ピカレスク~ケントとフウマ~①
【出逢い】
今思えば、こんな街で出逢えたことが奇跡だったのだとさえ思う。
ケントはタバコのシケモクに火をつけながら、この場所で唯一綺麗な空を見上げ、数年前の記憶を思い出す。
犯罪が日常的に蔓延ったスラム街、
錆びた臭いとヘドロの臭いが混ざり溜まった汚染された空気。
廃れた路地の至るところに冷たいカラダが転がっている。
そんな中、幼かった俺たちは生きたまま出逢った。
俺の目の前に現れたアイツは明らかにこの街で浮いていた。
俗にいういいとこの坊っちゃんのような風貌で、サラサラな短髪を左右にふりながら辺りをキョロキョロ見回し
息をするのも忘れた顔で落ちてるカラダを避けながらヨタヨタと歩いてくる。
見た感じ、5、6歳…俺より年下か…?
ともかく、アイツは目立って仕方なかった。
1人のほうが生きやすいことは実感しはじめていたはずなのに、アイツと目が合った瞬間、無意識に体が動き、アイツの腕をとると建物の影に身を隠した。
「いたっ…だ、誰?!なにする…」
「少し黙って…動くなよ」
俺は、そう囁くが早いかコイツの上着を一気に脱がせた。
「わっ…!?なに…やめてよ!」
「騒ぐな…!死にたくなかったら大人しくしてろ」
その言葉を聞いて怖くなったのか、ガタガタ震えながらも大人しくなった。
手際よく服を脱がせ、自分の羽織っていた薄汚れたジャケットとその辺に転がってるコドモから剥ぎ取ったすすけたジーンズを履かせた。
「わっ…汚っ…!」
「我慢しろ。あの格好のままでいたら、お前は売人の標的だ」
「ばい…にん?」
「お前みたいな何も知らないガキをさらって売りさばくやつのことだよ」
「?!ガキにガキって言われたくないやい!それに、なにも知らなくなんかないし!」
似たような歳の相手にガキ呼ばわりされたとこが頭にきたのか、さっきまで潤んだ目で震えていた様子は瞬時に消え、眉をつり上げ全身で怒りだす。
「ごめん、悪かった、例え話ってやつだ…」
俺はそういって、コイツの頭にポンと手をおいた。
「俺はケント…お前は?」
「ぼ、僕は…フウマ…」
コイツはうつ向きながらふてくされたような声で小さく名乗った。
「フウマか…この際ついでだ、一緒についてきな、ここでの生き方を教えてやる」
これが、当時9歳の俺と、6歳のフウマの出逢いだった。