コーポレートガバナンス改革の主な経緯 - まずはこれをざっと把握しましょう
コーポレートガバナンス改革で押さえるべき指針など
先日から「ヤメ銀 銀行を飛び出すバンカー」(文春新書)を読んでいますが面白いです。筆者はLIXILの創業家と雇われ社長の攻防である「決戦!株主総会」を書いた方ですが、後日、書評で紹介したいと思います。
本題に入りますが、本日は日本のコーポレートガバナンス改革の中での主な指針などを簡単に紹介いたします。内容を詳しく説明し始めると分量がかなり多くなってしまいますので、まずは「これを押さえておきましょう」的な意味で、主な金融庁、東証、経産省の指針について紹介をいたします。紹介する内容は以下のものです。
◆ スチュワードシップ・コード(14年策定、17年・20年改訂)
◆ コーポレートガバナンス・コード(15年策定、18年・21年改訂)
◆ 投資家と企業の対話ガイドライン(18年策定、21年改訂)
◆ 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(23年3月)
◆ 企業買収における行動指針(23年8月)
スチュワードシップ・コード
最初にスチュワードシップ・コードです。以下になります。https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20200324/01.pdf
これは機関投資家に対する行動原則です。機関投資家が投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか、運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な対話を通じて企業の持続的成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大という責任(スチュワードシップ責任)を果たすための行動原則をいいます。
2014年に策定され、その後、2017年と2020年に改訂されています。具体的な記載事項のポイントは以下のとおりです。
この中で、5つ目に記載の事項である議決権行使結果の個別開示が企業側にとって大きな影響のあるところです。つまり、投資先企業の株主総会の議案毎に対する賛否結果を詳細に開示せよということです。このため、機関投資家もこれまでのような企業との商売の関係性を踏まえて賛否の判断をするといったテキトーな議決権行使が出来なくなったのです。従って、企業側もこれまで真剣に考えていなかった利益率向上、ROE改善に真面目に取り組まざるを得なくなったのです。
このスチュワードシップ・コードは、機関投資家の行動原則であるため、事業会社の方でしっかりと読んだという人は意外に少ないのだと思います。けど、運用会社(機関投資家)と対話をするような部門の方であれば、自分の対話先がどういうことをアセットオーナーから求められているのか、そのためどういう行動をするのかを知る上で一度目を通されると良いと思います。
コーポレーガバナンス・コード
コーポレーガバナンス・コードは以下になります。
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
これはこのnoteでも連載しておりますので、詳しい説明は省きますが、事業会社のみならず、多くの機関投資家、アクティビストの方も熟知されているところかと思います。
この数年、国内外のアクティビストの日本企業に対する行動が激しく、日本はアクティビスト天国とも言われていますが、アクティビストが企業を攻める際の理論武装がこのコーポレートガバナンス・コードです。アクティビストの公開書簡や株主提案を見ると、色々なところで、コーポレートガバナンスコードの原則や補充原則を引用して、企業に提案をしていることが分かります。
たいして深く考えずに「当社はコンプライ(遵守)しています」という企業は非常に多いですが、そのようなイージーな考えでいるとアクティビストに突っ込まれた時に非常に困ります。来年の株主総会に向けて企業各社はコーポレートガバナンス・コードをしっかりと読むことをお薦めします。
投資家と企業の対話ガイドライン
投資家と企業の対話ガイドラインは以下になります。https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210611-1/01.pdf
2018年に制定され、コーポレートガバナンス・コードの改訂の時に改訂されています。機関投資家と企業との間で対話をする際の手引書のような位置づけです。
機関投資家はこれまで短期の四半期決算の数値を企業に聞くことに慣れてしまっており、中長期で企業に投資する上での企業に確認すべき視点が必ずしも十分でないため、このガイドラインを使って企業の稼ぐ力を高めるような対話をせよということです。機関投資家と対話を企画するような場合には、事業会社の方は一度このガイドラインにきちんと目を通し、対話に参加するCEOなどにも十分に説明して、ガイドラインで書かれた事項を対話のテーマにすると良いかなと思います。そうすることで実りのある対話になると思います。
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応は以下になります。
https://www.jpx.co.jp/news/1020/cg27su000000427f-att/cg27su00000042a2.pdf
これは東証が2023年3月31日に上場企業各社に通知しました。要は次の3点を整理して、企業は開示せよということです。対象企業はプライム市場・スタンダード市場の全上場会社です。
現状の株価の評価 ⇒ 自社の資本収益性や市場評価に関する分析・評価について、投資者にわかりやすい形で示すこと
方針・目標 ⇒ 資本収益性や市場評価に関して、改善に向けた方針や具体的な目標について、投資者にわかりやすい形で示すこと。目標の設定に当たっては、具体的な到達水準・到達時期を示す方法のほか、目指すレンジを示す方法やROEやEPS(1株当たり利益)の成長率など 変化率のトレンドを示す形も考えられる
取組み・実施時期 ⇒ 資本収益性や市場評価の改善に向けた具体的な取組みや施策の実施時期について、投資者にわかりやすく示すこと
この要請で、企業各社は株価を上げること、つまり最低でもPBR1倍以上にすることが求められ、日経新聞でも企業各社が取組みを開示しているか否かが1面を使って大きく公表されているところです。
東証は株式売買の場を提供するところであり、企業に株価向上を促す役割はなかったので、当初、これが出た時には驚かれた市場関係者や企業の方は大変多かったと思います。けど、今はPBR1倍は企業の必達の最低減の目標というのが常識になりつつあり、東証が株価向上を企業に求めることの違和感もなくなっています。
このnoteでもちょくちょく紹介しております機関投資家の議決権行使基準でも経営トップなどの賛成基準でROEだけでなく、PBRも盛り込むところも増えているところです。
企業買収における行動指針
企業買収における行動指針は以下になります。
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003-a.pdf
これもnoteで何度も触れてきましたが、企業が買収提案を受けた時にどのように行動をするかの指針です。これまでは、買収提案があってもそれについて企業はどうすべきという指針はなく、水面下での買収提案をうやむやにしてしまうケースも多かったと言われています。それが、この指針の策定により企業はしっかりと検討し、その結果を株主に公表することが求められました。
最近で大きな話題になっているクシュタール社によるセブン&アイHDへの買収提案などは、まさしくセブン&アイはこの指針に沿った対応が求められているところです。
本日は以上になります。記事を読まれてお気づきのことやご質問、ご感想など何かありましたら、コメント又はnoteのトップページの一番下の「クリエイターにお問い合わせ」からお気軽にご連絡を頂ければと思います。