第一生命によるベネフィット・ワンへのTOB ー 同意なき買収の際に対象会社が検討することは?
第一生命がベネフィツト・ワンに買収提案
新聞報道のとおり第一生命がベネフィット・ワンに1株1800円以上でTOBを実施するようですね。ベネフィット・ワンがプレスリリースを次のとおり公表しています。
https://global-assets.irdirect.jp/pdf/tdnet/batch/140120231207500372.pdf
ベネフィット・ワンには、エムスリーが1株1600円で買い付けるTOBを実施していますが、第一生命によるTOBはベネフィット・ワンの同意を得ていない、いわゆる同意なき買収のようですね。買収のお作法としては、対象会社の取締役会の事前同意を得て行うのが通常ですが、今回はベネフィット・ワンの同意を得ていないということです。
このような買収提案はこれまでは敵対的買収と言われていました。対象会社の取締役会の同意を事前に得て実施する「友好的買収」の反対用語ですね。最近の事例ですと、ニデックによるTAKISAへのTOB、ニトリによる島忠へのTOB、コロワイドによる大戸屋に対するTOBなどがあったかと記憶しています。
同意なき買収の際に対象会社がするべきこと
この同意なき買収で一番重要なことは、買収提案を受けた対象会社は何をすべきかです。昔は特にこうすべきという決まりはなかったのですが、少し前に経済産業省が「企業買収における行動指針」を公表しました。
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003-a.pdf
この行動指針に「企業はこういうことをして下さい」ということが詳しく書かれています。詳細はこの行動指針をお読み頂ければと思いますが、一定程度のボリュームがありますので、私の方でこれが肝であるというポイントを超短く整理します。
まず1つ目は、自社が買収提案を受けた時は、速やかに取締役会に付議又は報告することが求めれています。具体性のある望ましい買収の顕在化の機会を失わせてはならないということです。
これは、思いもよらない買収の提案が執行サイドにあった場合に、執行サイドがそれをうやむやにしてはならないということです。「こういう条件での買収提案がありました」ということを社外取締役のいる取締役会に報告するということです。
2つ目は、取締役会は会社に提案された買収内容の真摯な検討をすること。執行サイドから提案を受けた買収について、取締役会がうやむやにしてはならないということです。ここで、取締役会が検討すべき事項として3つあります。
1. 提示される買収価格等の条件は軽視されてはならない。株価水準より高 い買収価格の場合、十分に検討すること
2. 提示された買収価格・企業価値向上施策と現経営陣の下での企業価値向上施策を定量的観点から十分に比較考量すること
3. 買収提案への諾否の合理性は、説明責任を果たせるようにすべき
この3つの事項がとても大事ですね。これに照らすと、ベネフィット・ワンとしては、第一生命の提示した買収価格を十分に検討して、エムスリーからのTOB価格と比較考量して、いずれの買収提案を受けるかを株主に説明責任を果たす必要があるということになります。
当然ですが、この行動指針は法律ではありませんので、対象会社は絶対にこの指針に従わないと駄目というものではありません。けど、これに従わないで買収に応じた場合には、後日、買収に関連して法的紛争などが生じた場合、大きなリスクが生じると思います。
同意なき買収は今後増えるでしょう
この同意なき買収ですが、今後は間違いなく増えると思います。生保と言えばこれまでは安定株主の代名詞でした。「安定株主」であった生保が同意なき買収をするということは、世の中に与えるインパクトが大きいと思います。生保がこういう大胆な戦略をとるのは、生保幹部の考えの変化とともに、M&Aをやっていかないと生き残れないという焦りが背景にあるのだと思います。
最近、生保各社は、投資先企業に対する議決権行使を厳格化する方向にあります。投資先企業の業績が低迷しており、今後の改善に納得しない場合には、生保も反対票を投じる動きも出てきました。このように生保が「絶対的な安定株主」から「準安定株主」になりつつあると言えます。生保ですら同意なき買収をする時代ですから、一般の事業会社による同意なき買収も今後は益々増えるのではないでしょうか。