

これらを式に当てはめると、

{2220+(63290-48800)}÷48800×100=34.2%

となります。

東証一部上場企業の平均的TSRが9%前後と言われていますので、任天堂株は投資家に対して良いリターンを出していると言えると思います。(正確には、自社が属する業界の平均TSRを超えることが求められますが)

キャピタルゲインとインカムゲインを伸ばすには、下記が必要になってきます。

キャピタルゲイン
 - 事業戦略:利益成長
 - 投資家戦略:マルチプルを増やす
インカムゲイン
 - 財務戦略: フリーキャッシュフローを増やす→株主還元(配当、自社株買い)へ

難しいですね。それぞれもう少し具体的に見ていきましょう。

まず、利益成長について。
そもそも、株価はどうすれば上がるのでしょうか?
「株価」=「EPS(1株当たりの収益)」×「PER(1株当たり純利益の何倍の値段か)」という計算式を踏まえると、「利益」をいかに高めることができるかが重要になってきます。いわゆる、事業そのものが最も貢献できる部分です。

マルチプルを増やすとはどういうことでしょうか。
一般的にマルチプルは、企業の潜在的な成長力、リスク、利益の質、競合優位の継続可能性などの諸要因を、投資家が総合的に評価し決まります。投資家に対し、こうした点を含め、投資対象としての魅力を伝えることをエクイティストーリーと呼びますが、エクイティストーリーに対し多くの投資家が共感し、納得することで、投資家からの評価が高まりマルチプルも上昇する可能性があります。さらに近年は、SDGsという観点を加味した成長性、利益の質、リスク、競合優位を考える必要性があり、さらに難易度が上がっていると言えるでしょう。

フリーキャッシュフローを増やすとはどういうことでしょうか。
「フリーキャッシュフロー =営業キャッシュフロー − 投資キャッシュフロー」です。インカムゲインである配当や自社株買いを促進するためには、この「フリーキャッシュフロー」をいかに多く生み出せるか、が大事ということになります。(自由に使えるキャッシュが多くないと、配当などで株主還元できないということですね)

つまり、TSRを高める上では、重要指標として①「利益」②「フリーキャッシュフロー」を伸ばすことを前提にマーケティングを考えなければいけないのです。売上ではなく”利益とキャッシュ”で考えるのがポイントです。さらにもう一つこれを要素分解すると、「利益」「フリーキャッシュフロー」を伸ばすためには、
  1) 売上向上
  2) 利益率向上
  3) アセットの効率性向上

の大きく3つが求められます。

また、TSRを高める上ではマルチプル向上のためのエクイティストーリーが大事で、その一要素としての③「業績向上に繋がる SDGs活動」があると、よりマルチプルが上がるはずです。

つらつらとファイナンスの講義をしてしまいました。マーケティングの記事なのになんでこんな話をしてるんだ、と思われたかもしれません。実は、これらの3つの重要な経営指標(売上、利益率、アセットの効率性向上)とマルチプル向上のための業績向上につながるSDGs活動にマーケティングは大きな影響を及ぼすことができます。

例えば、アセットの効率性向上という側面においてマーケティングが貢献できることは、

・なるべく在庫が残らないようにきちんと売れる商品&ターンオーバーの早い商品を作る。
・在庫が残らないように需要予測に使うマーケティングインプットをきちんとする。
・なるべく工場のライン投資がかからないように、新商品を作るのではなく既存の定番商品に新しいアイデアで付加価値をつけて売る。

などなど、できることはたくさんあります。

いったん、ここまでの論点をまとめると、下記のようになります。

「TSRを向上させる」=
A.「利益」と「フリーキャッシュフロー」を伸ばす
- 売上向上
- 利益率向上
- アセットの効率性向上
×
B.  マルチプルを上げる
- その一要素としての「業績向上に繋がるSDGs活動」

【1-2:TSRを伸ばす7+1のドライバー】

TSRを伸ばすための要素を見てきました。ここから、利益とフリーキャッシュフローを伸ばすための7つと、+1として、マルチプルを上げるためのSDGs活動、をTSRを伸ばす7+1のドライバーとして提唱したいと思います。

売上と利益率向上のために

先ほど、マーケティングはアセットの効率性向上にも貢献できると言いました。とはいえ、やはりマーケティングは、特に「売上」「利益」に影響を及ぼすことができます。それでは、「売上」「利益」を増やすためにはどうしたらいいでしょうか。TSRを伸ばす7つのドライバーを見ていきましょう。

まずは、売上から。

「売上」=①購買人数 × ②購買頻度 × ③購入点数・量 × ④購買単価

マーケティングの醍醐味は売上を伸ばすことですし、売上が伸びれば利益も同時に伸びることが多いです。ブランドの置かれた状況によって、どのドライバーを主に伸ばすべきか、を考えてビジネス・マーケティングプランを作っていくのです。もちろん全てのドライバーを伸ばせるに越したことはないのですが、基本的にお金も人的なリソースも限りがあるので、どこに集中すれば大きなビジネスインパクトにつながるのかという見極めも大事です。

例えば、私が担当したことがあるファブリーズですと、購買頻度にビジネスを伸ばすためのチャンスがありました。「布用消臭剤」というモノ自体は、ここ30年くらいで生まれた比較的まだ新しいカテゴリーで、かつ、洗濯用洗剤やシャンプーと違って究極的には日常に無くても困らない商品カテゴリーなので、一度買ってもらっても使用の習慣化が起きずに、使い忘れてご家庭の棚の奥に放置されるということが多かったのです。

定期的に購入していただくには、消費者に使用を習慣化してもらう必要があるのです。人に全く新しい習慣を定着させるのは非常に難しいので、そうするためには、既存の習慣に結びつけることが常に一つの上策です。

ですので、お掃除などの既存の習慣の最後の仕上げにファブリーズもシュッシュしてね、といったコミュニケーションを展開することになりました。そういったテレビCMを常に流して消費者を啓蒙したり、また、店頭では、お掃除グッズが売っているコーナーにファブリーズを置くことでついでにファブリーズも買っておこう、という行動を促すビジネス・マーケティングプランを作成することになります。

利益率向上についても簡単に。
こちらもこちらで中々奥深い世界ですので、少しだけポイントとなる部分を言及しておきましょう。私の経験上、ポイントさえ掴んでおけばロジカルに利益率向上は改善できるので、私も新しいアサインメントに着手した時は、まずは利益の確保をどうできるか、という視点から物事に着手していきます。

「利益率向上」
=売上向上 ×⑤事業ポートフォリオの整理 (CORE + MORE戦略) ×
⑥原価を下げる ×⑦効率の良いお金の使い方

 ⑤事業ポートフォリオの整理 (CORE + MORE戦略):
COREの定義は、売上と利益の多くを占め、粗利益率が高く、会社やブランドのエクイティを体現しており、消費者がしっかりと効果を実感できる(=リピート率が高い)ブランドや商品になります。世に言う、定番、基幹ブランドや商品というものが当てはまることが多いです。わかりやすい例は、バーバリーのトレンチコートです。

MOREの定義は、カテゴリーや消費者の中で起きているトレンドに当てるブランドや商品のことです。現時点ではビジネスサイズは大きくないが、将来大きくなる可能性があるために今のうちに先行投資をしておく、または、この領域で伸びている競合を抑え込む、といった意味合いでの役割になることが多いです。

このCORE + MOREの考え方は、複数ブランドを持っている場合のカテゴリー戦略、または、単一ブランドのマネジメントの場合でも適用できる考え方です。よく散見されるミスが、基幹ブランド、もしくは、基幹商品を売ることをおざなりにして、新商品ばかり投入し続けること。また、そもそも利益構造が成り立っていない商品にマーケティングリソースを割いて売上を伸ばすことです。前者の場合は単純な話で、看板ブランドや看板商品はそもそも売上が大きいこともあり、ここが落ちてしまうと、いくら新商品を投入してもその看板商品で落ちた売上を補うことが難しいです。また、後者の場合は、売上は伸びても利益が伸びません。

COREMOREをきちんと戦略的に定義して、特にMOREにおいては捨てる勇気も持つこと。その上で、まずは、COREであるブランドの代名詞となっているようなブランドや商品にリソースを割き売ること。MOREに該当する新商品の場合は、既存品よりもなるべく良い利益構造になっているものを作る、既存品とカニバらないようにきちんと意味のある違いがある商品を作る、などといった打ち手があります。このように事業ポートフォリオを整理することは、マーケティング戦略に必須のステップになります。また、特に経営層の意思決定にも重要になるので、参考にしてみてください。

