投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」 のポイント - 個人投資家の企業との対話の手引書にもなりますね
「資本コストや株価を意識した経営」 のポイントと事例(案)の公表
1月に入って多くの機関投資家と集中的に対話をしましたが、それもようやく終わり、来週からは落ち着いて仕事が出来そうです。この週末は、新聞雑誌や機関投資家との対話の振り返り、保有銘柄の周辺情報の収集等をしています。
さて、1月17日開催の東証の市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の第14回で、英文開示がいよいよ義務化されることを前回、記事で紹介しましたが、第14回では、投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」 のポイントと事例案も議論されたようです。案は次のURLのとおりです。
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/bkk2ed0000006or2.pdf
株価を意識した経営の企業の開示状況が1月15日に公表されたわけですが、企業が株価を意識した経営にどう対応し、それをどう開示してよいかのポイントが記載されています。今後開示する企業にとって参考になる内容であり、また、個人投資家・個人株主にとっても投資先企業と対話・質問をする際の手引書になります。
現状分析・評価のポイント
まず企業には、現状分析が求められていますが、この点のポイントとして次の3点があげられています。①投資者の視点から資本コストを捉える ②投資者の視点を踏まえて多面的に分析・評価する ③バランスシートが効率的な状態となっているか点検する
①投資者の視点から資本コストを捉える
PBRを構成する要素であるROEを考えに先立ち、まずは株主資本コストの把握が大事です。自社で勝手に想定するのではなく、機関投資家の意見等も聞きながら、しっかり把握するの大事です。資料には次の記載があります(資料上の引用は以下のように囲むようにしています。また、太字は私がハイライトのため独自につけております。)
②投資者の視点を踏まえて多面的に分析・評価する
次に「投資者の視点を踏まえて多面的に分析・評価する」についですが、要は現状が株主資本コストを認識した上で、自社の現状を理解するが、その際にはPBR1倍超えであればよしとするのではなく、同業等との比較も行うなどして、更なる株価の向上を意識せよということです。
投資者が企業に期待する「取組みの検討・開示」のポイント
次に現状を認識した後に、取締役会で検討を⾏った上で、取り組みを決定し、その内容について現状評価とあわせて投資者にわかりやすく開示することが必要になります。社外取のいる取締役会で検討することが大事な点の1つでもあります。
ここでは、①経営資源の適切な配分を意識した抜本的な取組みを⾏う ②資本コストを低減させるという意識を持つ ③中⻑期的な企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度の設計を⾏う ④中⻑期的に目指す姿と紐づけて取組みを説明することが記載されています。
①経営資源の適切な配分を意識した抜本的な取組みを⾏う
これは、自社株買い等の一過性の施策でROE向上に走るのではなく、抜本的な対策を講じることが大事ということです。機関関投資家と対話をしていると彼らからも良くこの話は出てきます。
②資本コストを低減させるという意識を持つ
ROEを向上させることにばかり目が行きがですが、株主資本コストを下げることも意識せよということです。私は、資本コストを下げる要素は、収益性、成長性、予見可能性、経営力であると思っており、機関投資家との対話でもこの点で話をすることを心掛けています。
③中⻑期的な企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度の設計を⾏う
経営トップがリスクテイクをするには、やる気を出すような報酬制度であることが大事であり、また、上手くいなかった時には株主と同様の痛みを感じることが大事です。業績連動報酬の比率を高めるのが肝です。そういう報酬制度の設計にせよということです。
④中⻑期的に目指す姿と紐づけて取組みを説明すること
これはすごく大事です。その企業の中長期ビジョン・中期経営計画での成長性に結びつけよということです。そして、ここで意外に企業が見落としている点があります。
それは、いくら中期経営計画等を公表しても、その成長性に対して市場が確信を持たない限り株価は上がらないということです。中期経営計画で3年後のバラ色の業績を公表しても、その達成について投資家が確信をもってくれないと株価は上がりません。だから、中期経営計画を策定するのであれば、その達成に向けた手段と併せて、実現可能性を市場に示すことが大事です。掘り下げての開示又は説明ですね。
個人投資家・個人株主にとっての投資先企業との対話の手引書です
以上になります。開示がまだできていない企業は、ここで掲げているポイントを念頭において開示を今後検討する必要があります。後発は必ず先発より優れなければならないのは、世の常かと思います。1月15日に公表が出来ていない企業には大変かも知れませんが、開示の充実に努めるべきでしょう。また。個人投資家・個人株主はこの資料を存分に活用すべきと思います。自分の投資先企業との対話でのバイブルとなると思います。