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ニデックの牧野フライス製作所に対する買収提案(9) - 景気変動の波に経営が大きく左右されないようにする
ニデックと牧野フライス製作所ですが、引き続き書面でのやりとりが続いておりますが、アップデート紹介をいたします。
中国の金型協会との会談結果
2/12にニデックが「株式会社牧野フライス製作所への公開買い付け予定に関する 浙江省模具行业协会(浙江省金型協会)との会談に関するお知らせ」のプレスリリースを公表しています。以下になります。
一部メディアによる中国金型工業協会などが今回の買収に対する懸念を表明していることを受け、浙江省金型協会というところと本年2 月8日に会談を行った模様です。
結果としては、「牧野フライス製作所の買収に関してニデック幹部とその後の綿密な意見交換を行うための強固な基盤を築くことができた。協会は今後も引き続き架け橋の役割を果たし、業界内の交流と協力のプラットフォームをさらに構築し、業界の持続的かつ健全な発展を促進し、より高いレベルへと引き上げていきたい」「さらにはニデックとは戦略的なパートナー関係を構築したい」というコメントを頂いたという記述がプレスリリースにあります。
これを読む限りですと買収後も良好な関係は維持できますという印象を受けます。
ニデックが2/14に回答を公表 - “景気変動の波に左右されない”
ニデックが牧野フライスからの質問に対して、2/14に回答したことのプレスリリースを公表しています。以下になります
色々と記載されていますが、個人的に興味深かったのは、プレスリリースのP29にある次の記載です。
本意向表明書にも記載致しておりますが、日本国内には 80 社以上の工作機械企業がひしめきあい、さらには景気変動の波に経営が大きく左右される構造があり、持続的な成長のために必要な投資を抑制せざるを得ない環境にあると考えております。一方、弊社グループにおいては、工作機械事業は弊社グループの一事業部となります。このことは、仮に工作機械業界全体が、景気の変動の波により不況の時には、他の事業部が支えることが出来るということであり、その逆も然りと言えます。つまり、弊社グループに入ってい ただければ、このような景気変動の波に経営が大きく左右される工作機械事業の市場構造に依存することなく、安定的かつ持続的な成長のために必要な投資を続けることができる、つまり技術、製品を継続的に開発し続けることができます。それは、工作機械専業メーカと比較すると企業として大きなメリットにな ると考えております。また、弊社は総合モータメーカであり幅広い産業に関連する工作機械のユーザでも あり、稀有でユニークな特長をもつ存在としてイノベーションや技術の将来的な視野を広くもち事業展開 ができる存在です。上記の観点からも、両者のシナジー最大化のためには、弊社グループにご参画してい ただくことが最善と考えております。
この説明って機関投資家にとっても興味深いかなと私は思いました。
工作機械業界は景気変動の影響を極端に受け、シクリカル性が高いと言われています。「工作機械産業は山の後に谷があり、数年ごとにこれを繰り返す「シクリカル産業」の典型」などと言われることもあります。半導体なんかも同じですね。結果、景気によって企業業績に大きなブレが生じるということです。
そういうビジネスである以上はやむをえないところはあるのですが、一方、機関投資家の中には、シクリカル性の高い事業に関して厳しい意見を持つ方もいます。「業績低迷の理由をシクリカル性を理由に掲げる企業もあるが、シクリカルの影響がある中でも一定の利益を出していくのが経営ではないのか」「業績低迷を景気を理由にするなら誰でも経営が出来るのではないか」といった厳し目の意見です。
つまり、企業経営は景気の波に晒されるのはやむを得ないところですが、それを少しでも低減する取組みをするのが経営であるという意見です。
事業構造を変えるってそんなに簡単ではないのだと思いますので、この意見が完全に正しいとは思えませんが、一理あるとは思います。景気のシクリカル性の影響を受ける業界はその影響を少しでも減らす取組みは経営トップの役割だと思います。業績のブレをなくすことは、その企業の株主資本コストが低下し、結果、企業価値、株式価値の向上に繋がりますので。
ということを考えると、プレスリリースで言っているようにニデックに買収されることで、牧野フライスは景気の波を受けるリスクが減り、結果、安定的に設備投資や研究開発投資が出来るのであれば、それは持続的な安定的な成長に繋がるので、機関投資家としては好ましいストーリーということになるかなと思います。勿論、これ以外のシナジー、ディスシナジーの比較検討が必要になるので全体として見る必要はありますが。
取引先株主の上場企業はプレスリリースをしっかり読むことが今後大事
ニデックと牧野フライスの書面でのやりとりがこれまでかなり続いており、今後も暫く続くのだと思います。牧野フライスの機関投資家株主はプレスリリースを丹念に読んでいるのだろうと思いますが、牧野フライスの取引先株主である上場企業も本件の経緯やニデックと牧野フライスの今後開示する情報は、しっかりウォッチし、整理した方がよいと思います。
もし、このまま同意なきTOBに進んだとした場合、取引先株主はニデックをサポ―トするのか、牧野フライスをサポートするのか、それとも中立の立場に立つのかのいずれかを選択することになりますが、その判断には自社の株主への説明責任を常に考える必要があります。
場合によっては取締役会で社外取締役に報告する必要があるかも知れませんし、取締役会で報告しないまでも、しかるべき機関決定が必要になるかも知れません。そのためには、担当者は一連のプレスリリースをしっかり読んで把握し、経営トップや社外取締役に説明できるようにしておくことが大事と思います。