私の城

ボツ投稿より
2023.3
宇和島市 中村健一（49）

社会人一年目を迎え、新生活の準備に追われていた30年前の春。
滋賀県大津市で初めての独り暮らしを始め、慣れないことばかりで不安もあったが住めば都とはこのこと。
六畳一間のアパートは、いつの間にか私のお城となった。
狭くて古いアパートではあったが、その時お部屋を仲介してくれた不動産屋さんのおじいちゃんがとても優しい人だったので、住まいの悩みや街の情報まで何でも気軽に相談させてもらっていた。
そんな神対応をしてくれるおじいちゃんへのお礼はいつも故郷の愛媛みかん。
そんなお城に住みはじめてから７年。
念願だった東京への転勤が決まった私は、お世話になったおじいちゃんへ最後の愛媛みかんと一緒にお城の鍵をお返しした。
やがて私は結婚して月日は流れ、久しぶりに思い出のお城の場所に行ってみた。
でも、私のお城は高層マンションに建て変わっていて、あの不動産屋さんもなくなっていた。
もう一度でいいから、一緒に愛媛みかん食べながら、おじいちゃんとお喋りしたかったな…。
おじいちゃんへ、
あのお城に住めたおかげで、妻と出会うことができて今の幸せな暮らしがあります。
最高のお城をありがとう。

（会社員・新聞配達員）

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