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⑥原価を下げる:
日々の小さな積み重ねがモノを言う分野です。
例えば、パッケージには本当に原価が高い光沢のある素材を使う必要があるのか。4色印刷が必要なのか、3色ではダメなのか、商品に含まれる成分は全て消費者を満足させるために必要で削減余地はないのか、などなどです。生産管理やR&Dとの協働が必須になります。

⑦効率の良いお金の使い方:
一番無駄が潜んでいる項目になります。私の経験上、必ずどこかに無駄があります。無駄とは、投資に対するリターンが悪いものを指します。大きな要素としてあるのは、研究開発費用、マーケティング費用、人件費、があります。特にマーケティング費用においては、広告費、広告制作費、商品値引き費用、を見るべきでしょう。

例えば、利益率の悪い商品に広告などを大量に投下していないか、マーケティング予算をテレビCM一辺倒にしていないか(テレビCMはある一定ラインを超えると非常に投資効果が悪くなります)、エージェンシーや代理店に払うフィーについて他と比べたりピッチなどしないで言い値で払っていないか、小売店に無駄なリベートを払っていないか、などなどです。

21世紀の企業価値向上のドライバーとして評価されるべき+1のSDGs

この章の冒頭部分で、TSRを伸ばすためにはマルチプルを増やすことが必要で、そのためには企業やブランドが描く魅力的な将来性(エクイティストーリー)が必要と述べました。

私は、そのエクイティストーリーの一環として、SDGsの要素が大きく貢献する時代が来ると確信しています。企業やブランドの理念に合致したSDGs活動の長期宣言を行いつつも、そのコミットに対して実際に行動し、しかも、それがビジネスの売上や利益に数字になって還元されると、より投資家から評価され企業価値が上がるはずです。

実際に、投資の世界ではESG投資に代表されるように、すでにその萌芽は出始めています。ブランドビジネスにおけるSDGsといえば、サステナビリティ・環境問題に関連するものを第一想起されるかもしれませんが、E&I (Equality & Inclusion: イクオリティ・アンド・インクルージョン)やD&I (Diversity & Inclusion: ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)に関連するイシューにチャレンジすることも立派な取り組みです。実際、私が開発したパンテーンの#HairWeGoは、髪型校則や就職活動、性の多様性をテーマに、日本社会における画一性にチャレンジすることで、高い評価を頂きました。

しかしながら、昨今の企業のSDGs活動の課題の一つは、その活動が業績向上に繋がりにくい、ということが上げられると思います。次章以降でより詳しく見ていきたいと思います。

ここまでの整理として、
企業価値・ブランド価値を拡大させていくためには、

「7+1でTSRを向上させる」=
A.「利益」と「フリーキャッシュフロー」を7つのドライバーで伸ばす
マーケティングの視点でコントロールしやすいものとして「売上成長」と「利益率向上」のための7つのドライバーを見つけること(+企業の状況によって様々であるが「アセットの効率性向上」も考える)
×
B.「業績向上につながる+1のSDGs活動と成果」でマルチプルを上げる

が必要ということになります。 要点をまとめたパワーチャートを下記に載せておきます。

ドライバー①

2. 経営者が意思決定すべきは「市場規模拡大>シェア拡大」

【2-1:市場規模拡大の視点で、TSRの4つの売上レバーを見る】

企業価値を高めるべく、マーケティング視点でTSRを伸ばすためのドライバーを紹介しましたが、もう1つビジネスの考え方として皆さんに知っておいてほしいことがあります。それは、カテゴリーの中で競合と売上のシェアの取り合いをするのではなく、「カテゴリーの市場規模そのもののパイを大きくするためのアプローチを考える」ということです。

この論点については、マッキンゼーなど世界中の色々な会社が、あらゆる業界でメタ分析をしており、売上を伸ばした会社の、売り上げ伸び率の64%は市場を拡大したことによる、というものがあります。ちなみに、残りのほとんどはM&Aで、意外なことに市場シェアだけを伸ばしたことで売上がさらに伸びたという事例はほとんどないようです。

わかりやすくイメージできるように、カテゴリーの市場規模が大きなった例を幾つか紹介します。

1 )全く新しい市場を作った例
 - めぐりズム。寝る前に使うアイマスクという新しい市場
 - ファブリーズ。布用消臭剤という全く新しい商品
 - CAMPFIRE。クラウドファンディングという新しい出資の形

2 )既存市場の中に高付加価値で高単価なサブカテゴリーを作り市場全体を拡大した例
 - メンズスキンケアのBULKHOMME。既存メンズスキンケアの中でミニマルでかっこいい世界観で既存マス商品よりかなり高単価な価格設定で市場を伸ばした
 - ヘアケアのBOTANIST。既存市場と同じシャンプー・コンディショナーを売りながらも、ナチュラルという新たなサブカテゴリーを作り高価格で売ることで市場を伸ばした
 - テスラ。既存自動車市場の中で、EV市場という新しいサブカテゴリーを作り上げ、高価格で売ることで市場を伸ばした

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我々は、ついつい市場の中で、「競合より売上高い?低い?」といった、市場シェアばかりを気にしていまいがちです。それはそれで大切ですが、どのようにすれば市場を拡大できるのか、という視点で、先程述べたTSRのドライバーを見ていくのです。

先ほども出したファブリーズの布用消臭剤の具体例で見てみましょう。

購買人数:布用消臭剤に関しては、まだ世帯浸透率(1年以内に一度でもそのブランドあるいはカテゴリーを購入したことのある人の割合)が30%前後しかないので、新しい消費者インサイトをもとに「まだ購入したことがない人が、布用消臭剤そのものを購入すべき理由」を作り出すことで、世帯浸透率が上がり市場規模が拡大する (ちなみに、洗濯用洗剤などの必需品は、世帯浸透率が当然ですがほぼ100%に近くなります)。例えば、今までカーテンにしか使えないと思っていた人に対して、靴にも使えるよ!とブランドがコミュニケーションすることで、靴のニオイや菌が気になっていた人が新しく取り囲めることができ、世帯浸透率が上がる

購買頻度:布用消臭剤を一度買っても、使用の習慣化がされていないため、習慣化させるためのアプローチを行うことで購買頻度を上げる

購買点数・量: 詰め替え用の特大パックや、ついで買いでトイレ用や車用の消臭剤を一緒に買ってもらうことで市場を拡大する

購買単価:男性が気にする特有のニオイ問題に(汗臭・タバコ臭 etc..)通常のファブリーズより消臭効果が高い「男性用ファブリーズ」といった、高付加価値の新商品を市場平均価格より高い値段で出すことで市場を拡大する

どのドライバーも大切ですが、市場規模を拡大するのに最も重要なレバーは「購買人数」つまり、新規ユーザー数をいかに高められるか、です。ちなみに次に大事なものは「購買単価」を上げることです。長くなってしまうので詳細は省きますが、こちらもメタ分析によって証明されています。上で挙げた市場規模拡大の例も、大体そうなっていますよね。

幾つか、新規ユーザー数と購買単価を伸ばすポイントを述べておくと、
1)既存カテゴリーをまだ使っていない消費者セグメントを見つけ出し、 そのセグメントに刺さる新しい便益や、使用方法、体験を提供することで今までそのカテゴリーに振向かなかった消費者を振向かせる
2)既存カテゴリーの不満を高付加価値・高価格帯で解決する
などが挙げられます。

実は、市場規模拡大の打ち手も、自ブランドの市場シェアの大小や、自ブランドが戦っている市場自体の世帯浸透率の大小によってある程度打ち手の出し方が決まってくるのですが、こちらも語り始めると長くなるので何かの機会があればまとめてみたいと思います。

それでは、なぜ新規ユーザー獲得が大切か、興味深い市場原理に基づいて説明しましょう。これらを理解することで、消費者の個別の購買行動を予測することはできないが、それぞれの消費者の行動の総和としてマーケットがどのように最終的に形成されていくかをほぼ確実に予測することができます。

【2-2:「リピート率の高さ」と「売上」は比例しない(Double Jeopardyの法則)】

下記の表をご覧ください。

この表が示唆していることは、市場でのシェアもしくは世帯浸透率に比例する形で、購買頻度ロイヤリティ(年間のカテゴリー購買総量のうち、当該ブランドをどれくらいの割合で買っているか)も決まっていくということです。

つまり、リピート率だけがものすごく高くてビジネスが拡大していくということはありえない、もしくは、売上規模が小さいブランドが大きいブランドよりリピート率が高くなることはありえない、ということを示しています。これは、消費財だけではなく、その他多くのカテゴリーにも当てはまる法則(Double Jeopardyの法則)として知られています。

