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猫、その2 ニュース・スタンド看板猫の場合

前回はドラッグストアで働くアントニオを紹介しましたが、New Yorkではまだまだ働く猫さんたちが頑張っていましたので、少しずつ、紹介してゆきたいと思います。

この少し太っちょ気味の猫さんの名前は分かりません。
訊いた事がなかったからです。
ニューススタンドのご主人も余計なことは言わず黙って座っているだけの方でしたし、この猫ちゃんにも話しかけづらい独立したオーラがあったからです。
でも、わたしはこのニュース・スタンドの前を通るたびにこの猫さんの寝姿に足が止まりました。
なぜって、あまりに、自由気ままな感じがしたからです。


看板猫さん、いつもこんな感じ


この猫さんに出会ったのは1988年から1990年くらいのことで、当時ワシントンスクエアに住んでいたので、なんとなく……いいえ、わざわざかもしれません、このスタンドの前を通るようになっていました。
もしかしたら、わたし、この看板猫さんが寡黙なおじさんと今日も一緒に店番しているかどうか、確かめようとしていたのかも、です。
とにかく、毎日のようにお目にかかった看板猫さんなんです。

アントニオの場合と違って、この太っちょ猫さんは好きな雑誌(つまりは売り物)の上に寝そべって、ぐーぐー寝ているか、薄目を開けて時々目の端っこから空など眺めておりました。
この看板猫さんはいつもだらりと横になっていて、キリッと座っている姿を見かけたことがありません。
そのせいか、日本の猫さんに比べてひと回り+ちょっと大きいように思えました。まあ、大体において、New  Yorkで出会った猫さんたちはとても大きく感じられ、この猫さんも、うんわ〜とあくびしてニューっと伸びなどすると、おもちのようにどこまでも伸びそうな大猫でした。

看板猫さんは、大体、毎日、このようなスタイルで寝ていました。
ニュース・スタンドのご主人は60歳くらいの白髪の人の良さそうな寡黙な男性で、きっと、この猫のこと、いっぱーい好きなんだ、と思っていました。

看板猫さんは、売り物の雑誌をベッド代わりに、大変リラックスされているようで、いつも、体をはみ出すようにのびのび眠っておりました。
お客さんたちもいい人たちで、
「ちょっと、これ、欲しいの」
と、言いますが、猫をどかしてまで雑誌を買おうとしませんでした。
なのに、看板猫さんは、売上のことなど気にもせず、泰然と寝そべったまま、薄目を開けて迷惑そうにお客さんをチラ見はするのですが、ニコリともせず、一向に動こうとしません。
ハハ〜ん。
こんな商売の仕方がまかり通るなんて、看板猫さんならではです。

わたしは、
なぜ、猫が好きなのか?ーと問われた時にすぐに答えが出ます。

ー猫は、忖度しない
ー必要のない時は決して媚びたりしない。(もし、なんでもないのに人を気にして、媚びるような猫がいたら、その猫は本当は幸せではないのかもしれません。人間がそうさせているだけでそれは猫の不幸の姿とも思えます)
ー生きることしか考えていない
ー興味のないものに手を出さない
ー自発がなければ動こうとしない
ー無駄な無理難題と戦わない
ー小さな満足をたっぷり味わう知恵がある
それに、
ー柔らかくてくにゃくにゃ

数え上げたらキリがありません。

でも、
この看板猫、とても不思議でした。
見るたびいつも、この格好で寝ています。
ミステリーです。
繋がれず、逃げ出しもせず、
いつ覗いても、こんな格好で堂々と寝ているのです。

すごく健康だったんだろうなぁ〜
皆勤賞ものだもの
たまにはお休みしたい日だってあったろうに、

そうか、
そうなんだ、
嫌なこと考えず、
忖度せず、
無駄な不安に怯えず、
自発で生きている看板猫さんは
とても自由で
好きなおじさんのそばにいて
幸せで
健やかな日々だったのかも、ね〜。


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