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ニデックの牧野フライス製作所に対する買収提案(2) - 年も明けたので前回記事からプラスαで解説します

昨年末にニデックの牧野フライス製作所(以下、マキノ)に対する買収提案のプレスリリースを簡単ではありますがご紹介いたしました。私も年末でバタバタしておりましたので、プレスリリースの文章を紹介するなどの簡単な説明で終わってしまいましたが、年も明けましたので、あらためて今後のポイントなども含めてお話をしたいと思います。


ニデックによる買収提案の経緯

これまでの動きは以下になります。
◆12月27日 ニデック:公開買付の開始予告の公表
◆12月27日 マキノ:今後精査する旨の公表
 
今後はここに時系列で開示の都度アップしていきます。昨日の報道では特別委員会を設置するとのことですが、現時点ではマキノからのプレスリリースは出ていません。

今回の買収価格

ニデックによる買収価格ですが1株あたり11,000円です。TOBを公表してから株価がかなり上昇していますが、買収価格は以下のようになっています。
 ・ 基準日(24年12月26日)終値7,750円に対して41.94% 
 ・1ヶ月終値単純平均値7,112円に対して54.67%
 ・3ヶ月終値単純平均値6,552円に対して67.89% 
 ・6ヶ月終値単純平均値6,313円に対して74.24%

24年12月26日時点でマキノのPBRは1倍未満であるところ、今回の買収価格はPBR1.19倍に相当する水準であり、マキノの株主に大きなプレミアムの付いた価格と言えます。マキノの株主には「とても美味しい話」かと。

買収提案を受けた対象会社の取締役会がやるべきこと - ざっくりこんなことです

これは何度か説明しております「企業買収における行動指針」で定められていますが、一言でいいますと取締役会は会社に提案された買収内容の真摯な検討をせよということです。そして、取締役会が検討すべき事項として3つあります。

  1. 提示される買収価格等の条件は軽視されてはならない。株価水準より高 い買収価格の場合、十分に検討すること

  2. 提示された買収価格・企業価値向上施策と現経営陣の下での企業価値向上施策を定量的観点から十分に比較考量すること

  3. 買収提案への諾否の合理性は、説明責任を果たせるようにすべき

この点は、ニデックのプレスリリースでも次の記載があります。

企業買収行動指針においては、「経営支配権を取得する旨の買収提案を受領した場合には、速やかに取締役会に付議又は報告することが原則となる。」「付議された取締役会では、『真摯な買収提案』に対しては『真摯な検討』をすることが基本となる。」「『真摯な買収提案』であるとして、取締役会が『真摯 な検討』を進める際には、買収提案についての追加的な情報を買収者から得つつ、(中略)企業価値の 向上に資するかどうかの観点から買収の是非を検討することとなる。(中略)この際、(中略)過去の 株価水準よりも相応に高い買収価格が示されていることから、合理的に考えれば企業価値を高めるこ とが期待し得る提案であれば、取締役・取締役会としてはこれを十分に検討する必要がある。また、 取締役会は、買収者が提示する買収価格や企業価値向上策と現経営陣が経営する場合の企業価値向上 策を、定量的な観点から十分に比較検討することが望ましい。」旨が定められております。

企業買収における行動指針

ちなみに買収防衛策の発動はあるか?

数年前ですと、同意なき買収(昔でいう敵対的買収)の場合には対象会社は買収防衛策の発動も一応考えられました。「同意なき買収なんてマナー違反である。対抗してしかるべき!」という風潮です。けど、この1~2年で大きく風潮は変わりましたね。

最近の事例を見ると、投資ファンドが経営方針が不明瞭なまま会社を支配しようとする例外的な場合を除いて買収防衛策の発動は難しいと思います。仮に取締役会の決議で買収防衛策を導入・発動したとしても、その後に開催する株主意思確認総会で株主の賛同を得ることが難しいということです。