例えば日本でもここ数年でトレンドになったD2Cビジネス。最初はコアファンとコミュニケーションをとりながらブランドを育てるのが一般的でありますが、ある一定の売上を超えた際に、売上が頭打ちになるといった課題に直面しているD2C経営者の方も多いのではないでしょうか?まさにこの法則にあるように、新規ユーザーをとれる戦い方を生み出していけなければ、リピート顧客だけでビジネスを伸ばし続けるのは難しいのです。

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【2-3:消費者は複数のブランドを試して使う (Duplication of Purchaseの法則)】

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消費者の個別の購買行動は毎回ランダムで、的にダーツを投げる感覚で購買行動が起こっているということです。

例えば、市販のビールを買いたくなったとしましょう。チョイスは色々ありますね。キリン、アサヒ、サッポロ、クラフトビール etc.. この時、消費者はいくつものブランドが不均等にのっている的にダーツを投げて決めるような感覚で購入します。

そして、各ブランドの的の大きさは、市場シェアに比例しているということです。市場シェアが一番高いブランド(今ですとキリンでしょうか。ちなみに、キリンビールで大活躍中の山形常務は私の新卒時のメンターでした)の的の面積が一番大きくなるのです。

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ですので、上のDouble Jeopardyの法則でも述べましたが、市場シェアが大きなブランドほどリピート率も高くなるのです。そしてここからもう一つ言えることは、一人の消費者は、カテゴリーの中で複数のブランドを試して使っているのです。もちろん、個々人レベルで見れば、絶対このブランドしか使わない、という人もいますが、総和で見ると、色々なブランドを試して使う人が大多数ということです。

またブランドの売上の50%は基本的にライトユーザー(年間にそのブランドを1回程度しか買わないユーザー)で構成されており、どんなブランドも毎年40-60%は前年に獲得したユーザーを失うことになります。この辺りは、いわゆるSaaSなどのサービスには当てはまりませんが、BtoCのブランドビジネスの場合、どんなに高級な商材(ファッションや宝石など)でも当てはまると言われています。

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新規ユーザーを増やすこと。これが、マーケターにとっては最も難しく、それと同時にエキサイティングな仕事でもあります。なぜならば、TSRの売上ドライバーの他の3つに比べて、新規ユーザーを取ることが最もサイエンスとアートが必要とされるからです。では、どうすれば新規ユーザーを取れるのか。先程、ダーツの例がありましたが、ダーツで消費者に的に当ててもらうためには、的の面積を大きくすればいいのです。すなわち、消費者の頭の中で、自分のブランドの占める割合を大きくするのです。そのためには、ブランド価値を上げることが必要です。

パンテーンは、当時、老舗ブランドにありがちですが、新たなブランドや商品が乱発される(しかも高価格帯で)激戦のヘアケア市場において、「家族や自分自身が昔使っていた」安くて古いブランドになってしまっており、TSRドライバーを市場規模拡大の観点から俯瞰した時に、新規ユーザー獲得とブランドのプレミアム化に主なチャレンジがあったのです。

3. 「ブランド価値=ブランドエクイティ÷値段」がビジネス結果を左右する

それでは、ブランドの価値とは一体何でしょうか?それは、全てこの数式に集約されます。

ブランド価値 = ブランドエクイティ(ブランドイメージ+商品パフォーマンス) ÷ 値段

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この数式は、全てのビジネスの本質が集約されていると私は思っています。なぜならば、全ての商売の本質は、消費者が払うお金の対価に比べて、消費者が得られる商品やサービスのパフォーマンスがその期待値を上回れるかどうか、だからです。もっと言うと、商品から得られるパフォーマンスも、ブランドイメージに大きな影響を与えます。ですので、ブランドエクイティは、実際の商品パフォーマンスや、消費者がブランドに対して持っているイメージの積み重ねで既定されます。そして、このブランド価値が高ければ高いほど、売り上げが伸びる事は統計的に証明されています。(ちなみに、身近な例で言うと「コストパフォーマンス」も同意義です。値段の割に”良い商品であったか”で、普段買うべきものを判断するように)

では、ブランドエクイティとはもう少し具体的にどう言うことでしょうか。それは、消費者のHead (頭)とHeart (心)に刻まれたブランドのエッセンスのことです。皆さんが、あるブランドの名前を聞いたときに、パッと浮かぶイメージや感情です。まだ少し抽象的かもしれませんね。

それでは、ブランドエクイティの構成要素を分解してみましょう。

①Awareness(認知)
②Performance(パフォーマンス)
③Imagery(イメージ)
④Judgement(判断)
⑤Feeling(フィーリング)
⑥Attachment(愛着)

①Awareness(認知):
文字通りブランド認知です。まずはブランドの認知がないことには始まりません。ここで、認知にも質と量があることに留意しましょう。量は、一般的に言われる認知度です。質は、Top of Mind awareness(第一想起), Unaided awareness(非助成想起)という2種類があります。前者は、カテゴリーについて知っているブランドは?と聞かれて一番最初に浮かぶブランドのこと。後者は、カテゴリーについて知っているブランドは何ですか?と聞かれて自発的に出てくるブランドのことです。(一番目に想起されなくても、想起さえされたらカウントされる)質的認知まで拡大できると、ブランドエクイティはさらに強固になります。

②Performance(パフォーマンス):
ブランドについて思い浮かべるパフォーマンス、俗にいう便益というものです。ブランド、商品のパフォーマンスは、常にブランドの中心にあり、消費者が第一義的にまず実感するものでもあります。ここがブレているブランドは、まずはここを固めるところが第一歩です。しかも、その便益が、競合とより差別化されている必要があります。

③Imagery(イメージ):
そのブランドについて、抽象的に思い浮かべるイメージです。どういう人が使っていそうなブランド、人間に例えるならばこういう性格のブランド(いわゆるブランドキャラクターです)、こういう歴史があるブランド、といった具合です。

④Judgement(判断):
上述したPerformanceやImageryについて、消費者が競合と比べてベターである、という一定の判断を下している状態です。このブランドは最も信頼できる、このブランドは約束している便益をきちんと達成してくれる、といった具合です。

⑤Feeling(フィーリング):
ブランドに対してポジティブな感情的リアクションを持っている状態です。例えば、このブランドを使っている自分に自信を与えてくれる、自分にとってベストなことをしているように思える、このブランドを使っている家族にベストなことをしてあげられていると思える、などです。

⑥Attachment(愛着):
このブランドがなくなったら困る、他人にオススメしたい、このブランドを愛している、など、いわゆる、消費者がブランドに対して愛着がある状態です。

ここで重要な事は、上に述べた要素は、おおよそ順番で築かれていくし、築かれていかなければならないという事です。また、これらは、定点観測で定量的に追っていくことができます。

わかりやすく分類すると、

STEP1. 認知がまずあって (①Awareness) 
STEP2. ブランドの意味がクリアで (②Performance/③Imagery) 
STEP3. リアクションをブランドに作り (④Judgement/⑤Feeling) 
STEP4. ブランドと関係を築きブランドへの好意をゲットする (⑥Attachment)

ということになります。
バズ狙い、広告賞狙いのマーケターやクリエティブがやりがちなこととして、ブランドの基礎が築かれていないのに一足飛びにエモいクリエティブやキャンペーンを作るケースが散見されますが、まずはきちんと機能的便益を作り伝え、その後に消費者に感情的便益を与えるとことが大事です。

ちなみに、こちらも統計的にですが、⑥Attachment(愛着)のレンズの方に拡張できればできるほど、売り上げが伸びることになっています。

また、第1章で述べたように、今の世の中は、消費者が、企業やブランドに社会的役割を果たすことを期待するようになっています。つまり、 SDGs的価値感を持ちきちんと行動しているブランドこそが、ブランドエクイティのより上位概念である④Judgement(判断)、⑤Feeling(フィーリング)、⑥Attachment(愛着)を制しやすくなっているのです。

パンテーンの場合だと、老舗メガブランドなので質・量ともに認知は十分、昔からの資産でパフォーマンスに関してもそれなりにしっかりしたイメージがまだ定着していたが、多くの魅力的なトレンドを追った新ブランドが市場に溢れる中で、ブランドエクイティ上で、より上位概念の消費者との繋がりの部分に機会があったのです。

4.「8ファクター」で競合より優れることで、ブランド価値が高まる


では、これらのブランドエクイティの各要素をどのように伸ばし、ひいてはどのようにしてブランド価値を高めていけば良いでしょうか。ここでは、ブランドが追うべき「8ファクター」とそのKPIの考え方のポイントを紹介していきます。

