詩を書いてきてよかった。
ぼくも人生でいろんなことがあったけど、それはむろん、ぼくだけのことではない、だれでもいろんなことがあって、その中で歯を食いしばって生きている。
つまり、沢山の人間がこれまでこの世に生まれてきて、その人生を生きて、死んでいったんだけど、一人一人に、実にたくさんの出来事や悩みや喜びがあったんだなって、あらためてつくづく思う。
出版された本は国会図書館に集められてゆくけど、生きた人の思いは、どこにも貯蔵されることなく、消えてゆく。
どんな人の人生も、ここにあったことさえ忘れ去られてゆく。
それで、しつこいようだけど、生きているといろんなことがあるけど、その、人生のさまざまに揺れている大波のむこうに、
その揺れを感じつつも、
その揺れと、
揺られている自分を、意識するように、
遠くに垣間見られる灯りのようなものとして、
詩がぽつんとあった
そんな気がする。
詩がなければ、ただ揺れているばかりだった。ぼくの人生ってそうだった。
詩を書いていても、思うような詩はできないけれども、それでも書いている時は嫌なことを忘れられる。少しでもよいものを書こうと思える。書いているあいだは、自分を好きになれる。自分に夢中になれる。
だから詩は、生きる支え、というほどにはならなくても、遠くに見つめていられる灯として、さらに、遠くから自分を見つめてくれているものとして、いつもあった。
詩を書いてきてよかった、と思う。