事業会社による合理的な買収提案に買収防衛策で対抗することは出来ないという結論になるように思います。実際にこの数年の事業会社による買収事例を見ても、SBI ホールディングスによる新生銀行の買収の際に新生銀行が買収防衛策の導入を検討したという事案を除いて(その後、断念)、買収防衛策の事例は目にしていないように思います。

マキノの中期経営計画

先ほど紹介しました取締役会が検討すべき事項の中の2つ目にある「提示された買収価格・企業価値向上施策と現経営陣の下での企業価値向上施策を定量的観点から十分に比較考量すること」が大事です。これが肝です。

買収者であるニデックの買収価格は買収提案の前日のマキノ終値よりかなり高い価格ですが、今後、この価格のTOBにマキノの取締役会が反対するとした場合、マキノの取締役会はニデックの傘下に入らずとも買収価格を超える高い企業価値を生み出すことを定量的に説明することが必要になります。

となるとまず見るべきはマキノの現状の中期経営計画です。

マキノの中期経営計画は次のとおりです。企価値向上に向けた 取り組みに記載があります。

ちなみに、マキノのFY23の売上高は2,253億円、営業利益率は7.8%、FY24の業績予想は売上高2,250億円、営業利益170億円・営業利益率7.6%となっています。

この中期経営計画をベースに市場関係者がマキノの企業価値をいくらと算定しているかは私は分かりませんが、もし、この中期経営計画をベースに算定されるマキノの企業価値・株式価値が買収価格より低いということであれば、ニデックの買収に反対するとした場合、マキノはより高い数値目標の事業計画を出して株主に説明することが必要になるのかも知れません。

個人的には、市場環境が大きく好転しない限り既に開示している中期経営計画の数値、特にトップラインを大きく上振れ変更することは難しいと思いますので(私はメーカーのことはあまり詳しくはないですが)、他社とのアライアンスであったり、トップラインは大きく変更せずともコスト構造を大きく変えるなどの抜本的な方策での事業計画が必要になるように想像します。

いずれにせよ、企業買収における行動指針に従えば、マキノの経営陣は株主に対する定量的な説得力の高い説明が求められることになります。

マキノの今後の動きは?

昨日、マキノが特別委員会の設置を検討しているとの新聞報道がありました。「企業買収における行動指針」によれば特別委員会組成について次の記載があります。

特別委員会の構成としては、①会社に対して法律上の義務と責任を負い、②取締役会の構成員として経営判断に直接関与することが予定された者であり、③対象会社の事業にも一定の知見を有している、社外取締役を中心とすることが基本である35。なお、金融商品取引所に独立役員として届け出られている独立社外取締役であっても、買収の当事者からの独立性や当該買収の成否からの独立性(株主とは異なる重要な利害関係を有していないこと)が認められない場合もあることには留意が必要である3

企業買収における行動指針

要は社外取締役が中心になるということです。外部の弁護士やコンサル会社のコンサルタントを委員に入れることも勿論可能ですが、買収指針では、善管注意義務を有する社外取締役が好ましいということです。

なお、特別委員会がどういう場合に必要であるかも買収指針に記載があります。以下になります。

特に取締役会の過半数が社外取締役でない会社においては、取締役会の独立性を補完し、取引の公正性を確保するために、独立した特別委員会を設置し、その判断を尊重することが有益と考えられる。
他方で、MBOや支配株主による従属会社の買収(構造的な利益相反の問題が存在する取引)以外の一般的な買収においては、買収提案を受領した初期の段階では買収が行われる蓋然性が低い場合もあり、その段階から常に特別委員会の設置を必要とすることは、会社側の負担を過度なものとするおそれもある。また、特別委員会が有用と考えられる場合でも、社外取締役が取締役会の過半数を占める会社においては、別途、特別委員会を設置する意義は相対的に小さいとも考えられる。

企業買収における行動指針

本日は以上になります。なお、本件に開して今後、もし対抗買収提案が出たような場合には、ニデック、マキノ双方に製品を納入しているマキノの取引先株主はニデックの提案と対抗提案のいずれに応募すれば良いのか悩ましい局面も出てきます。

今後も注視していきたいと思います。

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