大体は「8ファクター」全てでKPIを数値化できるのですが、全てを説明すると長くなってしまうので、特に消費者を動かすために必要なポイント(小売以外)を中心に明かします。これらの「8ファクター」で、少なくとも5個以上競合より優位性を発揮できれば、ブランド価値が向上しビジネスが伸びる確率がかなり上がるはずです。

「8ファクター」
#1. コミュニケーション
#2. 商品のパフォーマンス
#3. 商品に刺激される五感
#4. パッケージ
#5. 店頭展開 (オフライン・オンライン)
#6. リテーラーへの付加価値
#7. 消費者への価格面での提供価値
#8. 社会とブランドの結びつき

#1. コミュニケーション

文字通り、ブランドのコミュニケーション部分になります。
私は、過去にSK-IIやヘアケアといったビューティ商材をメインで担当してきたのでなおさら痛感しますが、マス広告のテレビCMと店頭だけおさえればよい時代は終わったと痛感しております。昨今、ますますメディアは複雑化し、消費者のメディア消費の姿勢もすっかり変わりました。我々マーケターが立つべき前提は、主導権は消費者に移った、と考えることです。消費者は、広告のことを基本的にうざいものと思っていますし、もうブランドから一方的に語られるプッシュ広告には耳を傾けにくくなっているのです。

その前提で、このファクターのKPIとしては下記があげられます。

①質的、量的認知
②リーチ%(ターゲット消費者の何%にリーチできたか)
③検索エンジンにおけるブランド名のサーチ数
④SNSにおける# of engagement
⑤次回購入検討意向率

最初の2つはよく聞くわかりやすいものですが、残りの3つはより重要なものです。
③検索エンジンにおけるサーチ数とは、どれだけ消費者にブランドに対する興味を喚起できたかの指標になります。(スマホ片手に簡単に検索ができる時代において、そもそも「ブランド名が検索されない」ということは、ある意味で消費者がより知りたいと思えるブランドになれていないということです)
④SNSにおける# of engagementとは、まさにSNS上で消費者がどれだけブランドと関わろうとしたかを見ていく指標です。(スマホ片手に簡単に検索ができる時代において、そもそも「SNSで会話されない」ということは、ある意味で消費者にとって日常のライフスタイルの中に溶け込めるブランドになれていないということです)
⑤次回購入検討意向率とは、今あなたが使っているとあるブランドを使い切った際に、次回の購入タイミングでも買いたいと思いますか、という指標で、単なる認知ではなく、より購入に直結する指標です。

お気づきの通り、①②はプッシュ型の施策寄りの指標になり、③④はプル型の施策に対する指標、そして、⑤はそれら全てをひっくるめての総合指標、のようなものになります。(プッシュとプルについては後ほど説明します)

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#2. 商品のパフォーマンス

ブランドエクイティの項でも述べましたが、商品パフォーマンスはブランドの核です。ここで言うパフォーマンスとは、クロニックベネフィットと言って、ある一定期間使うことで本当に実感できる商品から得られる効果のことを言います。例えば、スキンケアで30日間シミ取り美容液を使うと、本当にシミが減る、と言った具合です。

色々な調査手法でパフォーマンスの良し悪しを定量的に調べる方法がありますが、ここでは、皆さんでもすぐに使えるKPIとしてECサイトのレーティング&レビューをあげたいと思います。例えばアマゾンで、あなたの商品は競合としてベンチマークしている商品より良い点数と多くの口コミ数を獲得できていますか、ということです。

#3. 商品に刺激される五感

インスタ映え、という言葉が出て久しいですが、この時代は、五感に訴えかける商品・サービスづくりが本当に大切になってきています。パッケージを初めて触った時、パッケージを開けた時、商品を初めて使った時のユニークで面白いテクスチャー・・。これらは、上で述べたクロニックベネフィットという意味では大きな役割を果たしませんが、消費者に効果効能を訴えかける助けになりますし、SNS上でブランドや商品を拡散する助けにもなります。例えば、古い例になりますが、スクラブの入った洗顔剤などは良い例です。スクラブが入ったことで本当にどれだけ洗顔効果が上がるかは実際のところは不明瞭ですが、スクラブのおかげでよく洗えた気になりますし、何より新しい洗顔体験が可能となりました。

#4. パッケージ

パッケージは、ブランドエクイティを最も体現するべき広告でもあります。
パッケージは店頭やオンラインストアの視点と、実際の商品使用体験の視点から考える必要があります。店頭やオンラインという意味では、「See」「Select」「Buy」の視点で考えます。

「See」は、消費者が遠くから見ても目が止まりブランドを認識できること、「Select」は、選ぶ段階において自分に最適な商品がすぐ選べること、「Buy」は、消費者が欲しい便益を適切な値段で提示できていること、になります。

使用体験の観点からは、ユーザビリティが高く、使いやすいことが大切になります。それと、昨今では、サステイナビリティに配慮したパッケージを作ることも大きな課題です。

#5. 店頭展開(オフライン・オンライン)

「配荷」「ディスプレイ」「値段」という要素があります。そもそも、「配荷」がされていないと商品は売れませんし(それと配荷はブランドの認知度にも大きく影響を及ぼします)、「ディスプレイ(いわゆる特売・特設コーナーです)」で露出が取れていればいるほど、売り上げは上がります。
また、「配荷」と「ディスプレイ」も、質と量の両方で考えることが大切です。質と量の観点から、パッケージでも述べた「See」「Select」「Buy」の基本理念に則り店頭展開をしていきます。質という意味では、きちんと目立つ棚の位置に置かれているのか、色々なバラエティに富んだ商品が置かれているのか、などです。店頭は購買が起こる瞬間ですから、売り上げに直結します。

そして、素晴らしい店頭展開をするには、きちんと意図のあるブランド・商品設計をして、リテーラーと協業をする必要があります。こちらもものすごい奥深い世界ですが、書き出すと長くなるので別の機会で気が向いたら書きます!

また、オンラインではCARSと言って、Contents(商品サイト・ページにおけるEコンテンツの充実), Assortment(消費者がオンラインで求める特有の商品種類が揃っているか), R&R, Search(ECサイト内でのSEM/SEO)、で勝つことが重要になってきます。

#6. 小売業者への付加価値

上述したように、小売業者とうまく協働できるかどうかはビジネスに直結します。小売業者への付加価値として、カテゴリーの市場規模を伸ばすことができているか(冒頭で述べたとおり、小売の皆様もカテゴリーを伸ばすことがビジネスを伸ばすことと知っているのでこの指標を気にするのです!)、競合に比べて十分な小売マージンを与えられているか、と言ったKPIを設定します。

ちなみに、配荷とも大きく関係してきますが、小売業者と良い協業をしてオフラインで配荷を上げていくことは、ビジネス拡大にとって最重要ポイントの一つです。アメリカのD2Cでも、あるところからオンラインだけでは売上拡大が止まり、結局ウォルマートやターゲットに配荷をすることで規模拡大が可能になり、初めて利益を生み出すことができたという例は多数存在します。

#7. 消費者への価格面での提供価値

価格設定はきちんと意図を持って行わなければなりません。大前提としては、ブランド価値で述べたとおり、消費者がブランドから得られる便益を得るのに喜んでお金を払う価格設定なのか、ということです。それと、カテゴリーの市場規模をきちんと伸ばせる価格設定か(市場平均より高いか)、ベンチマークとしている競合に対してプラスマイナス何%の範囲に収めると売り上げと利益が最大化できるのか、などです。こちらも定量的に測ることができます。定点観測で、消費者に5段階でブランドの価値が高いかどうか聞いて競合と比べれば良いのです。

ここで1点気をつけていただきたい点が、値下げ施策です。値下げが悪とは言いません。商品ローンチ時やここぞという時の適切な値下げは新規ユーザーを取ることに貢献します。しかし、私の経験上、また、こちらもある程度統計的に証明されているのですが、恒常的な値下げは単にリピートユーザーの購買を促進するだけで、新規ユーザーを取ることに貢献しないケースが多々あります。ですので、マーケターとしては、まず、ブランドや商品が提供する便益やエクイティを引き上げることで、価格を変えなくても相対的にブランドの価値を上げることで新規ユーザーを取ることに集中するべきです。

#8. 社会とブランドの結びつき

これは「コミュニケーション」のファクターと重なる部分でもありますが、ブランドと社会的な関心事がうまく重なるアングルを見つけてブランドコミュニケーションを作っていくことです。ブランドが独りよがりのメッセージを発しても消費者に聞き入れてもらえる時代ではありません。ですので、社会の関心事と重ねることで、より消費者に聞き入れてもらいやすくするのです。KPIとしては、コミュニケーション部分で述べたものも該当しますし、また、社会的トピックとブランドが一緒に関連検索されることが理想となります。

