景気指標に過剰反応しすぎ?(2024.8.5~2024.8.9)
【主なコメンテーター】
(月)楽天証券経済研究所:田中さん、JPモルガン・チェース銀行:棚瀬さん
(火)(オリンピック中継でお休み)
(水)野村総研:木内さん、シティグループ証券:高島さん
(木)マーケットリスクアドバイザリー:新村さん、岡三証券:松本さん
(金)みずほ銀行:唐鎌さん、インベストラスト:福永さん
【おおまかな雰囲気】
(月)前週のNY市場、日経平均ともに大きく下げる展開。アメリカの7月非農業部門雇用者数が市場予想(17.5万人)を大きく下回り11.4万人となったこと、失業率も4.3%とおよそ3年ぶりの高い水準となったことで労働市場の弱さが意識され米10年債に買いが集中し金利は3.796%となった。アメリカの金利低下は円高要因であり、日本株には厳しい状況となる。アメリカの利下げ期待も高まり、FOMC6月時点での年末予想が5.125%であったのに対し、現在の2025年1月のFF金利先物は4%台前半、2026年1月は3%割れまで下げている。
(水)前日のNY市場4日ぶりに反発。高島氏曰く、ここ1週間の相場は日米金利差縮小、アメリカの景気動向、大統領選などの不確実性の高まりを背景としたヘッジファンドのポジション調整が主因と思われる。
(木)前日のNY市場は3指数揃って下落。押し目買いの動きは長続きしなかった。日銀の内田副総裁の追加利上げは慎重に行うとの発言から円キャリー取引解消が一服するとの見通しが広がったが、一転、アメリカ10年債の入札が不調となったことがネガティブサプライズと受け止められ、先行き不透明感から売り優勢の展開となった。
(金)前日のNY市場は3指数揃って反発。最新の新規失業保険申請件数が市場予想を下回ったことから景気後退懸念が行き過ぎとみられ株は全面高の展開となった。「新規失業保険申請件数」は毎週発表される指数であり普段ならばこれほど注目されることはなく、年初からの傾向は右肩上がりであるが市場が悲観にくれていたタイミングでの発表であり、今後しばらくは注目の指数となる。
【解説まとめ】
(月)円安サイクル終局 日本の正念場(田中さんの解説)
田中氏曰く、ここ最近の議論は円安のメリットを軽視しすぎ、という認識。確かに過度な円安はデメリットがあるが、米金利低下による円高局面では円安メリットを否応なく思い知ることになる。現在の企業による価格転嫁、賃上げは輸入インフレなしには起こりえなかったことであり、過度な円安がもたらしたものと言える。円安そのものを否定するのは筋違いである。
金融引締めの終盤では投機資金が相場全体を押し上げる力が弱まり、攻めやすいところに資金が集中する。今回はドル円であった。また、金利差で為替動向が説明できない局面では他の理由(貿易収支、国力)を探しがちだが、では為替動向が逆回転した際は貿易収支や国力はどうなったのか?以前と変わらずであり、やはり相場をとらえたいならば金利をベースにみるのが基本である。
よちよち歩きの経済好循環に入った日本であるが、日本株は米国株とドル円の動向に強く影響を受けるのはここ1週間で実証されている。今後のシナリオとして、アメリカの景気動向を起点とし、①米景気軟着陸→金利やや低下→米株底堅い→円高限定→日本株安控えめとなるか、②米景気悪化→金利低下→米株安→円高→日本株下落 となるかは今後のデータ次第であり、推移を見守りたい。
(水)世界の物価展望と日銀の負の遺産(木内さんの解説)
世界的な物価高騰が各国で問題とされてきたが、今後は鎮静化するとみている。アメリカはインフレ撲滅を念頭に物価上昇率が下降に転じて以降も政策金利を高く維持してきた。また、中国では国内の生産過剰を輸出によって緩和させようとしており、これが「デフレの輸出」として問題視されているが、物価高騰に苦しんでいるさなかで中国から安く輸入できるのは実際は悪いことばかりではない。
世界各国は金融引締めによって物価を安定させようとしてきたが、日本は別の道をたどったことにより市場に大きな歪みを生み、今はその調整段階と思われる。インフレ2%目標に強くこだわる日銀はここ数年の物価高と円安をあえて放置したため、企業や個人の長期期待インフレ率を高止まりさせることとなり、それが物価高騰を長引かせ消費を落ち込ませる要因となった。また、円安をあえて放置する日銀の姿勢そのものも過度な円安を生む要因になったと思われる。
日銀は今後も金融政策正常化に向けて金利を上げていく予定だが、数日前の利上げが金融市場の混乱を招いた面は否めない。次回の利上げは混乱が収まるまではまず無理であろうし、今回の混乱により物価や賃金の見通しに修正を迫られる可能性もあることから難しい運営が続くと思われる。
(木)原油価格低迷も景気底入れで反発へ(新村さんの解説)
原油価格は基本的には需要と供給で決まり、アメリカのISM製造業景況感指数とWTI原油先物(前年比)のグラフはほぼ一致して動いている。中東情勢も懸念されるが現状ではどちらに転ぶかは不透明であり、もしイランに加え中東諸国と欧米各国という対立構造になった場合は原油価格高騰となるがあくまでもシナリオのうちの一つであり、供給制約が起こりうる局面では投機筋が売りづらいため価格は底堅く推移すると思われる。当面はアメリカの景気動向次第であり、FRBが利下げに成功し、年末にかけて景気底入れ、回復軌道に乗るかどうかがポイントである。
(金)円安バブルの正しい理解(唐鎌さんの解説)
2007年、2008年のアメリカ利下げによる円高になぞらえて今回も円高になると思うのは間違いである。2008年当時は日本は貿易黒字大国であり、国内に生産拠点を持ち、輸出の黒字が円安によって実態経済に好循環を及ぼしやすかった。今は第一次所得収支のみ黒字であり貿易収支は赤字である。第一次所得収支の黒字は国外での再投資により国内に資金が還流せず、円買いにつながりにくい。加えて、貿易赤字は外貨建て債権債務の決済により国外に資金が流出、必ず円売りにつながる。FRBが金融緩和に動いたため投機取引では円買いが発生したものの、実需取引では相変わらず円売りとなるため、今回の円高はそれほど継続しないのではないか、と予想する。
【おわりのひとこと】
なにか一つでも悪い発表があると売られ、良いニュースがあると買われ、素人目にも「右往左往」しているという感想。自分で記事を書いていてこんなこと言うのもなんだが、前日の市場がどうこうした、という内容は書いてて意味があるのか?と思ってしまう。
私個人の投資は現金比率を見直しつつ、長期投資を継続するつもり(もっと投信に現金を投入しようとしていたけれど、ほどほどにすることにした)。今後の自分に起こるライフイベントについてももう一度厳しめに見直して再計算するつもり。現金をつぎ込むのはいつでもできるけど、一度つぎ込んだ資金を現金化するのは容易ではないから。