【個人株主・投資家のための株主提案の考え方】- 鳥越製粉(2009)に対するLIM Japan Event Master Fundの株主提案①
鳥越製粉(2009)に投資ファンドが株主提案
アクティビストである投資ファンドから株主提案を受けている報道がありました鳥越製粉(低PBR銘柄)について前回、次の記事を掲載しました。
個人株主の方で「自分の投資先企業でも株主提案を目にするがどう考えればよいのだろうか?」と思う方は多いのだと思います。本日から、ケーススタディーとしていくつか株主提案の事例をあげて(そのなかには、投資ファンドの投資情報を見て私もコバンザメ投資している銘柄もありますが)、分かりやすい解説をしたいと思います。
「こういう視点で株主提案は検討すればよいんだ」ということで個人株主・個人投資家の方の参考になればと思います。
さて、その鳥越製粉ですが、株主提案と取締役会の意見を先日、次のとおり公表しています。株主提案者はLIM Japan Event Master Fundです。
株主提案は次の5つですね。
(1)剰余金の処分の件
(2) 自己株式の取得の件
(3) 定款一部変更(資本コストの開示)の件
(4) 定款一部変更(取締役報酬の個別開示)の件
(5) 定款一部変更(政策保有株式の売却)の件
企業の政策保有株式は最初に有価証券報告書を見ます
この中で個人的に面白ろそうだなと思ったものの1つは、定款一部変更(政策保有株式の売却)の件です。
最初に株主提案の内容を見てもよいのですが、一般的に政策保有株式の売却の株主提案の表題を見た場合には、「多分、この企業の政策保有株式は多いため、その売却とそれによる余剰資金の株主還元を求めているのだろうな」ということをまずは想像することが大事です。
そこで、鳥越製粉の政策保有株式がどのくらいあるか見ます。見るべき題材は有価証券報告書です。有価証券報告書で政策保有株式(純投資目的以外の投資株式)の銘柄数を過去4期分見ると次のとおりです。
第85期:非上場株式 11銘柄、上場株式 21銘柄
第86期:非上場株式 11銘柄、上場株式 22銘柄
第87期:非上場株式 11銘柄、上場株式 22銘柄
第88期:非上場株式 11銘柄、上場株式 22銘柄
過去4年の推移をみる限りにおいては、政策保有株式の保有銘柄数に変動が見られませんね。コーポレートガバナンス・コードでは縮減を企業に求めており、多くの機関投資家も企業の政策保有株式については基本的に「ゼロにすべし」というスタンスです。鳥越製粉は政策保有株式の銘柄数の縮減は、少なくともこの4年間は進んでいないということが言えそうです。
政策保有株式の保有のスタンスについてコーポレートガバナンス報告書を見ます
政策保有株式を持っており、少なくともこの4年間は銘柄数の縮減が進んでいないことが分かりました。次に確認すべきは、企業は政策保有株式についてどういうスタンスでいるかです。そして、これについてはコーポレートガバナンス報告書を確認します。
コーポレートガバナンス報告書に【原則1-4 政策保有株式】という記載の箇所がありますので、上場企業各社はそこで政策保有株式に関する自社のスタンスを開示することになっています。
では、鳥越製粉の開示を見てみましょう。同社の2023年3月31日付けのコーポレートガバナンス報告書から抜粋すると次のとおりです。
太字は私がハイライトした箇所になりますが、ここが肝です。つまり年2回取締役会で検証しており、その結果として経済合理性等があるため保有を継続しているということのようです。
企業によっては、最初に縮減ありきという姿勢を前面的に掲げている企業も時々目にします。その方が株式市場関係者の受けはよいです。
けど、私の長年の実務感覚では、「保有の合理性がある場合には保有し、検証の結果、保有の合理性がなくなった場合には売却します」という趣旨の開示企業が圧倒的に多い気がします。この点からは、鳥越製粉の開示も多くの企業の開示と同じような内容になっていると言えるように思います(多くの企業の開示が果たして資本市場関係者の視点からすると妥当かどうかの議論はありますが)。
取締役会での保有の検証の具体的内容が肝
次に見るべきは取締役会の検証方法です。コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会は毎年、政策保有株式の保有の合理性について検証せよとあるので、ほとんどの企業ではコーポレートガバナンス報告書で「検証している」旨の記述があります。
けど、問題は検証の具体的手法を開示している企業が極めて少ないという点です。検証の具体的手法が分からない限り、つまりブラックボックスになっている限り、本当に適切に検証がされているか否かは外部からは分かりませんよね。
検証の具体的手法は企業によって様々であり、画一的に定められてはいませんが、恐らく定量評価と定性評価をされている企業が多いように想像します(真面目にやっている企業の場合ですが)。
定量評価としては投資先企業の株主資本コストと実際のその企業のROE
を比較して、リターンを上回る資本収益性があるか否かなどです。その上で、担当する社内の事業部門や調達部門の意見等の定性情報を聞いて保有の必要があるか否かを判断するのだと思います。とは言え、結局は、定量評価してROEが低いから売却するという判断はしておらず、取引関係を考慮して、つまり株式を売却することで取引量が削減されたりしないかなどを見て、保有を判断しているのが多くの企業の現実かと思います。
いずれせよ具体的に取締役会ではどういう検証をしているかを確認することが大事です。鳥越製粉でも多くの企業と同様にこの点の詳細開示はありませんので、外からは不明です。
私が鳥越製粉の株主であれば、「政策保有株式の縮減が進んでいないようであるが、取締役会でどういう検証をしているのか、そして検証の結果、保有する合理性の具体的内容を教えて下さい」「保有することがどうして企業価値向上に資するのか教えて下さい」という質問をするかなと思います。
政策保有株式を売却することで取引を減らすことはダメです
ところで先ほど「株式を売却することで取引量が削減されたりしないか」を踏まえて多くの企業では検証していると書きましたが、実は、これは本来おかしいのです。コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-4①に次の記述があります。
このため、定性情報の検証で取引量の削減のリスクを懸念する必要はないのですが、そこは長年の取引慣行があること、また、多くの企業の調達部門や営業部門の方はコーポレートガバナンス・コードなどを読んだこともない方も多いので、なかなか理解されていないのが現実ではあります。
ということで、少し長くなりましたので、本日はここまでとして、次回は具体的な株主提案の内容とそれに対する取締役会の意見を見て行きたいと思います。