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「企業買収における行動指針」ー経産省が策定・公表しました

「はてなブログ」ではこれまで経緯を何度か記事で書いていたのですが、8月31日に経産省が「企業買収における行動指針」を策定しました。次のとおりです。

私はこの指針は、公正な買収の在り方の研究会が正式に立ち上がる前後から注視しており、社内でも関係マネジメントとは情報を共有してきたり、時々、機関投資家とも会話をしていました。パブコメが8月初旬に締め切られ、公表の時期は秋頃かなと思っていましたが、意外に早く公表された印象です。

本日は、この指針について、ポイントだけをごくごく簡単に紹介したいと思います。

まずこの指針の策定の趣旨です。これは指針にも記載されていますが、公正なM&A市場を整備することで、市場機能が健全に発揮され、経済社会にとって望ましい買収が活発に行われることを目指すことです。
合理性のある買収の提案を受けた場合、会社はしっかりとその提案内容を検討せよ、仮に買収に反対するにせよ、株主にきちんと何故反対したのか説明せよといったことも記載されています。要するに、経産省は、企業間の買収を促進したいという強い思いがあるということです

では、どうして買収を促進したいのでしょうか?つまり、買収のメリットは何かということです。

指針の中では買収のメリットとして以下があげられています。

➀企業の成長に資する
②会社にとって優れた経営戦略を選択する機会確保
③経営に対する外部からの規律の向上
③業界再編の進展
④資本効率性の低い日本の資本市場の健全な新陳代謝

いずれも重要な点です。特に④が肝かなと思います。買収自体を企業の稼ぐ力を高めるための有効な手法であると経産省は考えているということです。この指針で大事な点の1つは、買収に対する当事者の行動の在り方です。つまり、経営陣や取締役会に一定の行動が求められています。それを私なりに自分の言葉で整理しますと次のようなことかと思います。

  1. 会社の取締役・取締役会には、平時から経営努力を尽くし、企業価値を高め、それが株式時価総額に反映されるための取組みが求められる

  2. 経営陣は、買収提案を受けた時は、速やかに取締役会に付議又は報告。 具体的のある望ましい買収の顕在化の機会を失わせてはならない

  3. 取締役会では真摯な検討をする

3の点をさらにブレークダウンすると、ざっくりと2つあるかなと思います。

1つ目は、提示される買収価格等の条件は軽視されてはならず、株価水準より高い買収価格の場合、十分に検討することが必要。こんなことが1つあるかなと思います。

2つ目は提示された買収価格・企業価値向上施策と現経営陣の下での企業価値向上施策を定量的観点から十分に比較考量することです。

少し分かりやすく説明しますと、例えば、会社の市場株価が1000円であるところ、30%のプレミアムのついた1300円で同業の事業会社からTOBの提案があった場合、この1300円の前提となる買収者の戦略と自社単独での株価向上施策を定量的に比較して、会社は1300円を超えることが出来るかを検討せよということです。
結果として、1300円を超えることが出来なければ買収を受け入れよということかと思います。

収益性が低く、市場株価の低い企業は、今後は敵対的買収(=同意なき買収)のリスクが極めて高くなったと考えた方がよいのではと思います。合理性のある買収提案を真摯に検討して、株主に説明することが求められるのですから。仮に、有事型の買収防衛策を株主の賛同を得て導入したとしても真摯な検討がないと、後日、買収者から対抗措置の発動の差し止め請求があり、裁判で負ける可能性が出てくるかもしれません。

ところで、今回の指針は買収防衛策の在り方についても書かれていますが、これは次回以降に説明をしたいと思います。