政策保有株式は何故ダメなのか?昔は当たり前だったのに・・
政策保有株式は昔は当たり前でしたが・・
先日の日経新聞の朝刊に「政策保有株 見直し遅れ」というタイトルで記事が掲載されていました。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74602590Q3A920C2DTA000/
今回は個人投資家・個人株主の方向けに政策保有株式が何故問題と言われているのか、過去の経緯を含めて簡単にポイントを説明したいと思います。
政策保有株式とは、いわゆる純投資目的(=株価が上がったら売却して利ざやを得る目的)以外で保有する株式です。有価証券報告書を見ると、「純投資目的以外の投資株式」という記載がありますが、それが政策保有株式と見てよいかと思います。
何故政策保有株式が批判されているのかについて話をする前に、政策保有株式に関する世の中の変化について触れたいと思います。
過去15年~20年前であれば、企業の開示資料である「大株主の状況」(事業報告、有価証券報告書)を見ると、メインバンクや取引先の名前がバンバン並んでいました。私が社会人になった1990年代後半頃、勤務先や他社の開示資料で大株主一覧を見たとき、上位に取引先、メインバンクの名称がずらっと記載されており、それが普通であり、いかに安定株主比率を高めることが大事かと当時は言われていました。
そういう時代が長きに亘り続いていましたが、2015年にコーポレートガバナンス・コードが制定された頃から、「政策保有株式=問題」というレッテルが張られました。そして、2018年のコーポレートガバナンス・コードの第1回目の改訂において、政策保有株式の縮減が原則に盛り込まれ「政策保有株式=悪」という評価にかわり、機関投資家も企業に対して「はやく縮減せい!」「縮減を加速させよ!」と要請する状況になっています。
コーポレートガバナンス・コードが改訂された翌年頃に多くの機関投資家とエンゲージメント(対話)をしたときは、「政策保有株式は、極端に多くないのであれば問題はないですよ」「日本企業の長年の慣行なので縮減せよと言われても企業には酷ですよね」と言ってくれる大手の機関投資家も結構いました。さすが日本の機関投資家は日本の実情を良く理解しているな、と当時は思いました。
けど、時代の変化のスピードは早いです!
ここ数年で機関投資家のスタンスは大きく変わりました。政策保有株式の保有に数年前までは寛容であった大手機関投資家も厳しい対応に変化しました。最終的には政策保有株式はゼロにすべき、どうしても保有する必要があると考える場合、保有によるメリットを明確に開示せよという動きになっています。
政策保有株式=悪という背景は?
そもそも政策保有株式=悪という背景は何でしょうか?大きく2つほどあるかなと考えます。」
背景の1つ目 少数株主の保護です。
「政策保有株式」=「安定株主」=「会社提案の総会議案に必ず賛成」という構図が出来ています。分かりやすくいうと、ある企業の業績が低迷しており、機関投資家が「この社長は無能なので、交代させよう」と考えても、安定株主が社長選任議案に賛成するわけです。
これでは、社長の交代がかないません。このように少数株主がいくら声を大にしても、安定株主が岩盤となり、機関投資家の意見が企業経営に反映されないというのが政策保有株式の課題の1つです。
背景の2つ目 資本の効率性の問題です。
政策保有株式は儲けるために保有しているわけではないので、リターンが極端に小さい場合が多いです。とすると、保有によって資産が大きくなるのに利益に貢献しないとROE向上に寄与しないということになります。
株主は自分に出来ない事業運営を経営陣が行い、がっぽりと金儲けをしてくれると思ったのに、株式投資の素人である一般事業会社が政策保有株式に投資して、結果、たいして金儲けもしてくれないのが不満ということです。株式投資をするのであれば、投資のプロである「自分たち(=機関投資家)で出来るわ!」ということです。
繰り返しになりますが、政策保有株式の縮減に対する資本市場の要請は今後も加速すると思います。また、このような世の中の動きを追い風にアクティビストも縮減に対してより厳しい要求をすることなります。
政策保有株式の解消の動きの中、企業はどうすべきか?
企業の立場からすると、安定株主比率が低下するのは不安かと思います。安定株主をどうするかというテーマで取締役会で議論している会社もあるのではないでしょうか?
前に記事に書きました「企業買収における行動指針」により、今後、買収提案に対して機関投資家は合理的な判断をしますので、自社を確実に支えてくれる安定株主がいないのは、不安この上ないという気持ちかと思います(不安でないという上場企業の経営トップがいたら、それはそれで感覚が鈍いので、経営トップの資質に問題ありかと・・)。けど、世の中が解消の動きにあるのだからどうしようもありませんね。
ではどうすれば良いかというと、安定株主などに頼らず、経営の透明性を高め、普段の機関投資家との関係性を強化することが上場企業に求められることなのだと思います。これにつきます!
アクティビストが出現しても、会社が平時から透明性の高い企業経営を行い、中長期での機関投資家と対話を継続し、機関投資家からの意見を真摯に経営に取り入れていれば、アクティビストが出現してもアクティビストの提案に賛同しない機関投資家も多いと思います。そのためには、機関投資家との関係性を強化しておくことが何より大事です。
個人投資家も企業に政策保有株式の縮減を促しましょう
個人投資家の方も投資先企業の政策保有株式の保有金額を有価証券報告書を見て、それが期末の純資産の10%を超えるような場合には、企業に縮減を強く求めてよいと思います。10%を超えると「政策保有株式が潤沢ですね」というのが機関投資家の考えです。20%を超えると「これは一刻も
早く縮減せよ!」となります。
政策保有株式を売却・現金化し、設備投資・M&A等への使途がないのであれば、売却で得た金を株主還元せよということです。