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クシュタール社のセブン&アイHDへの買収提案 ー セブン&アイがコンビニ事業へ集中姿勢。事業分離はスピードが肝です


セブン&アイがコンビニ事業への集中姿勢

既に新聞やテレビでも大きく報道のとおりですが、クシュタール社から買収提案を受けているセブン&アイHDが先日の2Q決算発表で今後の再編施策を以下のとおり公表しました。

https://www.7andi.com/ir/file/library/ks/pdf/2024_1010ks_01.pdf

株式会社ヨーク・ホールディングスという中間持株会社を設⽴、戦略的パートナーの招聘を通じて25年度中に持分法適⽤会社化、ならびに⾃律的成⻑を加速させるようです。

中間持株会社の設立に関するプレスリリースも出しています。

https://www.7andi.com/library/dbps_data/_material_/localhost/ja/release_pdf/2024_1010_ir02.pdf

設立の目的に次の記載があります。

プレスリリース「中間持株会社設立に関するお知らせ」より抜粋

要するにコンビ二事業以外をノンコア事業として戦略的パートナーを探しつつの売却の方向とし、コンビニ事業に経営資源を集中するということですね。ただ、この戦略ではコンビニ事業の足元の業績に鑑みて、クシュタール社の提案する買収価格を上回る事業価値を生み出せないのではないかというネガティブな報道も見られます。

迅速な事業売却をしないと事業は劣化します

今回、セブン&アイはノンコア事業の事業分離を進める姿勢を明確にしました。新聞報道によれば、当初、スーパー事業は27年度以降にIPOをする予定だったようですね。その計画を海外ファンドなどの出資を募り、売却手続きを急ぐということです。

事業分離(スピンアウト)を公表した後に気をつけることがあります。それは、企業がスピンアウトの方向を公表した後は、それを迅速に進めないと対象事業が劣化するリスクがあるという点です。

私が5~6年前に聞いた話ですが、ある企業(上場企業のメーカー)では某事業について売上が伸び悩む中、この事業の研究開発費が高いため会社全体の利益にマイナス影響を及ぼしていました。そこでノンコア事業のスピンアウトを前提に、投資ファンドと合弁会社を設立しました(仮にX社とします)。

投資ファンドは事業運営をするわけでないので、ネットワークでX社の戦略的なパートナーをグローバルで探し、最終的にはパートナーにX社の株式を全て譲渡する予定でしたが、なかなか戦略的パートナーである事業会社を見つけることが出来ませんでした。

その間、X社の社員は自分たちの先行きが不安になり、優秀な技術者がどんどん退職してしまったようなのです。戦略的パートナーがどこになるかも分からないまま、候補先はいくつか出ていたのですが機密性が高いため社員たちには一切知らされることもなく、結果、X社の社員たちは宙ぶらりんの状態に置かれ、優秀な技術者から次々と辞めて行ったのです。

有能な技術者が退職しても、会社としての現状のビジネス案件はとれているので、すぐに会社の競争力が落ちることはないのですが、中長期で見ると確実にメーカーの競争力は落ちます。それは技術力が低下し、案件を受注することが出来なくなるのです。という状況下で、中長期で競争力が高い確率で下がるメーカーと組みたいという戦略的パートナーは長期に亘り見つからなかったようです(最終的にどうなったかは分かりません)。

このようにノンコアと判断された事業は、迅速に戦略的パートナーを見つけないと当該事業の社員のモチベーションは大きく下がり、確実に優秀な人材から会社を去り、事業価値も大きく低下します。結局、転職も出来ない能力の乏しい人材(「実務能力の乏しい」経営層もここに含まれます)だけが会社に残って、買手や戦略的パートナー探しに難航したなんてケースは良く聞きます。
セブン&アイの内情は私は分かりませんが、一度、事業分離を判断した以上は迅速な対応が必要になるのだと思います。