そして、これら「8ファクター」で優位性を発揮することにより、消費者がブランドに対する評価を下す下記の5つの評価ポイントを制することにも繋がります。

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マス広告やデジタル、PRなどを駆使して事前に消費者の中でブランドイメージを醸成し、それをきっかけにブランドに興味を持って調べてくれた人に適切な情報を主にデジタル上で仕込んでおき、店頭およびオンラインできちんと消費者に購入してもらい、商品に初めて触れた時使用した時に消費者をときめかせ、数日間使用し続けてもらった時に満足させることでリピーターになってもらう、さらにはブランドを推奨してもらいやすくするというわけです。

パンテーンの場合は、「8ファクター」それぞれで細々と弱点がありましたが、最も大きな部分では「コミュニケーション」と「社会とブランドの結びつき」でした。

その中でもKPIとして述べた、「検索エンジンにおけるブランド名のサーチ数」、「SNSにおける# of engagement」、「次回購入検討意向率」が致命的でした。正確に言うと、私が着任する以前は典型的な消費財のマスマーケティング手法、誰が見ても他のシャンプーと変わりばえしないTVCMを毎月1,000GRP以上垂れ流し、特売プロモーションパックや値引きをリテーラーに提供し続けて店頭での露出を確保する、という状況でしたので、そもそもこれらのKPIについては追ってもなかったのです。ですので、KPI部分のテコ入れをしつつ、実際に「8ファクター」を実装できるチームを蘇生しなおしました。

5.   21世紀のマーケティングフレームワークは「トーカビリティ」×「WHY/WHO/WHAT/WHERE/HOW」


今までのお話をパンテーンのケースで少しまとめましょう。パンテーンは老舗ブランドで十分な認知がありながら、安いマスの価格帯の商品だけで勝負し続けており、それに伴い典型的なつまらないマスマーケティング (古くなった安い商品を頑張って売り込むために差別化がされていないテレビCMをプッシュし続けて、店頭露出を最大化する)に終始しており、特売の時に昔からのユーザーが買うブランドに成り下がっていた。 

そのため、TSRを市場規模拡大の観点から俯瞰した時に、新規ユーザーを獲得することと、しかもそれを市場平均以上の単価の商品を新しく出すことで達成する、ということを大きな戦略の一つにしたのです。特に新規ユーザーを獲得するためには、ブランド価値の向上が急務で、ブランドエクイティのドライバーや「8ファクター」を見ると、消費者との情緒的なつながりやブランド自体を話題化させることに機会があった、ということになります。

このように、ビジネスを本当に伸ばすためのドライバーをきちんと整理して、大きな戦略が練りこまれてから、P&Gマフィアの諸先輩方のおかげで有名になったWHO/WHAT/HOWのマーケティングフレームワークを初めて使い始めるのです。私は、先人から受け継いだこのフレームワークを自分なりに味付けをしています。SDGsの興隆やデジタル化が進み、複雑になっていく消費者を取り巻くメディア環境を考えた時に、フレームワークも常に進化するべきと考えています。特に、WHERE/HOWで変化が著しいといえるでしょう。そして、下記に紹介するものは、現代のブランドビルダー・マーケターにとって不可欠なものと考えています。今回は、パンテーンの#HairWeGoのケースにフォーカスして見ていきましょう。

【5-1:トーカビリティ マーケティング(TALKABILITY)】

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現代の消費者を取り巻く大前提を確認しましょう。デジタル化が進み、爆発的に情報量が増えたことで、消費者は情報をなるべくブロックしたがっています。押し付けがましい広告などもってのほか。また、そのような状況の中で、消費者はSNSなどを通じて、できるだけブランドの声ではなく、友人や家族など第三者の声を参考にしてブランドの声から身を守ろうとさえしています。主導権は完全に消費者に移りつつあるのです。ブランドビルダー・マーケターである我々は、ブランドとそれにまつわる広告について、消費者が自ら見たくなる、人に話したくなる(そうすることでソーシャル上で拡散する)、調べたくなるようなコミュニケーション設計を大前提にしないといけないのです。私は、これを「トーカビリティマーケティング」と呼んでいます。トーカビリティとは、話すネタがあるということです。

【5-2:WHY(なぜ)】

第一歩目は、なぜブランドがこの世の中に存在しているのか(ブランド パーパス)、を明確にすることです。ブランド ナラティブなんて呼ばれたりもしますね。すでに世の中にあるブランドの場合は、明文化されていなかったとしてもブランドの歴史や誕生秘話を紐解けば必ずヒントがあるはずです。
また、何かしらで明文化されていたとしても、時代が変わるにつれて表現を含めて古臭くなってしまっている可能性があるので、そこを現代化する必要があります。新規ブランドの場合は、 創業者の思い、なぜそのブランドを始めるのかがWHYに該当するでしょう。

例えば、レッドブルの ブランドパーパスは、Give wings to people & ideas、のように表現されるはずです。

パンテーンの場合は、もちろんブランドの存在理由を、「あなたらしい髪の美しさを通して、すべての人の前向きな一歩をサポートする」と定義しました。

ここは、ロジックと感性が要求されるマーケターとしての醍醐味になりますが、一つのアドバイスとしては、過去ブランドが調子がよかった時にどのようなブランド表現やコミュニケーションをしていたのか、を研究することでヒントが得られることがあります。

このWHYは、全ての出発点です。そして、SDGsが叫ばれ始めている今、その重要性がどんどんと増しています。ある調査では、欧米に比べてSDGs後進国の日本でさえも60%の消費者が起業やブランドに良い社会的役割を果たすことを期待している、それが購買理由にもなり得る、というものがあります。また、根本的にブランドの存在理由に人が共感できるとトーカビリティを生み出すことができ、消費者がブランドのコミュニケーションに耳を傾けやすくなってくれます。

【5-3:WHO(誰に)】

消費者のターゲット設定については、P&Gの諸先輩方の本や記事などで色々と語られていると思うので基礎はそちらにお譲りしますが、トーカビリティを産むためのマーケティングという視点で少々ユニークな視座を記したいと思います。

市場規模を拡大すべき、のパートでも説明しましたが、新規ユーザーを取るための一つの王道の施策はブランドが取れていない(もしくは失っている)消費者のパイを広げることです。刀の森岡さんがUSJをハリウッド好きから家族全員が楽しめるように設定したのと同じ話ですね。パンテーンのケースだと、上述した通り、明らかに若い世代に機会がありました。

次に、具体的な「トライブ」とそのコミュニティをn=1で明確にイメージし、ディープな消費者のインサイトをあぶり出すことです。「トライブ」とは、コミュニティと呼んでもいいかもしれません。消費者理解・ターゲット設定でよくマーケターが陥りがちな罠が、働くお母さん、などいわゆるデモグラフィックで考えていくことです。デモグラフィックで消費者をイメージしても、なかなかディープなインサイトを想像しづらく、ありきたりなものにしかなりません。

また、トーカビリティを生むには、コミュニティに所属するトライブに話しかけた方が広がりやすいのです。例えば、究極の筋トレマニア、といった具合です。何かに没頭している「トライブ」は、コミュニティも形成していることが多いのです。そして、そのコミュニティの中で一度火がつけば、他に飛び火することが多いのです。一度火がつくと、メディアなどで取り上げられやすくなりますからね。

「インサイト」を描く、とはどういうことでしょう。敏腕マーケターはすべからく消費者インサイトを明確化することに長けています。むしろ、これができないマーケターは一流ではないかもしれません。

「インサイト」とは、消費者が自分では表現できていなかったが、それを聞くとあぁなるほど、あなたは私のことがわかっている、と思わず膝を叩いてしまう、ということです。そして、素晴らしい「インサイト」とは、自ブランドが戦っている商品カテゴリーに関するものだけではなく、人間としての人生・生活に直感的に訴えかけるものも含まれます。

考えてみてください。消費者は、我々のブランドが所属しているカテゴリーのことなんて、1日に数分も考えていないでしょう。ですので、人生の枠組みの中で、一人の人間として消費者理解をすることが大事で、その中でカテゴリーとの力強い接点を見つけることができると、ビジネス成長につながりやすくなります。

有名なジョブ理論の言葉で言うと、機能的なジョブを片付けることで、社会的・情緒的ジョブをも片付けられることです。使い古された例でややありきたりですが、家の空間用消臭剤の機能的ジョブは、お家の臭いを取ってフレッシュにしたい、社会的・情緒的ジョブは、お客さんがくる時に良いホストとして認められたい、といった具合です。

