「企業買収における行動指針」 ー 買収防衛策を使うための条件は?

前回、行動指針では、買収提案があった時に取締役会は真摯に検討することが求められていることを紹介しましたが、今回はこの続きになります。

取締役会で買収提案について真剣に検討したところ、「買収された方が企業価値が高まるな」と経営陣が気づいたとします、つまり、買収提案が合理性が高いということです。これって結構、多いと思います。けど、経営陣としては、やはり買収は阻止したいところが本音だと思います。

だって、買収された場合、概ね1年以内に対象会社の多くの役員はクビになり、部長クラスも軒並み閑職に追いやられることが非常に多いからです。私が証券会社時代に関わった買収案件でも、買収された企業の社員は出世の道がなくなり、やめていくケースが非常に多かったです。特に、法務・コンプライアンス、経理、総務、人事、IR、広報などの収益を生まない管理部門はリストラの恰好の対象です。買収した後にリストラをしたり、給料を下げないとそもそも買収の効果は出ないので当然と言えば、当然のことですが、買収といった合従連衡は資格等を持たないサラリーマンには大変辛いところです。

ここで対象会社が考えるのが「買収防衛策を導入して、自分たちの身を守るぞ!」ということです。ちなみに、私は証券会社時代には顧客への買収防衛策の導入策の提案をしており、事業会社に転職してからも勤務先での買収防衛策の導入・更新に10年以上関わってきました。

この買収防衛策ですが、これまでは平時導入型の買収防衛策として何ら具体的な買収リスクのない段階で、株主総会の決議で導入する企業が多かったですが、ここ数年で導入企業は激減しています。何故でしょうか?

理由はシンプルで、平時導入型は機関投資家の賛同を得るのが大変難しくなっているからです。つまり、導入・継続更新にあたっては、総会議案として株主総会に上程して過半数の株主の賛同を得る必要がありますが、株主総会で機関投資家の賛同を得るのがかなり難しくなってきました。私も、過去更新の都度、多くの機関投資家と対話をして買収防衛策議案の総会での票読みをしたりしていましたが、この3~4年で機関投資家の見方が一段と厳しくなったと強く感じます。機関投資家に資金の運用を委託しているアセットオーナーが平時導入型の買収防衛策に強く反対しているため、機関投資家もアセットオーナーの意向に従う必要があるからです。

そこで、最近時々見かける、有事導入型の買収防衛策の登場となります。事前に導入するのが駄目なら、「敵対的買収者が出現した段階で導入するぞ!」ということです。有事型というのは、買収リスク(有事)が顕在化した段階で導入するということです。

では、この有事型は簡単に導入できるのでしょうか?少し長くなりましたので、続きは次回、説明をしたいと考えます。