青山和菓子巡り (中)
帰宅してすぐお湯を沸かして、Yさんを巻き込みティータイム。いざ実食!
の前に、ひとり撮影大会。まずは御開帳。
包装紙やロゴシールも、どこか民芸調でかわいい。
まずは紅谷の箱から。左:きんとん346円、右上:草餅324円、右下:ねりきり346円。 もう一箱は写真撮り忘れ。
続けてヒガシヤのお包み。グラシン紙の包みをそっと開く。
左:薯蕷饅頭(さらに包まれている)270円、中:黄身時雨324円、右:豆大福270円。
まずはきんとんから。
極細目の漉し器で漉されたきんとんのお味は、それはもう筆舌に尽くしがたい。あえて例えるなら、口の中で儚く消える新雪のよう。食べてる間中、「これはすごい」しか言えなかった。心から感動した。この食べものを知らないまま死んでしまわなくて良かった。これで300円ちょいなんて安いものだ。
続いてはヒガシヤの豆大福。
豆が大きく見えるくらいの小ぶりサイズ。
かぶりつくと、その小さな見た目に反して物凄い餅感に、程よいアクセントの塩気。甘さ控えめなあんこの炊き方も申し分なく、豆も異物感なく一体感がある。あんこは餅の引き立て役になっている。お餅そのままの美味しさを味わうための豆大福だ。
お次はまた紅谷に戻り、椿餅。356円。ヒガシヤの小ぶりな品と一緒に並べると、紅谷のお品はすごく大ぶりに見えてくる。
が!きんとんに引き続き、椿餅もまた想像を超えてきた。卵白入りの羽二重餅がプルプルしてる。餅の艶が伝わるだろうか、餅の周りにコーティングされている透明な膜は寒天らしい。中はこしあんでシルクのような舌触り。寒天、羽二重餅、あんこのなめらかな三重奏がたまらない。
実は私、この椿の葉で挟まれた形の「椿餅」を食べたのはこれが初めて。地元で同じ名前の餅菓子を食べたことがあるのだけれど、それはまるでういろうみたいなものでまったく違う和菓子だった。
それはそれでとても好きだったのだけれど、お惣菜用のプラスチックパックに詰めて売られているような超ローカル菓子で、友だちの家などで振舞ってもらったものだったようなおぼろげな記憶だけで、大人になってもう一度食べたいと思っても、見つけられなくなっていた。
今でもあれが食べられるのか、また今度調べてみたいと思う。
そしてお次は紅谷の草餅。
椿餅とはうって変わって随分ねっとりした食感に、穏やかな甘さの粒あんと、若々しい蓬の香り。原材料表示を見ると、砂糖、小豆、上新粉、よもぎ の4つのみ。本当に必要なものだけで作られた昔ながらの味わいに、幼少の頃実家近くに自生していた蓬を摘んで、母と作った草餅を思い出す。実家は今も同じ場所にあるけれど、今ではあんなことはもうできない、昭和の時代のよい思い出だ。
さてここで和菓子祭りは一旦休憩として、少し胃を休めてからYさんと近所のお気に入りの焼き鳥屋へ。Yさんが珍しく酒が飲みたいという。
予約なく飛び入りで行くと、運良くカウンターのふた席だけ空いていた。私たちで満席。
Yさんは基本ビール、私はソフトドリンクにしようか迷ったけれど、あの有名な獺祭(だっさい)が、〆張鶴とグラス一杯同じお値段だったのでこれを機に試してみることに。
キンキンに冷えたお洒落なシャンパングラスで供された獺祭は確かにキレのあるすっきりとした味わいでとても美味しかった。ちびちびとやりながら食べる。
わさびささみ串と、串なす。ささみはサッパリ、なすはジューシー。これでもかと和菓子が収まったお腹に今度はしょっぱいターン。
この店はややお高めではあるものの、何を頼んでも絶対はずれない。お通しからちゃんと美味しいし店の雰囲気も清潔感がありながら活気があっていつまでも居たくなる。手羽先の骨に残る塩気を惜しむようにしゃぶる。
大満足で店を後にして帰宅した後、お茶をまた淹れ直して食後のデザート。
先ほどまで紅谷の攻勢が続いたこともあり、今度はヒガシヤのターン。私にとっての人生初の黄身時雨。
この黄身時雨が今回ヒガシヤで買ったお品の中で個人的断トツNo.1。某猛禽類的老舗和菓子店を凌駕するのでは、と思わせるほどの。卵の味がこんなにも雅やかで上品になるものなのか。アンビリーバボ!!
