自分の記念日
2023年5月18日を忘れない。
自分の子どもと、そして子どもだった自分と向き合って和解できた日。
自分が産んだ娘が自我を持ち始めて、物言わぬ赤ちゃんの頃からどう接していいかは分からなかったけど、それとはまた違う葛藤が沢山あった。
最近の悩みは、娘が癇癪を起こすこと。キレるみたいな。怒って泣き叫ぶ。止まらない。止められない。
それも私にだけ。夫にはしない。
そして子ども同士みたいな喧嘩をしてしまう。
私が彼女の地雷を踏むこともよくあるし、そうでない理不尽な時もある。
明らかに生理的に機嫌が悪いというわけではない時もある。
問題は、そうなった彼女を私がどうにも出来なくて、困惑、焦り、イライラ、絶望、でどうしようもなくなること。
大概は私が爆発して大声を出したり、最悪の想像をしたり、嫌な声掛けをしたりして、でも彼女は絶対に折れず、結局二人とも疲弊して、パワー切れでなんとか終わる。モヤモヤしたまま。
5月18日もそんな日だった。
仕事終わりの夜、用事があったので娘もそこに付いててきてくれる予定だった。
夫か私のどちらに付いていくか、彼女自身が選んだ結果だった。
でもその前に晩御飯を食べている時、私が自分用に買ったと思って食べてた物を、かなり終盤になってから彼女が「私のをママが食べてる!食べないで!なんで食べるの!」と突然怒り出した。
どうやら彼女が自分用に買ったと思っていたらしく、そういえばそんな行き違いの起こりそうな場面があったような気もするが、よく思い出せない。
そんな経緯は彼女にとってはどうでもよくて、「ママがわるい!いま買ってきて」と、自分用にもう一度買ってこいと泣き叫ぶ。
買いに行く暇も体力も無かったけど、仕方がないので「じゃあ行くわ」と言うと、「私は一人でお留守番できない!行かないで!」と怒る。
「じゃあここに居るね」と言うと、また怒る。
「今すぐここに買ってきて!!」
そうこうしてる間に用事の時間が迫り、私もイライラしてきた。
「ママについて来てくれるって約束したよね?」と言っても仕方の無い台詞。
もう間に合わない、というところで私の頭の中でブチっと音がして、「帰ろう」と大きな低い声を出した。
「あなたが約束を破った。ママは怒ってる」。
言ってもどうしようもないことで彼女を責めた。
彼女も負けてはおらず、「ママがわるい!私が王様だからママが全部言うことを聞け!」と泣いている。
彼女の言葉としての言い分は、「さっきの晩御飯をいますぐ買いに行け。でもずっと自分のそばにいろ」とのこと。
「ママ魔法使えないし、そんなの出来ないよ。」と冷静に返してみるも、「私が王様なの!どっちもして!早くして!ママがわるい!」と繰り返し。
しまいには私を手で叩いてきた。
「叩いたらママ痛いよ。叩かないで。」「いや!私がたたきたいの!たたく!」
そんなやりとりを繰り返して、途中で疲れたか多少バツが悪くなったのか、彼女が話を突然変えてきたりして、とりあえず帰路に着いた。
よく分からないけどなんとか落ち着いたな、と自転車の後ろに娘を乗せて漕ぎ出したけど、途中で足が進まなくなった。
イライラして、悲しくて、なんとも言えない気持ちになって、自転車を止めて荷台の娘に向き合った。
「あなたが王様やりたいならそれでもいいよ。
でも叩いたり、怒ったりする怖い王様なら、もうママはつらいから、あなたと一緒に暮らせない。
こわい王様してママと一緒にいるのやめるか、こわい王様するのやめてママと一緒にいるか、どっちか選んでほしい。」
このままだとエスカレートする。そしていつか私がこの子に手を上げたら、耐えられない。
離婚か別居か、夫に任せて一人で離れて生きていこうかと本当に心の底まで考えた。
娘は泣いて、
「いやだ。こわい王様する。ママと一緒にいる。」
「ごめんね。ママも一緒にいたいよ。でもあなたがこわい王様だったら、かなしくて一緒にいられないんだよ。叩かれたら痛いんだよ。怒られたらこわいんだよ。ほんとはママも一緒にいたいんだよ。でもどっちかしか出来ないんだよ。」
二人で泣いていた。
しばらくそんな時間が過ぎて、ついに娘が言った。
「叩くのやめる。こわい王様しない。」
そのとき感じたのは、
"この子が私の言うことに従ってくれて良かった"
ではなくて、
"この子に話を聞いてもらえて良かった"
だった。
『私がちゃんと意見を伝えられたこと。
この子がちゃんと意見を受け止めてくれたこと。
そういう安心感が、そういえば今まで無かったんだ。
私とこの子とで始まったことじゃない。
私と私の母親と、からだ。』
と気がついた。
ずっと、自分の子どもに「言うことを聞かせよう」「言うことに従ってほしい」と無意識に思ってた。
それはたぶん、自分が母親からされてきたことだった。
でも私と夫の子どもとして生まれてきてくれたこの子は、私よりもずっと気丈で賢くて、支配する・される関係には絶対に陥らなかった。
だから私は行き場が無くなって、かと言って理想の優しい親子関係も築けなくて、モヤモヤしてたんだ。
その後から彼女は、私のすることや言うことに理不尽に怒らずに、こちらの話を素直に聞き入れてくれることが殆どになった。
変わったのは彼女じゃなく、私の方だった。
彼女のやることや言うことに、イライラしなくなった。
"私の言いたいことは言う。でもその上で、彼女の言い分も聞く。それで彼女が決めたことなら、口出ししない。"
自然とそうなっていて、今までは私の言うことに彼女が従わないことにイライラしてばっかりだったのに、聞かへんのかーい!と笑えるようになった。
そうすると不思議と、娘の癇癪やそれに伴う私との喧嘩も生まれなくなったのだ。
娘のことも怖くなくなった。引いては他の人のことも怖がらなくなるかもしれないとさえ思っている。
これがいつまで続くのか、分からない。
けど確実に壁を変えた感覚がある。
間違えたらまたここに戻ってくればいいと分かった。
娘がまだ私を見放さないうちに、求めてくれているうちに、私が変われて良かった。
私が自分の母親のせいにして逃げずに(逃げてた期間も大事な経験だったけど)、自分のこととして向き合えて良かった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?