ピカレスク~ケントとフウマ~⑦
【分岐】
「まじ?別行動?」
錆びたバケツに貯まった水で顔をバシャバシャ洗いながら、フウマが言う。
「あぁ、時間帯が重なっちまってな…」
そう言ってケントはドアノブにかけていた上着をとり、軽くほろった。
「ついにオレも、ソロデビューかー!」
「何言ってんだが…」
1人で仕事を任されることに、やっと一人前として見てもらえたと思い、喜ぶフウマをケントはさらっとぶったぎる。
「いや、もっと喜ばせてよ、つか、褒めてくれてもいいんだけど?」
「寧ろ遅いくらいだ」
「えー」
口ではそういったが、実際はフウマを1人にさせることに抵抗を感じてる自分がいた。
あいつの性格からして、1人行動させるとどんな厄介ごとに巻き込まれるかわからないし、
どうしても最悪な結末が頭をよぎる。
ただ、不思議なことにその【最悪な結末】には複数パターンがあり、ランダムで脳裏を這いずり回るのだが、その度妙な既視感を感じ、動機に襲われた。
最中に何度か本人にその姿を見られてしまい、クスリでもやってるのかと変な心配をかけさせたこともあった。
(いくらなんでも過保護すぎたか…?)
一般的な16歳が、親とどういう距離感でコミュニケーションをはかるのか。
親がいない上、法律や秩序、常識がない地域で
外部との接触をほとんど絶たれてるような閉鎖的状況の中にいたケントにとっては判断になる材料が皆無なため、
自身の感覚で判断するしかなかった。
結果、今の今まで1人で街を歩かせることすらさせないくらいの過保護になったわけだ。
(今回に関しては別行動だとしても、フウマ側の仕事は簡単な配達のみだし、届け先も外の世界に在籍してるごく普通の一般人女性らしいしな…依頼人と直接会うこともないのなら、心配するだけ野暮か…?)
真剣な面持ちで壊れた回転チェアに座り、微動だにしないケントをよそに
配達ルートのかかれた紙の回りを歩きながら
紙を見たと思えば天井を見たりを繰り返し、フウマは初1人仕事の情報を真剣に頭に叩き込んでいた。
「…フウマ、時間厳守、深入り禁止、会話も必要最低限にしぼれ…わかったか?」
「おーけー、まかせとけって!んじゃ、いってくる!」
フウマはまるでオモチャ屋さんにでもいく子供のようなテンションで、浮き足立ちながら住処の廃墟をあとにした。
「さて…俺も支度するとするか…」