さて、パンテーンではどうだったか。私が一番最初に目をつけたのが、就職活動生という「トライブ」でした。パンテーンが弱みを抱えていた若年層であり(おまけに、就職のタイミングは色々と購買習慣が変わるタイミングなのでブランドにスイッチさせやすくLTVが伸びやすい)、かつ、好きな髪や服装で就活に臨みたいのに、同調圧力に負けて個性を発揮できない、というパンテーンのWHYにぴったりな「インサイト」が描けたのです。

【5-4:WHAT(何を)】

ターゲット消費者のイメージができたら、次は、ブランドが提供する価値やメッセージを規定するパートです。トーカビリティの観点から、幾つかポイントがあります。

・ブランド、消費者、社会が重なる、三方よしのWHATを規定すること
上述した通り、基本的に消費者はブランドのことなんて気にしていません。ですので、社会をうまく味方につけることが大切になります。消費者が興味関心がある社会的トピックにうまく乗せられると、消費者は耳を傾けてくれやすくなります。しかも、メディアに取り上げられやすくなるという側面もあります。一発バズ狙いのマーケターやクリエイターがよくやるミスは、ブランドと関係ないところでキャンペーンを作ることです。それは、TSRに何も返ってこないお金の無駄遣いです。

・トーカビリティの種を仕込んでおくこと

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会話を生むためには、きちんと選択された特定のテーマで、物議を醸すくらいの強いメッセージを、共感が生まれやすいモーメントで打ち出すことが肝です。

パンテーンの #この髪どうしてダメですか の例で見てましょう。

消費者トライブ:地毛証明書を出したにも関わらず黒染め強要をされたことがある中高生
ブランド:パンテーンは、全ての人の前向きな一歩を髪という個性を通じて応援したい
社会:地毛証明書やそれにまつわる髪型校則に関しての関心
モーメント:学校校則というテーマに共感が生まれやすい、入学式前である3月にキャンペーンを始める
メッセージ:「#この髪どうしてダメですか」という強いメッセージとクリエイティブで、会話を生み出す仕掛けを作る

といった具合になります。

このキャンペーンは、ビジネスに貢献しただけではなく、実際に東京都教育委員会が都内の公立学校で黒染め強要をしないように要請したという、大きな社会的成果をもたらしました

【5-5:WHERE(どこに)】

消費者は一体どこにいるのか、また、会話が生まれやすそうなタッチポイントはどこなのか、をきちんと理解することです。何度も述べている通り、TVと店頭だけの時代は終わりました。

下記の図をご覧ください。
コンテンツの作り手は、ブランド、メディア媒体、インフルエンサー、消費者(いわゆるUGCというやつですね)と大きくあって、その作ったコンテンツを、目的に応じてどのプラットフォームを使って消費者に当てていくのか、というモデルです。自分のブランドが戦っているカテゴリーでの消費者の行動属性をきちんと理解して、ターゲット消費者はどこにいるのか、そして、タッチポイントによってどの作り手のコンテンツを作ると最も消費者に刺さるのかを勘案しながら、マーケティングプランを策定していきます。

例えば、カテゴリーによっては、商品検索をグーグルなどの検索エンジンでするよりも、直接アマゾンで検索する人の方が増えています。その場合、グーグルよりアマゾンを優先してサーチ対策のお金を使うべきですよね。

なお、複雑になりすぎるので詳細は控えますが、 WHEREを探すときに、WHEN(いつ)も一緒に考えると、より効果的になります。いつ、どこで、消費者にリーチできると、消費者がブランドに心を開きやすくなるのか、といった具合ですね。例えば、年末には大掃除フェアみたいなものがよくドラッグストアで行われていると思いますが、お掃除グッズを売るブランドからすると、年末は消費者が心を開いてくれる良いWHENになるといった具合です。

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【5-6:HOW(どうやって)】

消費者がどこにいるのか(WHERE)のあたりがついたら、 いよいよ最後はHOW (WHOに基づいて作ったWHAT(メッセージ)をどういうコンテンツで伝えていくか)です。世の中的に、一般的にマーケティングとか広告と言われる部分かもしれません。(HOWだけですとものすごい狭義の意味でのマーケティングですが)

・5AのPath to Purchase(カスタマージャーニー)を作る
まずは、5Aというカスタマージャーニーに則って各フェーズで作るべきコンテンツをマッピングします。5Aにおいて根底となる一つの考え方は、再三述べている通り消費者はブランドの言うことを信用しない、聞き入れにくい、ということです。ですので、現代においては特にAsk(調査)とAdvocate(推奨)が重要になってきます。ブランドについて気になって消費者が調べた時に、適切なコンテンツが適切なタッチポイントで用意されているか、ブランドのことを推奨してくれている第3者のコンテンツが用意されているか、そのために第3者が話したくなるような仕掛けが用意されているか(そうでないと、嘘くさいコンテンツになってしまうから)、ということです。

今回は、ミスターチーズケーキ(Mr. CHEESECAKE)の例でみてみましょう。ミスチの場合は、特にASKとADVOCATEでとても上手にバイラルループを作れていたことが素晴らしいなと思います。また、ファネル全体でおそらくインスタがメインのタッチポイントだったと思われます。規模が小さなブランドや広告費をかけないで始めるブランドの場合は、このようにSNSをうまく使いながらASKとADVOCATEを重点的に対策していくことが一つの勝ち筋のように思えます。なお、規模が大きく広告費をふんだんに使うブランドの場合は、AWAREとAPPEALを分けて考えることが多いですね。

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・コンテンツの作り方:プッシュとプルという考え方

カスタマージャーニーや5Aについては解説している本や記事がたくさんあるので、ここでは、私が世界中のマーケットと色々なカテゴリーで何百億円というお金を使って、ありとあらゆるタッチポイントを試して培ってきた秘伝のタレを伝授しましょう。当然ですが、結局コンテンツが良くなければ消費者を動かすことはできません。コンテンツ作成にあたり、まずプッシュとプルという考え方を覚えてください。

プッシュコンテンツとは、文字通り、ブランディングがきちんとされたブランドが消費者的に一方的に話しかけるものです。テレビCMは典型的な例ですし、YouTubeの短尺ビデオ、バナー広告、などもそれに該当します。基本的には、広く浅く消費者にリーチする目的で使います。5Aでいうと、認知(頑張って訴求)に寄与します。

一方、プルコンテンツとは、そのコンテンツを見た時に消費者が興味を持ちもっとブランドについて知りたいと思い調べるものを指します。そして、傾向としては、コンテンツの作り手がブランドではなくメディアやインフルエンサーであることが多いです。なぜなら、再三述べている通り、消費者は基本的にブランドの言っていることは無視したがる傾向にあるからです。

では、具体的には、どうやって良いプルコンテンツを作るべきでしょうか。
一つの答えは、「サーチ・バック」にあります。

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消費者が実際にサーチしているものは、すでに消費者が自ら関心を示しているトピックになりますから、最強のプルコンテンツを作るヒントになるのです。この消費者の動向を、各プラットフォームごと(Google、facebook、Instagram、Twitterなど)で知ることがとても大切です。なぜならば、プラットフォームごとに消費者のサーチ関心事は違う傾向があり、それゆえ、各プラットフォームに最適化されたコンテンツをつくる必要があるからです。

例えば、ツイッターでは具体的に頭の中にある商品についてよりリアルな口コミが知りたい、インスタではもう少し全般の今流行ってるトレンドが知りたい、といった具合です。あるプラットフォームではうまくコンテンツが機能したのに、他ではそうでもなかった、ということがあります。

良いプルコンテンツを作るもう1つの秘訣は、上述したWHOとして設定したトライブにインフルエンス力が強い第3者(いわゆるインフルエンサーやメディア媒体)をきちんと見つけて、その人たちと密に協働して、一緒にコンテンツを作り上げるのです。そうすることで、嘘くさくなく設定したトライブに本当に刺さるコンテンツを作ることができます。

ここで注意点は、コンテンツとブランドの連携をしっかり管理することです。よく見られる失敗は、インフルエンス力が強い第3者の意見に引っ張られすぎて、バズりはするものの、何のブランドの話なのか、なぜそのブランドが良いのかが直感的に理解できないことになってしまうからです。こうなってしまうと、お金の無駄遣いになってしまいます。

