膝小僧お仕置きストという謎の人に救われた話
今日(昨日)の地上波に出ていたらしいので記念に、あとどこかで記録に残しておきたいので書きます。
彼氏ともなんとも言えなかった過去最愛の彼との関係が、生における最大の不可抗力で解消されてからどれだけの時間が経ったかはもうわからない。最悪の最低値を更新し続ける日々の中で確かに2024年2月22日、池袋で救いを得た。
その数日前のサンシャイン60通り。小柄で口達者な可愛い顔の芸人さんに声をかけられて、劇場ともライブハウスともつかないその場所を知ったのはプレスクールからの帰り道だった。その日は土曜日だったと思う。学校で配布された荷物を抱えていた私は一度誘いを断ったのだが、引き下がられてしまい、後日改めて可愛い顔の彼が出ている日に伺わせてもらうことにした。そして木曜日。その日も正しく気が狂っていたのだろう。早く死にたかった。しかし、1日3回公演がある内の2回目(1回目には起きられず間に合わなかった)で私は後にも先にもこれっきりだろうという出会いを果たす。
その場所で催されている昼寄席というものに行くのが初めてだった私は、どうしたらいいかもわからず暫くぼんやりと舞台を眺めていたが、そのうちに舞台端に立っていた出演者一覧の看板が目に入った。今ではお馴染みになった知らない名前、知らないコンビ名。その中で最も目を引いたのが"膝小僧お仕置きストしんぺー"だった。なんとも長い。この時点で期待はしていなかったがなんとなく気になっていたんだと思う。
そして公演が始まった。一組、二組、出番が終わっていく。なんか、楽しい。ひさしぶりに楽しい。鬱のせいですっかり機能の低下した脳の中でセロトニンだかドーパミンだかはわからないが、何か分泌されているのだろう。もう何度目かわからない出囃子を聞く。膝小僧お仕置きストしんぺーの名前が呼ばれた。少し期待していた。
出てきたのは、赤い野球帽を前後反対に被って蛍光イエローの地に赤字で「おしおき」と印刷されたTシャツと、紺の半ズボンを着用しているやや細身の男。期待値爆上がり。しかし、ほとんど三原色のその人の顔を見た瞬間、「この人も苦しんでるな」と何故か思った。ネタについて言及するのは控えたい。もう憶えてないから。ただ、観た後に、何年振りだろうか、「ああ、生きててよかった」と思ったことは本人には秘密にしておいて欲しい。この生きててよかったという気持ちは、彼のネタを、今のところ何回観ても色褪せることはなく私の中に鎮座している。
エンディング。ちょっとだけ顔の怖いオーナーさんによると好きな芸人さんとのチェキが撮れるそうだ。チェキの受付が始まり、そこで何をしたのかはわからないが、見るとチェキ券が手元にあった。これはチャンスなのでは?あの人のことをもっと知りたい。底抜けに明るい芸と滲む影が目蓋の裏にこびりついて離れない。強い光の前では影が濃くなるように当たり前に。太陽における黒点のように暗いけれどもある種の熱さを以て、私はこの欲と好奇心に屈服せざるを得なかった。結果、何を話したかは憶えていないが、あの人の善性というか素直さというか、優しさというか、そういうものは見えた。それで私を殺すには十分すぎるほどだった。話した後、奇妙な満足感があった。救われた。そう思った。そして、過去の私も救われるような気がした。彼にとってはいい迷惑だろうが、そう思ってしまったんだから仕方がないだろう。
膝小僧お仕置きストしんぺーさん。名前を呼んでくれてありがとう。助けてくれてありがとう。畑違いな感謝も謝罪も許してくれてありがとう。お客で居させてくれてありがとう。生きててよかった。幸せになってね。