「あした死ぬ幸福の王子」
死の恐怖を和らげる手段のひとつは、哲学を学ぶ事だと以前から漠然と思っていました。
20世紀最大の哲学者に学ぶ「限りある時間の使い方」という帯のコピーとタイトルから、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」のオマージュではないかと思い購入しました。
丁度1年前の健康診断で、胃がんが発見され、どうすれば死を受け入れられるようになるか、色々と考えた時期がありました。以前愛読していた池田晶子氏の著作の中で、自身の哲学的意思により「死に対する恐怖は無い」ときっぱり言い切っていたことが妙に記憶に残っており、長らく読んでいなかった著作集を数冊読み込みました。理屈っぽい自分には、ある種の精神的な癒しにはなりました。手術後、初期がんと判明し、再発率の確率などを担当医から説明を受け、差し迫った死の恐怖からは、とりあえず解放されましたが、「それでも、いつかは死ぬんだ」という今までにない心境になっていきました。
そんなことも、この本を手に取った理由のひとつかもしれません。
ハイデガー哲学の「死の先駆的覚悟」(死を自覚したときに、はじめて人間は本来の人生を生きることができる)に焦点をあて、私たちに「人生をどう生きるべきか?」を問いかけます。
傍若無人であった王子が余命宣告を受け、自暴自棄になっていたところに老人と出会う。
老人はハイデガー哲学をベースに死に直面した王子との対話で
・人間とは何か
・多くの人間が「非本来的」に生きている
・「他者の視線」で人生を決めていないか?
・今この瞬間も「死」を覚悟して生きよ
・「良心」がなければ、死と向き合えない
・「死の恐怖」とどう向き合えばいいか?
を説いていき、物語は進んでいきます。
かけがえのない存在の認識、対峙するさまざまな出来事や抑えきれない感情を通じて、ハイデガー哲学のエッセンスを学べるとともに、限りある時間をどう過ごすべきか、どう生きるべきかを考えるヒントで本書は溢れています。
最終章は、やはりオスカー・ワイルドの「幸福の王子」へのオマージュでした。この構成によって、ハイデガー哲学入門という要素だけでなく、物語としての完成度の高さを感じ、心地よい感動を覚えます。