このような手順でコンテンツをきちんと設計すると、広告のROIが何倍も跳ね上がります。

なお、私の経験上、

1 )関心関与度が高いカテゴリーほどプルコンテンツを使うべき
2 )関心関与度が低いカテゴリーで自ブランドの世帯浸透率が高いケースほどマスリーチが可能なプッシュコンテンツに比重が置かれるべき
3 )関心関与度が低いカテゴリーでかつ自ブランドの世帯浸透率が低い場合は、よりターゲティングされたプッシュ広告を使うべき
4 )関心関与度が高く、また、自ブランドの世帯浸透率が高い場合は、プッシュとプルをバランスよく使い分けるべき

です。なぜなら、関心が高いカテゴリー(車、高級化粧品など)は消費者が購買まで時間をかけて調べ、色々な人の意見を参照したがるからです。そんな状況で、ブランドから一方的に話しかけるプッシュ広告だけ当てても意味がありません。

3 )でマスリーチではなくデジタルなどのターゲティングプッシュ広告をすべき理由は、単純に自ブランドの世帯浸透率がまだ低い場合はより自ブランドを買ってくれそうなニッチな層に優先的に広告を当てた方が投資効率が高くなるからです。

プッシュプル

・メディア&PR プランニング
5Aが作成でき、作るコンテンツも明確になったら、メディアプランニングをします。この領域は非常に多くの戦術があり、私自身もかなりの知見を有していますが、何しろ量が膨大で奥深いので今回は詳細は省きます。が、主題であるどのようにトーカビリティを生み消費者に聞いてもらえるようにするのか、という観点で少しだけ。

良いコンテンツやクリエイティブさえ作れば自然とクチコミが増えメディアに取り上げてもらえると思っている人がいるようですが、9割のケースでそんなことはありません。しっかりと細かくメディアとPRプランニングを両立させて、それが作ったコンテンツとベストな状態で噛み合った時に初めて、トーカビリティは生まれるのです。例えば、メッセージ性のあるプッシュコンテンツをまず作り、それをテコにPRでメディアの露出を取る。世の中でなんとなくキャンペーンが話題になってきたら、さらにプッシュコンテンツを広告費を使ってブーストしてさらなる認知を取ると同時に、PRやインフルエンサーに取り上げてもらったコンテンツも同時に広告費を使ってブーストしていく、といった具合です。

・ONEチーム体制とトラッキングPDCAシステム
色々と述べてきました。WHERE/HOWのテリトリーは複雑です。消費者がどこにいるのか(WHERE)を意識しながら5Aを設計し、Google, facebook, Twitterなど各プラットフォームでサーチバックをして消費者の興味関心を理解したらそれに最適なコンテンツをブランド、メディア、インフルエンサー、消費者と4者で作り込み、それをPRとメディアプランニングで加速させていく。関わる人も膨大です。各領域の代理点 (クリエイティブ、PR、メディア、コミュニケーションの全体像を描くストーリーテラー)、各プラットフォーマー(Google, facebook, Twitter etc)などなど。よって、ブランドマネージャーが中心に立ち、全てのステークホルダーにリーダーシップを指揮し、パズルを組み合わせていかなければなりません。そうです、まさにオーケストラの指揮官と同じ役割です。さらに、キャンペーンをローンチした後も気を抜けません。毎日、あるいは、毎週、関係各者を集めてソーシャルリスニングやデジタルメディアのパフォーマンスの進捗をモニターし、適宜アクションを取らなければなりません。

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WHERE/HOWのまとめとして、パンテーンの#HairWeGoではどうだったか。#令和の就活ヘアをもっと自由にというケースで簡単に見てみましょう。
包括的なマーケティング、メディアプラン (TVCM、デジタル、屋外広告)、PR、インフルエンサーなど、全てを駆使した複雑な全体像を、機能させることにこだわりました。

2019年10月1日「令和初の内定式」のタイミングがターゲットの就活生・内定生、ひいては社会が注目するモーメントと捉え、そのモーメントを最大化させるためのポイントとして”社会の変化の兆し(本当に就活スタイルが自由になるかもしれないという兆し)”をいかにプロジェクトの中で創り出せるかといったことを意識した、とても難易度の高い、全体設計を行いました。

そのためにはパンテーンだけでメッセージを宣言しても社会の変化の兆しとして捉えられにくいので、多くの賛同企業と共に、メッセージ広告を展開することを前提に、賛同企業を募るところから、プロジェクトをスタートさせました。

そうして、社会が動きはじめたこと、変わりはじめた側面を、就活生側にはしっかりと伝えられるようにPRやメディアプランを組みました。例えば、テレビ番組の内定式特集の様子に取り上げられるようにする、などです。一連の#HairWeGoキャンペーンは、大体どれもYahoo Topに掲載されていますが、この就活キャンペーンも狙い通りトップに掲載されました。

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とても細かく、大変な作業ではありますが、このような統合的なプランニングの積み重ねで、ブランドとしての結果に結びついたのです。

6. SDGsというテーマを企業経営・ブランドマーケティングと接合させるために

【6-1:SDGs時代のブランドに必要なこととは】


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長く書いてきましたが、私が一番強調したい項目にやっとたどり着きました。これだけ複雑化する世界において、これからの時代、SDGs時代にフィットする企業、ブランドとは何でしょうか。この記事の冒頭で述べた通り、私は、きちんと企業やブランドのパーパスがあり、それに基づきビジネスとソーシャルグッドを両立できることだと考えています。

また、理想としては、force for good, force for growth(ソーシャルグッドの力となり、その結果ビジネスグロースの力にもなる)という格言がありますが、goodがまず先に来て、その結果growthに繋がるべきなのです。そうでないと、嘘くさく表面的に見えてしまうからです。

この2つを両立させるための具体的なアドバイスを記します。

1. 考えているSGDs活動とブランドエクイティが一致していること(ブランドと全然関係のないSDGsトピックを選んでも仕方がない)

2. 言うだけではなく、きちんとブランドが行動を起こしていること(単純に広告でメッセージを打つ、はファーストステップです。139社の協賛企業を集めて自由な就活での髪型を訴える、生まれつき茶色の地毛の学生の黒染め強要を廃止する、などパンテーンの#HairWeGoが行ってきたように、実際にブランドが行動を起こしているとより消費者から信頼されます)

3. ブランド・アンビションを設定する(ブランドが抱く長期的な大志のことです。具体的に何年までに何を達成するということを明確化することです。一発のキャンペーンやプログラムだけではダメで、パンテーンが行ってきたように継続的に行っていくことが大切です)

4. ブランドの持つチャレンジとそれに紐づくビジネスドライバーが、SGDs活動と結びついている(例えば、パンテーンでのケースで見たように、情緒的側面が弱まっていたブランドエクイティを回復することで、ブランドの次回購買意向を上げる)

5. 包括的に SDGsにチャレンジする: まだ全てをできているブランドはなかなかないですが、下記の要素で包括的にチャレンジできるとインパクトがより強まります
 - ブランドの見解(パンテーンで見てきたような、ブランドが社会に対して見解を持ちアクションを起こす)
 - パッケージ(リサイクル可能なパッケージなど)
 - 商品(SDGs自体を意識した商品作り)
 - サプライチェーン(カーボンフットプリントを減らすなど)

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【6-2:SDGs時代のブランド・ビルダーに求められることとは】

意図的に、ブランド・ビルダーという言葉を随所で使ってきました。私のSNSのプロフィールでもブランド・ビルダーと書いています。

ブランド・ビルダーとは、文字通り、ブランドを築くことができる人、です。令和に、そして、SDGs時代に活躍できるブランド・ビルダーになるためには、私は、2つの側面が重要と考えています。今までのまとめの意味も込めて見ていきましょう。

私は、マーケターはブランドのアーティストと同じと考えています。私の愛読書の一つである久石譲さんの『感動を作れますか』という大好きな本があります。SDGs時代のマーケターは、消費者、社会、ブランドの接点の中で最適解を見つけ出し、株主にコミットしているTSRをしっかり達成しつつも、いかに消費者に感動をつくることができるか。この両立こそが、ブランド・ビルダー、マーケターとしての最高の喜びだと思っています。

私自身、パンテーンの一連の#HairWeGoキャンペーンを通じて、日本だけではなく世界中のメディアにその成果を取り上げていただき、何より、消費者の方々から「感動した」「よく言ってくれたパンテーン」など信じられないくらい多くのポジティブなリアクションを直接垣間見ることができて、その瞬間ほど幸せなことはありませんでした。社会責任を果たすブランドを作り、消費者に愛され、結果としてビジネスも伸ばす。こんな素敵な仕事は滅多にありません。

