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今さら聞けない株式投資での経営指標 ー 今回はPBRです


今回のお話のポイント(サマリー)

本日からプレゼン資料のエグゼクティブサマリーのように冒頭にポイントを整理するようにしてみました。今回の内容のサマリーは次のとおりです

1 PBRはROEとPERに分解して考えることが大事です
2 PBR1倍割れが続く企業は「市場退場すべし」と機関投資家から
  みなされる世の中です
3 個人投資家や個人株主も投資先企業の株価向上施策を質問しましょう

PBR(株価純資産倍率)

前回、ROEの初歩的なところをお話しましたが、本日はPBRについてお話をします。これもROEと同じく、この1年間で日経新聞やビジネス誌に頻繁に「これでもか!」というくらい出てきた用語ですね。日本語でいうと株価純資産倍率です。次の計算式で算出します。

PBR=株式時価総額÷純資産=株価÷1株当たり純資産

PBRが1倍を下回ると理論上、株式価値よりも解散価値の方が高いことになります。事業を継続するよりも会社を解散・清算した方がよいということで上場意義の乏しい会社と言われています。単純に解散価値の方が高いとは必ずしも言い切れるものではないのですが、それはさておき、PBRが1倍を下回る企業=株価が非常に低いということです。

PBRも分解することが大事です

このPBRですが、これも前回のROEでお話をしましたように分解することが出来ます。ご存じの方も多いと思いますが次のとおりです。

PBR=ROE×PER

ROEは前回お話のとおりですが、PERは株価収益率で計算式は次のとおりです。

PER=株式時価総額÷純利益=株価÷EPS(1株当たり当期純利益)

企業の成長に対する株式市場の期待が高い場合にはPERは高くなります。例えば、株式時価総額が200億円、本年度の通期業績が純利益予想が10億円の会社があるとした場合、この会社のPERは20倍です。

けどこの会社の業績が今後増加して、仮に来年度には純利益が20億円になった場合を想定すると今の株式時価総額で見ると10倍(=200億円÷20億円)になります。PERは低い、つまり割安と言えますね(PERの高低の絶対基準はありませんが、ざっくり14~15倍を下回ると低いと言えるでしょうか)。

このように、今時点の業績で算定したPERが高いということは、市場が将来の成長を期待しているということであり、一方、低いということは、将来の業績の成長への期待が乏しい見られていると言えます。

PBRを向上させるには、ROEとPERを向上させる必要があります。分かりやすく言いますと、利益率を上げROEを高め、その高いROEが今後も継続するであろうという期待を市場関係者に持たせることが大事です。

PBR1倍割れが続く上場企業は「市場退場せよ」と言われる世の中です

東証が2023年3月末に株価を意識した経営をプライム・スタンダード企業に適用し、株価向上を目指す施策を公表することを求めました。当時の東証の開示文は次のとおりです。

日経新聞でも毎月1回、新聞紙面に1面を使って企業名がでかでかと掲載されていますが、それはこの東証の要請を企業に守らせるため、わざわざ企業名を列挙させているのです。

株価を意識した施策をコーポレートガバナンス報告書で開示した企業名を日経新聞に大きく掲載しています。そこに記載のない会社は株価を意識した経営について開示していないということです。

新聞に記載されていない企業をシンプルに大きく分けると、PBRが2倍以上あるので東証の要請など気にしていない企業群、PBRは1倍を下回るが株価向上にそれほど強い使命感を感じていない企業群というように分かれるのではないでしょうか。

PBR2倍以上の企業は、学校の通信簿がオール8(10段階評価とした場合)のため、「それ以上の成績を上げることを俺に宣言させるの?」といった感じでしょうか。ま、これはその通りですね。この企業は正直、株価を意識した経営の開示など不要かも知れません。

問題は株価向上にそれほど強い使命感を感じていない企業です。この手の企業は安定株主比率も高く、機関投資家の保有比率が小さい企業が多いのではないでしょうか。一方、個人株主比率はそれなりに高いといった状況です。

この企業は機関投資家から株価が低いことの課題指摘を受けることもなく、一方、個人は不満に思っていても会社に何の文句も言わないので、結果として株価が低いことに対する問題意識が低いのだと想像します。

個人の方も会社に株価向上の施策について躊躇することなく質問しましょう

機関投資家と日々対話をしている企業は、株価への意識は強いです(意識は強いがPBR1倍以下の会社も多いという現実はありますが・・)。何故ならば、決算発表後のラージミーティングや経営トップとのスモールミーティング、機関投資家とのエンゲージメントの際に常にセルサイドのアナリストや機関投資家から、株価向上を常に指摘されるのです。いやでも株価を意識せざるを得ません。

けどそうでない企業、例えば機関投資家が保有比率が数パーセント程度しかない企業などは、そういう指摘を受けるケースはほとんどないのだと思います。ルサイドのアナリストもカバーしていないし。となると、あとは個人株主が頑張るしかないのです。

以前にも記事に書きましたが、個人株主の保有株数は極めて小さいので企業 の経営に与える影響はほとんどないのですが、その一方、個人株主が機関投資家と同程度の理論武装をして、合理的な質問を会社にすると会社の経営者は真摯に受けとめると思います

機関投資家が何か言っても「機関投資家は好き勝手言うよね」という経営層の方は意外に多かったりしますが(こういう意見を言う方は、IRの経験もなく株式市場のことをほぼ理解しておらず、かつ、その会社でしかサラリーマン経験のないプロパーの方が多いですが)、こういう方でも、何故か個人株主の質問は真面目に受け止める企業が多い印象を私は持ちます(証券会社勤務時の企業との会話や前職の事業会社でそう感じたことが多いです)。

株主総会は役員に選任される「神聖な儀式」という教育を役員の内示を受けた段階で先輩役員から受け、株主総会に参加する個人株主の意見を真面目に聞こうという考えによるものだと思います。
また、そもそも多くの経営層はIR担当役員を除き、株主と会話をするのは総会の時の個人株主が唯一の機会であり、総会に出席しない機関投資家はかなり遠い存在であり、「会社の株主=個人株主のみ」という根本的な理解不足が背景にあるのかも知れません。

多くの個人の方が、しっかりとコーポレートガバナンスを理解して、会社に合理的な質問をすることで会社の株価に対する姿勢も改善するように思います。

以上になります。ブログを読まれてお気づきのことやご質問、ご感想など何かありましたら、コメント又はnoteのトップページの一番下の「クリエイターにお問い合わせ」からご遠慮なくご連絡頂ければと思います。