小ぶりな割にお値段は張るけれども、まったく異論なし。人気があるのも頷ける。参りました。
たとえば、高級チョコって一粒が小さくてもものすごいお値段だったりして、だけどお値段なりの感動があるかというと、ある一定の閾値を越えるとそんなに違いがわからないところがあったりするけれど、これはむしろもっと高くてもいいんじゃないですか?たった300円ちょいでいいんですか?と思うくらいに美味しかった。
和菓子の場合特に上菓子は季節(二十四節気)にちなんでどんどん変わっていくし、お店の方からも毎月品揃えが変わりますからまたお越しくださいと仰っていただいた。毎月なんて無理…でもまだ他に知らないすごい和菓子があるのかと思うと気になっちゃう…魅惑の葛藤。
黄身時雨の衝撃の余韻の中、続いては紅谷の桜餅。324円。道明寺桜餅も扱いはあるものの、売り切れだったため、こちらを実食。
関東風のこのタイプはやはり桜の風味とともに味わうこしあんが主体ということになる。
私にとって今春初の桜餅。桜の葉と皮生地の淡い桜色が目に美しい。このまま飾っておきたいなあ。皮生地は小麦粉と白玉粉。…うん。これだけ立て続けにあんこ攻めの状態なのに、大ぶりなこの桜餅もあっさり完食。塩気は出過ぎず、抑えたこし餡の甘みと桜の香りと風味がぴったり調和していて心が和む。春が来るなあ。
この桜餅も美味しかったけれど、道明寺タイプ派の私としては、やはり道明寺桜餅を一度食べてみたいな。紅谷の道明寺桜餅だったらきっとすごいに違いない、と否応なしに想像がふくらんでいく。
さて青山名作和菓子も残り僅か。思いのほか桜餅が大きさの割にあっさりいけたので、和菓子屋の本領たるねりきりへ。
菓銘は聞きそびれてしまったのだけれど、紅谷のご主人いわく、雪の中から顔を出す春の新芽を表現した意匠とのこと。まんまるのあんの白い肌。はー、美しい。
中にはこし餡…影になっててよくわからないな。この時はもう酔っ払ってしまって撮影も雑になってしまった。茶巾でしぼったこの形状って何でこんなに綺麗なんだろう。つるんとした表面もまたいいのだけれど、このてっぺんに続く稜線というか、ねりきりのマットな質感のひだの景色がほんとに好き。画になる。
貧しいボキャブラリーで繰り返すしかないのだけれど紅谷の上菓子はほんとうに絶品。これで400円でお釣りが来るなんて…。食べる芸術。今日まで生きててほんとに良かった。
これで紅谷の菓子は完食。ご馳走さまでした!
そして、本日のラストにはヒガシヤのやぶれ饅頭。まずは饅頭の包みをご開帳。左:やぶれ饅頭250円、右:黒糖饅頭250円。
かわいいおまんじゅう。気取らないこの様相がいい。
敷紙のついた写真の角度の方が美人さんだけれど、肩ひじ張らないぼてっと感もご愛嬌。まるで雪解けの山道みたい。
最後の最後ながら、やっぱり美味しい!小さいので、名残り惜しむように少しずつ食べ進める。いつまでも味わっていたい。
この粒あんのツヤが伝わるだろうか。生地と餡との配分も申し分なし。こういう駄菓子に近いざっかけない和菓子で食べると、小豆の味がきちんと立っていて美味しいのがよく解るし、安物の吹雪饅頭(出身地新潟では土地柄なのか吹雪饅頭と呼ぶ)だと生地の水分なんて抜けているのが当たり前みたいに記憶されているけど、生地がしっとりふっくらしていて素材と製法の良さがとてもはっきりと解る。
ほんとうはヒガシヤの黒糖まんじゅうと薯蕷饅頭が残っているのだけど、おまんじゅうなら温め直して食べることもできるので、明日に持ち越し。
この日はものすごいエンゲル係数になってしまったけれど、とても充実した思い出に残る一日になった。
感動の嵐。