もう一つの側面は、ブランド・アントレプレナーたれ、ということです。WHERE/HOWの部分で述べましたが、多様化するデジタルやメディアを理解し、うまく使いこなし、多くの関係者の中心に立ちリードしながら、プッシュ・プルの複数のコンテンツを作りうまくオーケストレーションする。特にデジタルマーケティングは日進月歩の世界ですから、誰も正解がわからないこともあります。その中で、いかにスモールスケールでテストをして素早く学んでいくか。まさにアントレプレナーのマインドセットが必要とされるのです。

また、この記事で述べてきたようなビジネスを伸ばすための戦略的な意図が明確ではないブリーフを代理店にして、あとは丸投げ、なんてことは決してしてはダメです。ブランドの当事者が自らきちんと手を汚して、ガッツリとプロセスに入り一緒にウンウン考え、全体をきちんとオーケストレーションして初めて素晴らしいプランが生まれるのです。

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7. 私自身の今後について

パンテーンの#HairWeGoキャンペーンが世の中で大きく話題になってから、各方面からどうやってああいうキャンペーンをやるの?と多く問い合わせを頂きました。今回の記事で強調したかったのは、ああいう世の中で話題になるキャンペーンをやればビジネスが成功するわけではない、ということです。包括的にビジネスを見渡し、本当のブランドの機会はどこにあるのかを見極め、そこを重点的に取り組みつつも、TSRの各ドライバーを伸ばすために、あらゆる策をめぐらすことがビジネスを伸ばす秘訣です。この記事では#HairWeGoを中心に取り上げていますが、ここに書いていないことで地道にビジネスを伸ばすために行った施策もたくさんあります。

私は、13年間に渡り、日本・世界各国で、違うビジネスモデルの複数の市場カテゴリーを担当してきて、多くの成功と失敗を経験してきました。それらを踏まえ、私がビジネス、マーケティングに取り組む際のアタマの中にあるものを、言語化し構造化してみました。本当はもっと細かく色々な考え方もあるのですが、そうしてしまうと何冊も本が書けてしまうので、これくらいに留めておきます。とりあえず全体像を俯瞰するには十分な内容だったかと思います。この考え方が、全ての業種の方にとって使えるものかどうかはわかりませんが、少しでも参考になれば幸いです。

私は、きちんとパーパスがあり社会的役割を果たせるブランドづくりにとても興味があります。独立をしたこれから、そういうブランド群とそれにまつわるエコシステムを色々な方とゼロから共創したいと思っています。共感される方がいましたら、ぜひご連絡ください。

また、経営・ブランド戦略に困っている方がいたらぜひお話をお聞かせください。P&Gを去ってから色々と各方面から相談のお話をいただきますが、異業種の方とディスカッションすることは大変刺激的でお勉強になるので、いつでもウェルカムです。こちらは、OKURA BOOTCAMPというちょっとふざけた?名前の個人事務所のようなものを設立しており、その会社で顧問やアドバイザー、社外取締役など対応させて頂いております。(ちなみに、社名由来は、私が筋トレ好きなことと、ブートキャンプのように短期間で一緒に成長し結果を出すことにコミットするから、です)ただし、こちらは本業にはしないため相当数を絞らせて頂いておりますので、ご了承ください。

最後に、私は、特にミレニアル世代を中心としたブランド・ビルダー、マーケターのコミュニティ創造もしたいと思っています。私もミレニアル世代の現在36歳ですが、日本の若手ブランド・ビルダー、マーケターの底上げをすることで、より社会的意義のあるブランドが世の中に多く生み出されると思うからです。それと、単純に若手や後輩を育成することが大好きだからです!それこそ、P&G時代は、OKURA BOOTCAMPという独自トレーニングを定期的にチームの若手に行っていました(これが社名のもう一つの由来です!)し、ブランドマネージャー時代にはアジア太平洋Hair Care全体の中でコーチ・オブ・ザ・イヤーを受賞したこともあります。特にまだ具体的な構想は決まっていませんが、何か興味ある若手の方はご連絡ください!

連絡先はこちら
メールアドレス:info@okurabootcamp.com
Twitter: 
https://twitter.com/brand_builder01 

ありがとうございました!

追記:
かなり分量が長くなり、幾つものフレームワークを駆使しているので、最後に、今日話したフレームワークが全て有機的につながっている一枚絵をお土産に載せておきます。おそらく、ここまで包括的かつ有機的に経営、マーケティング、SDGsをつなぎ合わせた理論は日本でも世界でもほとんどないと思います。

大倉式モデル

※こちらのスライドはかなり細かいので拡大表示を推奨しております。

参考文献:

読書は趣味なので、文字通り何百冊という本を読んできましたが、その中で、本記事の参照にもなっている、私がお勧めしたい「21世紀に勝てるブランドビルダー・マーケターになるための本10選」を載せておきます。一応、本記事の内容に照らし、ビジネス戦略からマーケティングという流れで皆さんが順に読んでいくと良いのでは、という意図で紹介していきます。

1.勝つために戦う戦略:
P&G全社の業績を回復させた伝説の元CEOの著書。本記事では、あまり「ビジネス戦略」については言及しませんでしたが、そもそもマーケティング以前にビジネス戦略がありその中でのマーケティングであるべきなので、全経営者・マーケターにお勧めしたい。本記事で言うと、CORE + MORE戦略の部分は割とこの内容に近しいところから来ています。

2. ブランディングの科学:
賛否両論ある本ではありますが、ブランドビジネスを伸ばす一定の型を理解するのには非常に有用。ちなみに、森岡さんの確率思考の戦略論も、かなりこの本に影響を受けていると思われます。

3. マーケティング4.0:
コトラー先生の著書。21世紀を生きるマーケター、ブランドビルダー、経営者にとっても必読書だと思います。本記事でも紹介した5Aもこちらに詳しくあります。WHY/WHO/WHAT/WHERE/HOWの全体を俯瞰して理解するのに良い内容。言わずもがな、コトラー先生の過去のマーケティング1.0-3.0シリーズも、マーケティングの時代の変化と共に起こっている変遷を理解するのに必読です。

4. 本当のブランド理念について語ろう(WHY/WHAT):
P&Gグローバルの伝説的元CMOの著書。ブランドパーパスについて20年くらい前から唱えているパイオニアです。

5. ジョブ理論 (WHO):
かの有名なイノベーションのジレンマのクリステンセンの著書。こちらも必読書。本記事で書いたJTBDのお話です。ただし、こちらは理論を理解しても実践に移すには相当の鍛錬が必要なのですが。

6. ブランディング22の法則 (WHAT):
マーケティングの世界的権威、アルライズの著書。ブランディングの法則を包括的に述べている。この著書の中ではそういう表現にはなっていませんが、本記事で紹介したプッシュ・プルの考え方も実はこの中に何回か言及されている。アルライズの本は他にもたくさんあり、時間をかけて全て読まれることをお勧めします。損はしないと思います。特に、こちらの本は、経営者の方にもお勧めです。CEO vs. CMOというある意味永遠のテーマについて、どのようにCEOがCMOと対峙すれば良いかのヒントになるはずです。

7. 足立さん関連の本 (HOW):
本記事の推薦も頂いている足立さんの著書。足立さんのマーケティング手法は、P&Gっぽくないなぁという点ですごいなぁといつも見させて頂いています。本記事でも書いた「トーカビリティ」に関して足立さんのプランは日本では最高のお手本の一つだと思います。その他の著書もぜひ読まれることをお勧めします。

8. 明日のコミュニケーション(WHERE/HOW):
さとなおさんの本。まだ当時若手ペーペーだった頃に読んで、随分P&Gの考え方とは違うなぁと興味深く思っていました。今思うと、本記事で僕が書いた21世紀のマーケティングフレームワークと近しい部分もあるなぁと勝手に思っています。さとなおさんも色々と著書があるので、ぜひ読んでみてください。

9. データ・ドリブンマーケティング(HOW):
この本は、かなり内容が重く高度です。私が、P&G時代、自分が関わっているビジネスのメディア領域におけるDXを推進するときに参考にしました。データ戦略は、HOWの部分だけで語ると枝葉の議論にしかならず本質的ではなくなるので、ビジネス戦略の段階から議論しなければならないですが、そうなると相当難儀な話になるので、とりあえずHOWの部分での参考に読んでみるといいかもしれません。

10. 感動をつくれますか?:
本記事でも紹介した、かの久石譲さんの本。ブランドビルダーとアーティストの類似点についてハッとさせられます。そして、元々超左脳で、「アイデアって何ですか?」とチンプンカンプンだった僕が、「誰でも練習すれば良いアーティスト・クリエイターになれる」と気づかせてくれた本です。結果、一応、カンヌ広告賞はじめ世界中のブランド・広告賞を獲得できるくらいまでにはなれました。




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